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気象講座 その7
春田 正男

◯移動性高気圧
 春や秋にはよく移動性高気圧が通過する。移動性高気圧は天気図では比較的円形や楕円形をしており、割合と規則正しく移動してゆき、その後から必ず低気圧や気圧の谷が続いて現れるのが特徴である。北太平洋高気圧は非常に大きく、強くなったり弱くなったりを繰り返すが移動していくことはない。シベリア高気圧などは大きく見れば移動性高気圧と言えないこともないが、冬期大陸では常に気圧が高く、低気圧が現れることもほとんどなく、高気圧が規則正しく移動することもない。満州東部や日本付近に張り出した高気圧が分離し移動性高気圧となって東進するものはよくある。2月頃になると大陸の高気圧が弱まり時々大陸に低気圧が現れ東進するようになると移動性高気圧が現れてくる。
 移動性高気圧が周期的に頻繁に現れるのは春と秋である。春と秋だけでなく一年を通じて現れている。ただ季節によってその経路や規模が違うことは言うまでもない。冬は満州から日本付近に南東進してくるもの、蒙古から東支那海、日本の南海上に現れるものなどが多く、東進するに従い弱まるのが普通である。
夏は本州付近は北太平洋高気圧の勢力下に入るので移動性高気圧は満州やシベリヤから北日本を通過し、春秋の候は本州付近を頻繁に通る。高気圧や低気圧が移動するのは偏西風の影響であるといわれ、波の峰の部分が地上の高気圧、谷の部分は地上の気圧の谷や低気圧に対応し、偏西風の波の進行に連れて移動すると考えられている。このため移動性高気圧の後には低気圧が続き、その後からまた高気圧が続く。
 春や秋の天気の変わりやすいのもこのためで、良い天気は2日も3日も続くことは少ないが回復もまた早い。天気が3日か4日くらいに周期的に変化することが大きな特徴である。移動性高気圧の速さは40~50kmくらいのものが多く、一日に1000kmくらい、緯度にして約10度くらい移動することもある。このため黄海や東支那海に現れる高気圧は翌日は日本の東海上に進んできます。
 春は花曇りの天気が多いが花曇りは移動性高気圧の後面に入り高層雲が現れてきた時の空模様である。また日や月に傘ができると雨といわれているが、日や月の傘も移動性高気圧の後面の巻層雲に出来ることが多く雨となる率が多い。高気圧の中心から東側で天気の良いのは下降気流のためで、高気圧から低気圧に向かって流れ出す空気を補うため中心付近では下降気流が起こっている。下降する気流は断熱的に収縮するため気温が上がり雲が出来ない。高気圧内では中心から風が吹き出しているため東側では北風が吹き寒く、東の端では寒冷前線を作っている。この前線は南側では停滞前線となり更に西に延び、次の低気圧の温暖前線となっている。このため高気圧の前面では寒く、中心の通過後は南風となり暖かい。移動性高気圧が現れる頃、気温の変化の激しいのはこのためである。
 移動性高気圧の天気のもう一つの特徴は高気圧の中心付近では夜間の冷え込みが強いことである。風が収まりよく晴れると地面の冷却する割合が大きくなる。移動性高気圧は大陸から寒気を伴ってくるため気温が下がり寒波をもたらすことが多く、中心付近では夜間の冷え込みと相まって強い霜や霧を発生させる。4月から5月にかけて晩霜による農作物に多大の損害を与えるのはこの移動性高気圧のいたずらである。従ってこの頃の移動性高気圧は特に気温に注意することが大切である。濃霧の発生は秋の頃が多いが夕刻過ぎに雨が上がり急に晴れた場合には特に濃霧が発生しやすい。

◯梅雨型(1)
 日本付近では毎年5月の末頃から7月にかけて陰雲多湿な、いわゆるうっとうしい天気が続き、雨の降る日が多い。一般にこの時期を梅雨といっている。北の寒冷な高気圧と南の温暖な高気圧との接触している停滞前線付近で降る長雨といっている。この天気の悪い区域は冬期は台湾の南付近を東西に延び存在しているが、季節が進むに従い北上し5月上旬頃は小笠原諸島から南西諸島付近に現れてくる。5月上旬頃になると南日本から関東付近に北上して梅雨の走りが現れる。そして平年では6月上旬頃、本格的な梅雨に入る。
 入梅の時期や期間、あるいは雨の多い少ないなどは毎年同じでなく、時には空梅雨のこともあり東日本に雨が多く西日本では雨の降らないこともある。

