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気象講座 その9
春田 正男

◯北高型
 南高北低気圧配置の逆で北側に高気圧があり南側の気圧が低い型で、移動性高気圧が日本から北日本を東に進む場合に多くできる気圧配置である。
 高気圧の南側では北東または東よりの風が吹くため、上層の偏西風との間に前線が形成されやすい。また寒冷な空気が温暖な地方に南下するため下層から暖まり急速に変質し不安定となり雲が発達する。特に南海上の暖かい海上でしばしば前線が発生する。
 北高型の高気圧には寒冷型の高気圧が多い、この高気圧は下層の気温が寒冷なため形成される背の低い高気圧で、高気圧としての性質が現れるのはせいぜい3~4kmくらいまでの高さである、この高気圧から吹き出す北東風の高さはあまり高くなく2,000mくらいまでのところが多い。このため高気圧の南側では中心から少し離れるともう上層には南よりの気流が入り込んでくる。高気圧の域内にありながら、特に南側から西側にかけて雲が多く、天気の悪い範囲が広いのはこのためでもある。このようなことが太平洋側や日本の南海上の天気を悪くする大きな原因である。また、北高型の場合は高気圧が北日本を通り北緯40度付近が東西に延びる高圧部となり、日本の南方海上にある高気圧との間にできる低圧帯がちょうど日本の南海上北緯30度付近に東西に延びて停滞することになる。
 このような東西に延びる気圧の谷の中では低気圧が発生しやすく、1,000~1,500kmくらいの小さな波動で次々と低気圧ができて東進する。この低気圧が接近するとすぐに降雨し、梅雨時と同じような天気現象が現れる。
 一般的にみて春の北高型は長続きすることが少ない。これはまだ南海上の高気圧があまり強まらないためである。しかし、5月頃になると日本の南東海上の高気圧が次第に強まり、東シナ海に現れた高気圧は日本海に北東進し、本州の南岸沿いに前線が停滞することが多い。この頃になると南東海上の高気圧が西に張り出してくることが多い。秋には移動性高気圧が引き続いて北日本を通り北高型が続くことが多い。秋は大陸の高気圧が次第に強まり、南海上の高気圧は弱まってゆくが、急には衰弱しないため本州南海付近に前線が形成されやすい。
 9月から10月始めにかけては秋の長雨とか秋霖とか言われるように天気の悪いことが多い。秋の長雨は北高型つまり移動性高気圧が日本海から北日本を次々と通るために起こるものである。
 日本付近を通る高気圧の経路を大別してみると、
  (1)蒙古や揚子江方面から本州の南海上に現れ冬期に多い。
  (2)満州方面から日本海を通り北日本を東進するもので秋に多い。
  (3)(1)、(2)より北方を通るものは夏に多い。
 このように移動性高気圧は夏は北方を通り冬は南に現れやすい。また移動性高気圧の経路の特徴としてかなり持続性があることがあげられる。高気圧が南偏して現れ始めると30日もあるいは60日も同じような経路を通ることが多い。このように引き続き北高型の気圧配置の続く場合は天気の予報もそれほど狂わないが、冬期など大陸の高気圧が北日本に強く張り出し、一時的に北高型の気圧配置となり南日本の天気を悪くする北偏型高気圧の予想は難しい。
 北高型になりやすい一時的な気圧配置は日本の南海上に高気圧があって南東海上に張り出し、一方千島方面に大きな低気圧あるいは低圧部となっている時は、台湾東方海上に低気圧があり日本の南方海上で東よりの風が強く吹いている場合は南海上の高気圧はそのまま停滞することが多い。このような時は東シナ海や黄海方面の高気圧は北東に進み本州の南岸沿いに前線が停滞する。この場合の一つの目安としては日本海や北日本を東進する低気圧の速度が九州や四国など南岸沿いを進む低気圧に比較して非常に速いことである。
 北高型の解消あるいは北高型になりずらい気圧配置は、北高型の特色は東西に延びる前線である。従って前線が九州方面から南に押し下げられる。つまり東シナ海に高気圧が現れてくると北高型は解消に向かう。
 また日本の東方海上が南北に延びる気圧の谷となるような場合、北緯45度付近に発達した低気圧が進むと北高型の天気は解消する。このため日本の南海上あるいは南東海上を覆う高気圧の勢力や動きに注意することが必要である。

