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化かすケモノ達
川田 昭一

 キツネとタヌキの化かし合いなどと昔から言われてきたが、化かしにかけてのプロは何もキツネ、タヌキに限ったものではなく、ミンク、カワウソ、オコジョ、テンなど高級純毛襟巻にされてしまうケモノ達も神様から化け方の免許を授かっている。
 化け方の種明かしを紹介すると、こんな風になるのです。
 彼らはあの分厚い毛を擦ってエレキ(静電気)を放電させ相手を化かしている。
 人間様を始め彼らの好む魚、ウサギ、ネズミ、ヤマドリなどの神経を狂わせ獲物としている。
 もっとも人間様の場合は、人間を取って食おうなんて気は毛頭なく(反対に襟巻に化かされてちゃう)静電感応で神経を狂わせ油揚げ、新巻鮭、ビクの中の岩魚、山女魚などをかすめている。
 以前、南アルプス前衛に位置するトサカ山に入った時、稜線上でオコジョを見たことがある。人前に平気でノコノコと出てきて我々にクルクルした目、フサフサした赤土色の毛、おまけにモンロー・ウォークよろしく腰を振り振りコメツガの林に消えていった。ユーモラスな獣である反面、土地によっては憑き物(もののけ)動物として言われる。オコジョに取り憑かれると高熱が続くと言われ、御祓として油揚げ、稲荷寿司等を献じて憑きを患者から放してやるそうです。
 また、積極策としてオコジョの霊が憑かないようにと不動明王がオコジョを金縛りにと踏みつけているお守札が高尾山の薬王院にある。
 遠山郷の猟師が語っていたが冬の純白なオコジョ(冬は尾の先を残して純白となり、冬以外の季節は赤土色の夏毛に変わり保護色を示す)と出会った場合、その日の猟は打ち切って小屋で厄払いの酒盛りをするそうである。
 我々ときたら焚き火を囲んで「皮を剥ぎオコジョ汁さては、オコジョの姿焼きで一杯いきたいね」なんて語りながらの酒宴、遠山の猟師が聴いたら「このバチアタリめ!!」とドヤされること請け合い無知でよかった。キツネ、タヌキが化かしのプロだと言われている理由は彼らがカラス、スズメ、ハトのように人里近くに住み着いた動物で人との付き合いが多く、自ずと化かしにまつわる話も多かったに違いない。
 オコジョや次に出てくるテン等は逆に人里から遠く離れた深山を好んで動き回っていたのが理由だろう、化かしの逸話は少ない。
 柳田国男の著「遠野物語」の中に「座敷童子」という神獣の話が出てくるがテンの逸話として面白い。
 「母人ひとり縫物しておりしに、次の間にて紙のがさがさという音あり。この部屋は家の主人の部屋にて、其の時は東京に行き不在の折なれば、怪しいと思いて板戸を開き見るに何の影もなし。暫時の間座りて居ればやがてまたしきりに鼻を鳴らす音あり。さては座敷童子なりと思えり。この家にも座敷童子住めりということ、久しき以前よりの沙汰なりき。この紙の宿りたまう家は富貴自在なりということなり。」
 野ネズミの天敵はテン、イタチであることは良く知られ林野庁でもテン、イタチを重宝に使っているそうです。食物が豊富にある金持ちの家には多くのネズミが住み着く可能性は十分にあり、ネズミを目当てにテンが上がり込み、飼猫顔負けの成果を上げて引き上げるそうだが、生きの良いネズミを提供してくれた家の人には余興を披露して帰るという義理堅いマナーを心得ていて、ただでは帰らないという心憎さを持っている動物、テンである。
 しかし、この余興人様にとってはありがた迷惑、奥座敷の誰もいない部屋にポーッと明かりが灯り、フラフラ人魂のように見えるテン魂を飛ばすそうで、一人しかいない大きな屋敷の奥でチューチュー、ガサガサ、フラフラと続けて三本立を聴かされたり見せられたりしたら誰だって良い気はしなかったろう。ケモノ達が人間を化かして物をかすめているが、人間は何故ケモノを自分自身の力で(鉄砲、ワナ等を使わない超念力のこと)化かすことはできないのだろうか?(人間同士の化かし合いは日常茶飯事であるのだが)


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