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気象講座 その8
春田 正男

◯夏型(南高北低)
 夏はアジア大陸の内部は非常に熱せられるため地面付近の空気は軽くなってどんどん上昇し、大陸内部特にチベット付近は低圧部になることが多く、一方比熱が大きい海洋では比較的に暖まらないので大陸に比べて低温で海洋上では高圧部になりやすい傾向がある。また、中緯度高圧帯は夏には北に移って勢力を増し北太平洋高気圧はアメリカの西海上から深く西に張り出して小笠原方面を通り、東シナ海方面まで達することもある。日本の西や北の方が気圧が低く、反対に日本の東や南の方が気圧が高くなるので日本付近の気圧配置は南東高北西低となる。これを南高北低型といい、また夏型とも呼んでいる。
 南高北低と言っても実際は南の方ばかりでなく東の方も気圧が高い、また北ばかりでなく西の方も気圧が低いのが普通であって、文字通りの南高北低はむしろ夏期以外に帯状高気圧が日本の南海上にできた場合に起こるが夏にはほとんど見当たらない。
 夏の南高北低型は北太平洋高気圧が日本を完全に支配する。小笠原方面から海を渡って北上する空気は高温で多湿な南風となって日本に流れ込み、良い天気だが蒸し蒸しする。これが日本の盛夏である。いわゆる夏の季節風が吹く時期である。特に北太平洋高気圧が西日本にまで張り出し、北日本の一部を除いて大部分は連日よく晴れ渡って炎天の日が続く、人は暑さにうだり、氷屋は大繁盛する代わりに時には水飢饉で農作物や電力、水道の水不足になることがある。
 北太平洋高気圧は夏にはその勢力が強く、小笠原一帯を覆うことが多いから日本ではこれを小笠原高気圧とも呼んでいる。この高気圧の消長は年によっても、また日によっても違う。この強弱消長が夏期日本の気圧配置と天気に決定的影響を与える。勢力が6月頃から強くなって日本付近に張り出してくると梅雨明けが早くなったり、または空梅雨となって盛夏を早める。逆に勢力が弱いと梅雨明けは遅くいわゆる冷夏で農作物はできが良くない。
 北太平洋高気圧の中の空気は南方の海上にあるため下層では高温多湿で高気圧中心付近では下降気流があるため上空では割合に乾いている。高温多湿な下層の空気が南風となって海上を北進すると次第に気温の低い所に向かうため海上付近の空気は次第に冷やされて重くなる。下層の重くなっている空気の層も安定して高温多湿にもかかわらず天気は崩れない。しかし、前線にかかったり陸上で局地的に過熱されたりして上昇気流をある程度以上起こすと持っている多量の水蒸気を凝結させて空気の層は不安定となり、入道雲が発達して雷や強雨を誘う。
 雷の種類を大雑把に分けると熱雷、界雷、渦雷と分けられております。熱雷は地表面が日射で熱せられ夏の午後局地的に対流を起こしてできる。界雷は前線雷ともいって前線に沿ってできるもの、渦雷は低気圧の中心付近では周りから風が集まってくるため上昇気流ができて発生するものがある。南高北低型で発生するのは主として熱雷である。内陸の山岳方面では午後に各所に点々と雷雲が出て電力の送電系統に支障を起こしやすいが夜に入るにつれて消滅するのが普通である。ことに日本海に低気圧があるとその南側の陸上で多く発生しやすい。
 夏の南高北低型が崩れるのは台風が北上する時に多い。南高北低型は春秋にも現れ、時には冬にも一時的であるが現れることがある。これは移動性高気圧が日本のすぐ南海上を東進した後に低気圧が日本海や日本の北方を通る際に起こることが多い。南高北低型はあまり長続きせずに崩れ去ることが多い。
 北方の低気圧が発達すると全国的に南風が強く高温多湿で蒸し暑くなり、冬ならば異常高温をきたし日本海側ではフェーン現象によって南風が山を吹き降りる高温乾燥風となって大火を起こしやすい気象状態となる。
 夏は南高北低型が多いからといって勿論こればかりではない、気圧配置の動きは他の季節に比べて緩慢になるが、やはり西から東に移り変わり高気圧や低気圧が訪れたり台風が近づいてくる。このうちアジア大陸の北部や北極方面から冷たい高気圧が南下して北日本にかかり、一方南海上に張り出していた北太平洋高気圧は更に南に下って両方の高気圧の境で前線が日本の中部や南部にかかることがある。こうなると気圧配置は逆に北高型となり冷涼な悪天が数日続くこともある。
 親潮寒流は千島方面から三陸沖を南に流れているが、この親潮上に南風が吹くと広範囲に渡って海霧が発生し6、7月の最盛期を挟み8月にかけてはこの方面の霧は世界でも有名で風がかなり強くても遠慮なくできて、船の操業に支障をきたす。