◯帯状高気圧
 春や秋には海洋と陸地との間の気温差が比較的に少なくて、大気の還流による中緯度高圧帯は大陸・海洋を問わず一様に分布されやすい状態になっている。実際は移動性高気圧と低気圧が交互に東西に配置されて中緯度を東進するので、気圧配置だけでなく天気、気温も波の波動に似て周期的に変わってくるのが普通である。ところが前の移動性高気圧と後の移動性高気圧の間に通常はあるはずの低気圧がなく、高気圧と高気圧が連続して訪れることがある。この場合、高気圧の南端や北端にあたる等圧線は何れも東西に走って幅の広い帯状をなす。これを帯状高気圧といっている。
 帯状高気圧は春期に一番よく現れ、次いで秋期に多い、割合からすると日本全体を帯の中に入れる場合よりも、むしろ日本南部か南海上を覆う場合が多い。もっとも帯のように細く長い等圧線が東西に延びることは不安定な状態なので文字通りの帯状高気圧というものはない。帯の幅は南北にかなりの距離を持ち、緯度10度以上にわたることが多い。また、帯の中には独立の閉曲線を持った高気圧が数個あって東西に配置され、各々の高気圧間が弱い気圧の谷になっていることが多いこの高気圧に覆われると風が穏やかな良い天気が広い範囲にわたり数日間続く、しかしそのうちの弱い気圧の谷から帯状高気圧が千切れてくる。また南側は東西に延びる気圧の谷になっていて東よりの風が吹き、曇で所々雨が降ったりする、一方北側も気圧の谷であるが前線付近を除いては南側よりも天気が良く暖かいのが普通である。
 帯状高気圧がよく発達するのは北太平洋高気圧で、中緯度高気圧が夏期には西に延び、時には太平洋を一跨ぎして日本の南海上に達することがある。この場合、日本付近の気圧配置から見ると南高北低に入るようになる。年によってはこの高圧帯がよく発達して日本にかかり、日本は東西に延びる中緯度高気圧帯の中に入るため、西にできた低気圧は何れも日本を避けて北方か南方を通りやすくなる、連日良い天気が続く、そしてその範囲内では風も比較的弱く好天が続く、紅葉時のレクリエーション、冬へ向かう前の絶好の秋晴れを長い間もたらす。しかし、高圧帯の皆の縁はむしろ雲が多く、雨の降っている所が見られる。この高圧帯を崩すものは北から南下するか、南から北上する気圧の谷である。

◯東高西低型・流れ出し型
 夏に北太平洋高気圧が北に偏って日本の東方海上を覆うようになると、アジア大陸から東に進む低気圧は東進を妨げられて、日本の西方に停滞したり、または向きを北に変えて進むようになる。また台風も低気圧と同様に日本や西海上を通りやすくなって、この場合日本付近の気圧配置は東に高く西に低い型となる。そして東ないし西の風が吹き、雲が多く蒸し暑い天気になることが多い。また三陸沖等に海霧が出やすい。北太平洋の高気圧がもし非常に強くて日本の大部分を覆うようになると東よりの風が吹き、この東風は高気圧域内で上空から降りてきたもので、西日本では天気が悪くても天気は東に移らず日本の東日本は乾燥する。また、山脈の西側は山の風下となって、特に高温で乾燥するから火災の危険が大きくなる。また、梅雨期にオホーツク海方面から高気圧が南に移動して日本の東海上に達した場合も一時東高西低の気圧配置となるがこれは持続性が少ない。

◯流れ出し方
 アジア大陸に北東から南西にかけて走る、はっきりした寒冷前線があって、この前線を挟んでその北側と南東側に高気圧がある場合、アジア大陸にある前線は南東にほぼ等速度で移動して日本を通り過ぎることがある。前線は流れ出してくるので、これを流れ出し型といい、春や秋に多く現れる。前線が来る前は南よりの風が吹いて暖かく、天気は晴れたり曇ったりの程度だが前線が通り過ぎると天気は一変して北ないし北東の冷たい風に変わり、雨が降るようになる。天気は一般に西から東に移り変わるものだが、この型の場合はむしろ天気は北から南に移り変わり、前線の通過する前と後では気温、風、天気等ががらりと変わることが多いがその後は北西から来た高気圧に覆われて天気は回復する。

参考資料:予報作業指針、気象業務の手引、気象法規、地上気象観測法
あとがき
 気象No.10でまとまりのないまま終わりにします。三峰山岳会の会員皆様に多少なりとも気象に対し啓蒙のつもりで書きました。皆様にご理解できましたでしょうか。編集委員のご努力により会報の貴重な一項に毎号掲載していただきましたことを深く感謝とお礼を申し上げます。


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