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静かな足尾の峰々
鈴木 一利

山行日 1978年11月3日~5日
メンバー (L)野田、鈴木(一)、播磨、川田

 このごろ山へ行くとなると雨が降り、今年から雨男になってしまったかと気にしている昨今。しかし、どうしても晴れて欲しい一年越しの足尾。約1年10ヶ月前、庚申山から皇海山と静かな山行の計画が日程上止むなく鋸山で諦めてから、山の深さと大きさに思いは募るばかりです。
 そんな気持ちは袈裟丸、皇海の峰へと足を急がせる。第1日目は夜中に林道で一泊。第2日目は水場の少ないこのコース、幕場に苦労しながら袈裟丸連峰の峰々を上ったり下ったり、全員30才以上とは思えぬ健脚にて予定の幕場であった八人マクラのコルを通過し、峰々からの展望は左に浅間山、上州武尊、谷川、上越の山々など、右に筑波、日光の山並みを見る風光明媚なコースであった。
 3日目は憧れの皇海山へ向けて歩き出す。鋸山からは南北両アルプス、上越、尾瀬、日光の山々などの展望をほしいままに皇海へ向かった。皇海への道からの鋸山は巨大な矢じりのような形で迫っている。
 3日目のメインとなったのは幕場(河原)での焚き火である。流木を集め、炎を星が一面に瞬く夜空に吹き上げるように燃やし魚を焼き、酒を酌み交わす。自分達がまるでこの山のキコリかマタギにでもなったように焚き火の揺れる炎を肴に酒に酔い夜を明かす。
 それは今の北アルプスなどでは得られない。今よりも昔々の登山黎明期の北アルプスがそうであったように山が植物や動物のものであるような。
 足尾は山名を聞いても俗世ではちょっと通じない、高さもさしてない地味な山、それゆえに私達を静かに静かに包み込み、自然の営みの中に組み込む深い山、山と自然との語らいや山の息吹が聞こえてくる山。
 本当に山を愛する人に歩いて欲しいような気がする山、足尾。私達には近くにあり、しかし遠い山、足尾山塊。この一見不遇のように見えるが山はそんなことを気にもせず、凛々しく威風堂々と聳える山。
 でも残念ながら鋸山の町足尾が鉱業の不振により観光に力を入れることにより、他の山々のように開発の波が押し寄せつつある今、私達はもっと足尾の山を大切にしたい。


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