◯台風
 台風とは東経180度以西の北太平洋に存在する熱帯性気圧のうち、その域内における最大風速が34Kt(風力8以上)のものを台風と呼びその年にできた順序に番号をつけて台風第なん号と名付けることになっている。特に大きな災害を及ぼした台風には地名、川名、船名等をつけて呼んでいる。
 台風は夏から秋にかけて多く発生し冬はごく少ない。日本における大規模な風水害は約70%までが台風によって起きている。最盛期にある台風は気圧、気温、風、雲等の気象要素が中心に対してかなり良い円対称になっている。天気図の上で円形の等圧線の直径をもって台風の大きさと考えると、小さいものは100km、大きいものは200kmに及ぶものもあるが個々の台風ではその構造がかなり違っている。また、秋の台風が中緯度に来ると温帯低気圧の性質を帯び、前線を伴うようになって円対称は認められなくなる。最盛期の台風では風速は中心までの距離によって定まる。中心は0で、中心から40kmくらいまでは風速は中心からの距離にほぼ比例する。その外側500kmくらいまでは風速は距離に逆比例する傾向がある。尚、台風内の風速分布は厳密には対称にはなっていない、ことに陸地では地形の影響で台風がごく付近にいるのに一向に風が強くならないこともある。また、進行方向に対し右側は一般に風が強く、左側は比較的弱いので右側を危険半円、左側を可航半円といっている。
 台風は大雨を伴うのが普通であるが、その降り方を見ると非常に激しく変動するのが普通である。台風に伴う雨は大別して台風自身の渦巻きによるものと、前線によるものとに分けられる。前者は台風の中心付近で降るが、後者は台風によって生ずる前線付近で降るため時には台風の中心より1000km以上も遠く離れた所で大雨をみることもある。梅雨期や秋の台風による雨は一般に盛夏期より梅雨期や秋の方が強い。尚、雨量分布は地形の影響を大きく受ける。一般に風上にあたる山岳地方では平地に比べて2倍も3倍も降ることが多い。
 伊勢湾台風では一挙にして5千名以上の尊い人命を奪った昭和34年9月の伊勢湾台風は22日12時中心気圧1000mb以下の台風が南洋のマリアナに誕生して、翌23日15時には硫黄島の南南東600kmくらいの海上に達し、中心気圧は890mbの超大型台風となっている。26日18時過ぎに潮岬の西およそ15kmの所に上陸した。この頃四国東部、紀伊半島から東海地方一帯は30m/s以上の暴風圏が半径300kmに達する凄まじい状況を呈した。台風は上陸後北北西に進んで21時過ぎ名古屋からおよそ30km西方を通り、22時には揖斐川上流に達した。まともに中心が通過するよりも少し西へ偏ったこのコースは伊勢湾沿岸地方が危険半円に入るという最悪のコースで、台風の強風域は不幸にして伊勢湾に南東から集中し、驚くべき大高潮の原因となってしまった。21時半頃、名古屋港で最高潮位5m81cmを観測した。この高潮と降雨による河川の増水により河口付近では至る所堤防が決壊で台風災害史上かつてなかった大災害をもたらした。伊勢湾台風と命名された。
 台風が通過する際の風向きや天気の変わり方は、例えば南に海岸を控えた所では南寄りの強い風が高潮を起こす原因となり、また北向きが開けている建物は強い北風を受けることが弱点となる。台風が自分の位置から見て西を通るか東を通るか、また近くを通るか遠くを通るかによって風向きの変化や風速等を前もって予測しておけば台風に対処する方法もある程度たてられる。一般的に言うと自分の位置の風向きが右回りに変われば台風は自分の左側を通る。反対に風向きが左回りに変われば台風は自分の右側を通る。また、風向きが変わらずぐんぐん気圧が下がってくれば台風は自分に向かって近づいていることを示している。
 一般的に台風が通り過ぎると急に風向きは以前の反対になり、雨が降り始め気圧は急に上昇して猛烈な暴風雨が再び始まるのが普通である。
 風浪や高潮の被害は、風浪は風によって起きるが陸岸から離れた太平洋では波の高さはおよそ風速の1/3で、風速が30m/sならば波高は10mとなる。陸地に近い海上ではその距離によって変わってくるが東京湾では大体2m内外で、台風域内では暴風に応じても凄い風浪が起こる。洞爺丸が函館港外で25m/sの風で沈没してしまった。特に満潮時に台風が上陸し大潮にぶつかるとまれに見る高潮となり伊勢湾台風の被害となることもある。台風が発生すると風浪よりも波長の長いウネリを放射状に送り出すが、ウネリは海が深いほど速く進行するので台風がはるか南方上にあっても既にウネリは日本の海岸地帯に風のない日でも大波となって打ち寄せてくる。これが一般的に土用波で8月頃からやって来るもので台風が近いうちに来襲することが判る。


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