梅雨型(2)
 5月頃になると北太平洋高気圧の勢力も次第に強まり日本の南方海上に張り出してくる。一方日本の北を通る寒冷な高気圧はオホーツク海付近で停滞するようになり、日本付近に寒冷な空気を運んでくる。この北と南にある寒暖両気団が日本の南海上で接触し、東西に延びる前線を形成して梅雨の現象を起こす。
 停滞前線は特別なものではないが梅雨期に日本付近に停滞し梅雨をもたらすため梅雨前線といわれている。普通の停滞前線と同じように前線の北側にはオホーツク海からの寒気があり、この寒気の上を南からの暖気が這い上がり天気を悪くさせ、前線から200~300kmくらいの範囲が雨となっている。しかし前線の南側では真夏の天気で気温が高く良い天気である。
 梅雨前線は北や南の高気圧の勢力により南下あるいは北上し、またこの前線上を揚子江流域や華南付近に発生した低気圧が次々と東進し梅雨独特の天気を作り出している。この低気圧は大きく発達するものはないが連続して現れ、本州の南海上を通る頃が最盛期で東方海上に進むに従い衰弱するものが多い。低気圧が近づくと低気圧の前面では前線がいくぶん北に寄り雨になるが、通過後は北西風が入り一時晴れ間もでる。
 オホーツク海高気圧が日本海から北日本を覆い、日本の南海沿いには前線が停滞する。梅雨の主要な役割をするのはオホーツク海高気圧であり、梅雨期にはオホーツク海の高気圧が滞留することが大きな特徴である。6月頃になってもオホーツク海や千島付近の海域は流氷などにより水温は非常に低い。この冷たい海面を移動してきた高気圧は下層から冷やされるので発達し滞留するといわれている。しかし、この他の原因については未だ解っていない。
 オホーツク海に現れる高気圧の経路は、
(1)満州やシベリア方面から東進するもの。
 この経路を取る高気圧はオホーツク海に滞留することも少なく順次に東へ移動し気温も異常に低くない。
(2)オホーツク海北西部方面から南下するもの。
 この経路の高気圧にはオホーツク海中部から千島中部に南下するもの、沿海州から北海道付近に現れてくるものがあり、いずれも北海道から千島南海上で東に転じ、アリューシャン南方海上に移動していく。この高気圧は極方面から南下してくるため特に低温でオホーツク海に滞留する日数が長い。
(3)ベーリング海から北千島に南西に移動するもの。
 この経路はベーリング海から南西に張り出し北千島付近に現れてくるものは、その回数は非常に少ないが、この高気圧はその勢力が強大でオホーツク海から日本の東方海上一帯を覆う。東日本がこの勢力下に入ると天気が悪く西日本の良い天気は東に移ってこない。関東、中部移東から北海道まで梅雨空となる。この高気圧も低温で7~10日くらい停滞することが大きい特徴である。また前線付近ではよく雷雨が発生する。
 北海道方面では梅雨の現象は少なく期間は短いといわれているが、このようなベーリング海から北千島に現れてきた大きな高気圧の西縁に入ると梅雨となる。また、このような大きな高気圧が本州東方海上に居座っていると黄海方面から東進してくる低気圧は東進が出来ず秋田沖付近で停滞し衰弱することがある。このような低気圧は山陰から北陸にかけて強雨を降らせることが多い。梅雨も年によって30~40日も連日降水が続くこともあり、空梅雨といってほとんど雨が降らないこともある。また、陽性梅雨とか断続的梅雨などといって時々雨が降るがその間はよく晴れて、まるで梅雨という気がしないこともある。
 北方の寒気団の勢力が強い場合は梅雨期間が長びき冷害が起こる。この反対に北の高気圧が弱く南方の北太平洋高気圧が強いときは梅雨前線は早くから北に押し上げられ、日本付近は南の高気圧の勢力下に入って梅雨は短期間で終わり早く真夏が訪れる。しかし、干ばつなどが起こりやすい。
 このように梅雨現象は日本の北と南にある高気圧の勢力の均衡の問題であるが、この原因についてはまだ詳しくは解っていない。梅雨期の雨の降り方を見ると6月下旬頃までの梅雨期の前半はオホーツク海高気圧の勢力下にあってしとしと降る雨が多い。7月頃の梅雨の後半期に入ると梅雨前線が北上して本州付近を横断するようになり、前線付近では強雨で洪水や崖崩れの被害を起こす、毎年のように被害が発生している。


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