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早池峰山
播磨 順子

山行日 1977年7月16日~17日
メンバー (L)播磨(忠)、播磨(順)、鈴木(隆)、庭野、島田、木村、関

 早池峰という響きのいい名前で、そして日本のエーデルワイスがあるというこの山は早くから私の胸の中にありながら、まだ一度も目にしたことも足を踏み入れたこともなかった。あまりにも奥深く交通が非常に不便であったのが、数年前テレビドラマの舞台となって一躍早池峰の名前は響き渡った。
 7月15日、関東の梅雨明けと同時に上野を発った。東北の梅雨明けは未だなのに....という不安が頭の中をかすめたけれど目を覚まして列車の窓から覗くと青々とした早暁の北上平野を走っていた。花巻に着くまでたっぷり寝ることができました。始発のバスが来るには後2時間ほど待たねばならず三組に分かれてタクシーで河原坊まで入ることにしました。いつものことながら自分の降りた駅で下車する登山者は同じ山に登るのかなーという気持ちが湧いてがっかりするのですが今回も全員(に近いものと思われる)が早池峰までのタクシーを利用している様子。さぞかし頂上は賑やかだろう....タクシーは道路工事のため河原坊まで入れず途中で下車。二番目くらいに早く着いた我々はいつもながら出掛けるときはもう後に誰もいないという出発でした。まあ、いいさ、いいさ、今日中に上に着けばいいんだ、花を見に来たのだから。天候は次第に良くなり日焼けの心配が起きてきました。念入りに防御し手袋をし河原坊に着いた時は眩しいほどの日差しになり心の中で『やっぱりデストロイヤーみたいな手拭を作ればよかった』等と後悔しながらいよいよ登山口。しばらくは沢沿いなので沢音が涼しい....けれど久しぶりの重労働に汗が滝のように出る。急な登りだが沢沿いのせいか気になる登りではない。頭垢離にて鈴木さん差し入れのメロンをいただく。ここが水場の最後なので各自ポリタンに水を詰め出発。ここで沢を離れ尾根登りになるがこの辺りは草木帯でミヤマオダマキ、ハヤチネウスユキソウが這松の間を彩る。尾根に出ると岩石地帯に差しかかり上に行くほど巨岩がゴロゴロ転がっている。初めて目にするウスユキソウ、決して綺麗とは呼び難いけれど白くて柔らかい綿毛を被っている何とも清楚な花だ。一面咲いている辺りに来ると一本立て、ちょっと行ってまた一本たて....という具合に花を見ながらの急登も頭上に城塞のように巨岩が立ち並んでいる所まで来るともう頂上は間近。岩の間を通り抜けるとやっと頂上に立ちました。頂上は例のごとく大勢の登山客、人混みを避けロボット測候所の近くで昼食を摂ったり、昼寝をしたり、花を撮りにいく人あり、巨岩相手にロッククライミングの練習する人あり、各自色々と山頂での一時を楽しみました。そろそろ日が傾きかけた頃、山頂での幕営禁止という不安を抱いてウロウロとテント場探し、山頂より巨岩の間についている水場への赤ペンキの道標に従って少し下った所にテントを広げ料理にかかったりするのですが水場より一目瞭然のあのけばけばしいテントの色が水を汲みに来る登山者の目について彼等に口止めをしにいく始末。山頂の小屋は物凄い混雑で我々が加わったら更にひどくなるので黙っていてくれるというくらいでした。女性の参加者が多いと食事が良いのは何年経っても同じこと、インスタントカレー(ボンカレーのようなもの)などが出てきたらガッカリしてしまいます。夕方、近くの岩場でテンを見つけたのです。未だ子供らしく人間相手に遊んでいるのかと思うほど、チョロチョロ出てきてかわゆい、毛皮だったら高いのになあ....またまた、俗人の考えが浮かんでくるのでした。夕日を見つめながら「少しね」分け合ったたった1本のウィスキー(島田さん所有)、少し少しが高じて遂にカラッポになり、テントの中でフォークソングなどに耳を傾け、さてねぐらへ帰ろうとした時、鈴木さんの靴が見つからない!。彼は懐中電灯片手にあちら探し、こちら探し、挙句の果てテンかたぬきかーということになり、とにかく真っ暗明日探してみようということになり消灯。夜中にひどい雨が降ったのにテントの下は這松のカーペットのため全く濡れず快適な一夜でした。
 翌17日、テント撤収時の驚き....昨夜の靴泥棒は何とメグちゃんだったのです。しかもテントの入口の人が一番怪しまれるのに一番奥までザックと靴を引っ張り込んで知らん顔....、とにかく見つかってよかった。8時出発、山頂まで戻り記念写真を撮り下山となり、途中岩の後などにテントを4、5張り見つけた。天気は高曇り、下からゾロゾロ登って来る。何でも遠野からバス3台で来たという団体には驚いた。幾人もの登山家で巨岩の登山口の道はつるつるになって滑りやすく冷や汗をかかされた。小田越まで下山すること2時間。小田越には大きな鳥居があり、そこから早池峰はとても美しかった。これより林道を歩くこと2時間、自分のペースでテクテク。明日からまた家の仕事をしなくちゃ、そう言えばあの娘はどうしているかな?などなど考えながら岳に着いた頃はポツポツと雨が降り始め、やがてその雨は滝のようにタクシーのフロントガラスに流れ、雨雲の中を通り花巻に着いた。


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