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赤柴沢から未丈ヶ岳
野田 昇秀

山行日 1978年8月26日~27日
メンバー (L)野田、浅野、佐藤(明)、林田

 初めて通る道だから景色を見たい気持ちとダオで途中下車しなければいけないので目を覚ましていようと思っていたが、夜汽車で眠れなかったせいか、うつらうつらしていた。駒の湯入口を過ぎ未舗装の道に変わったのでハッと我に返った。蛇行しながら上がってゆくバス道と尾根の窪みがダオと枝折峠の場所を教えてくれた。
 すすきの尾がもう秋の近いことを物語っているダオのバス停に降りたのは私達4人だけでした。涼しいというより寒いくらいの風が吹き抜けていた。越後駒ヶ岳の勇姿が正面に見え、私の登りたい郡界尾根もアオリからの急登がはっきりと判る。林田さんのおにぎりをご馳走になり朝食を済ませて、未丈ヶ岳登山口の案内板に導かれて登山道へ入る。かつては自動車が通ったのであろう広い道は、今では背の高い雑草に覆われている。朝露に濡れるのを嫌って雨具を着けていく、晴れているのに雨具を着けるなんて。三又口小屋までは高度差200mの下りである。山登りに来て最初から下りである、山登りに身体がまだ馴染まないせいか不平が出る、シルバーラインのトンネル露出部分を通り過ぎると道幅も狭くなり、何回か小さな沢を渡り黒又川に架かる橋を渡ると明日の下山路である未丈ヶ岳の尾根取付き点となる。私達はその手前で左に曲がり水頭沢を渡って三又口小屋に着いた。山菜採りの人が使うのか丸太を組み屋根をふいただけで窓も入口の扉もない小さな小屋であった。薪と酒の空瓶だけが豊富な小屋であった。5万図を出して登る尾根を検討する、小屋の裏手から続く尾根を急登して先程の未丈ヶ岳登山道を水頭沢を挟んで対岸の尾根を登ればよい。草深く心細く続く道、登山道でさえ雨具を着けて通ったぐらいだからこの先はもっと酷い藪が続いていると判断した私達は尚も雨具を着けたまま前進をする。急な尾根を登る頃になると道は綺麗に刈り払われていた、今回の山行で一番道の良かった所である。急登2時間、四十峠を知らないうちに通過してやっとのことで稜線らしき所に出る、峠沢の頭の手前のピークにて小休止を取る。佐藤君が担ぎ上げたパイナップルをご馳走になる、甘くて旨い。荒沢岳から駒ヶ岳へ続く尾根が正面に見える、反対側は浅草岳から毛猛、大鳥へと続く尾根、登りたい山が次から次へと眼に入ってくる。未丈ヶ岳もこのまま尾根を登り続ければすぐ到着できそうなくらい近くなってきた。峠沢の頭を廻り込んでからは急な下りになる、三又口から約700mの高度を稼いだが赤柴沢に入るために、また400mほどの高度差を下らなければならない。赤土で滑りやすい尾根道を急降下してゼンマイ小屋のある赤柴沢に着いた時は一日の行動が終了した時ほど疲れていた。山渓の案内図によると滝は5m以下のものばかり、ここから約4時間で稜線に出られると簡単に書いてある、沢登りの4時間はすぐ終わるからと渓流足袋を履いて浅野君を先頭に出発する。河原歩きが少し続くと両岸が狭まりゴルジュの様相になる。2mほどの滝が姿を現す、その前の深い釜が邪魔をして滝に取り付けない、釜のヘリをトラバースすることもできず、直登は泳がなければダメである。最初から高捲きをする、滝の手前に必ずある釜に手を焼き、腰までの渡渉で何とか登れる滝も幾つかあったが、登れずにせっかく登った滝さえも下って高捲きをしたこともあった。登ったり下ったり高捲いたりで2時間が経過して、高捲いた尾根から下を見ると何とゼンマイ小屋がすぐ傍にあるではないか、まだ300mくらいしか遡行していない。
 できるだけ直登しようと張り切る浅野、佐藤君を先頭に林田さんが続き、ふてくされた私が行く。ズボンのポケットの物を全部胸のポケットに収め、ジャブジャブやり出すとスピードが上がった、中心部にある2mの滝を右からショルダーで越すと説明文のある滝は胸まで入って人の肩を借りる訳にもいかず高捲いた。ダワの沢近くのトヨ状の滝も通過できずに高捲くとゴルジュ帯が終わり河原が広くなっていた。ダワの沢入口で今日の行動を打ち切ることにした、もう4時を過ぎていた。草むらの中にテントを張る。持参の酒を飲みながら今日の反省と明日の見当をするうちに疲労で寝てしまった。
 私達のルートは赤柴沢を最後まで詰めるのではなく、昨日のゴルジュ帯の終わった少し上の右岸に流れ込むダワの沢を遡行し大鳥峠へと上がるものである。赤柴沢を最後まで登りたい気持ちもあったが、予定の時間から大幅に遅れていることもあり6時に出発、ダワの沢に入った。枝沢のせいか釜も昨日ほどでないが腰までの渡渉と昨日なかったシャワークライムで全身がびしょ濡れになる。滝の直登は浅野君、シャワーは佐藤君、草付きは林田さんと各自の得意な場所でトップを分担し、水流のなくなった岩溝を登り終え、9時に稜線に出ることができた。
 毛猛から未丈ヶ岳への尾根の一角である。小休止の後、微かに続く踏み跡を頼りに猛烈な藪漕ぎを続ける。時々木立越しに見える未丈ヶ岳を頼りに傷だらけになりながら進む。大鳥池への分岐を過ぎれば良い道になるとの案内だけを楽しみに、ただひたすらに藪を漕ぐだけの3時間が過ぎるとひょっこり草原に出た。最終バス4時20分に間に合うようにとろくに休みもせずに歩き続けたので疲れた。バスに乗り遅れた場合の検討を始める、駒の湯まで歩いて降りようとか、憂鬱な考えが出始めた。
 この草原に一人の登山者が休んでいた。私達は大鳥池でテントを張った人が未丈へ登りに来ていると思っていたが、ダオのバス停から日帰りで往復とのこと、未丈ヶ岳はここですと言われた時はびっくりした、蜜藪で悪戦苦闘していた時に既に大鳥池への分岐を通過していたのだった。そういえば大鳥ダムができてから以前登山道であった大鳥小屋から未丈ヶ岳への登山道は登れなくなったと聞いたことがある、池から良い道に出るとの期待は最初からなかったのだ、でも良かったこれでバスに間に合う。未丈ヶ岳の山頂で記念写真を撮ってすぐ下山に移る。三又口から上がってくる道も、もう藪がうるさくなっている登山者が少ないせいであろうか。やがて廃道になる運命を辿ろうとしている尾根をまた急ぎ足で下った。松の木のダオと三又口で小休止、バス停手前の小沢で一本と全く忙しい下山であった。駒の湯で一泊して越後駒ヶ岳へ登る佐藤君と別れて小出の駅に帰り着いた。

〈コースタイム〉
8月26日 ダオ(6:00) → 三又口小屋(7:20) → 赤柴沢(10:10) → ダワの沢出合(16:00)泊り
8月27日 幕場 → 稜線(9:00) → 未丈ヶ岳(12:20) → 三又口小屋(15:00) → ダオ(16:00)

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