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私の近況報告
佐藤 明

 三峰山岳会の皆様、お元気ですか? 大変ご無沙汰しております。
 最近どのような山行をしておられるのでしょうか。老婆心ながら多少気がかりです。
 私は7月に2週間ほど休みが取れたので憧れのアルプスへ行ってきました。
 来年の夏(55年)アルプスへ来られる人の参考になればと思いこちらの山行報告をさせていただきます。
 7月14日(土曜日)
 朝、ブリュッセル空港を発ちジュネーブへ約1時間半くらいです。往復で約3万7千円、TEEという列車と大差がなかったため飛行機にしました。
 ジュネーブからシャモニへは電車とバス利用が可能です。ただ電車だと3回も乗り換えなければならないのです。おまけに接続が悪いと4時間はかかります。今回はバスを利用して2時間で着きました。
 シャモニではスキーステーションという安宿に滞在しました。食事なしで1泊900円。日本人がいっぱいです。
 この日は色々な買い物に出ました。ピッケル、アイゼンの売っているシャモニの運道具屋はみんな小さな店ばかりで品数も日本の石井スポーツ店などと比べて決して豊富とは思えません。それに道具はみなフランス製、少しのアメリカ製などでドイツやスイス製のものはあまり見かけません。
 ザックやピッケルなどは安いと思います。ミレー557が1万3千円、ピッケルのシモンクーガー8千円、これらは日本では共に2万円以上するでしょう。
 でも衣料品などの繊維製品は決して安くはありません。むしろ日本より高いくらいです。とにかく、登山用品は日本が最も揃っていると考えて間違いないのではないでしょうか。
 7月15日(日曜日)
 ケーブルカーでエギーユミディ(3,800m)へ登り、そこから氷河とはどんなものかと思いメールド・グラス氷河を下ることにする。一人で歩いていたらフランス人が「おいお前、俺達のザイルに入るか」と言うのです。
 入れてもらって歩き始めて間もなくミドルの私だけがヒドンクレバスに落ちてしまう。氷河歩きの経験のない私にとって、クレバスが走っているのは判ってもどのくらの大きさか判断できないのです。
 ジャンプしようと思って踏み出した瞬間にはもう落ちていたのですから....。約3mくらい落ちた所でザイルに止められました。クレバスの中といったら広いこと深いこと。幅は約2m、長さは見えるだけで30mくらい、そして深さは10mか15mはあったでしょう。もしノーザイルだったら必ず死んでいたと思います。そこからはアイゼンとピッケルだけで何とか這い上がりました。氷河歩きでのアンザイレンは基本だったんですね....。
 日本の雪山をコンテニュアスで歩く場合はお互いにループを持って、もしパートナーがスリップしたらループの中へピケルを刺して止めるようにと教わりましたが、氷河行の場合はループは作らずただロープを握りしめただけでパートナーを止めるのです。握力だけで....。とにかく雪山をコンテニュアスで歩く場合と氷河を歩く場合とではロープワークは全く違います。そしてコンテニュアスの場合、必要以上のロープを持たないこと、出来る限り短い長さで使うことを感じました。
 7月16日(月曜日)
 ガイアンの岩場の下で昼寝です。ここはシャモニの町から徒歩で30分くらいの所で岩登りのゲレンデです。
 高さ40m、幅200mくらいのフェースですが、要所要所にビレイピンが打ち込まれてあり登攀も三級程度で快適で、丁度広沢寺ゲレンデの下部みたいな雰囲気です。
 ここでは10才くらいのチビっ子クライマーも大勢いてお父さんに連れられて登っています。その子供達のお母さんは水着になって岩場の下の芝生で日光浴しています。日本にはない光景です。
 7月17日~7月20日(火曜~金曜)
 スキーステーションの他の日本人と共にモンブランへ行くことにしました。
 朝9時頃シャモニからバスでレゾーシュという所へ行き、そこからケーブルカー、登山電車と乗り換え、そして約5時間歩いてエギユーテの小屋へ泊りました。
 このコースはブルーガイドヨーロッパアルプスの通りです。技術的には全く簡単なのですが空気が薄いため頭痛に悩まされた。小屋から5時間でモンブランの山頂に立てました。下りはバロの小屋の前で昼寝をしてボソン氷河を下りました。
 17日から18日は山登り、19日はイタリア側の町エルブローネで夏スキーをした。スキー代、リフト代合わせて4千円でした。
 20日の日、エギーユプランの縦走をしようとエギーユミディまでケーブルカーで登ったのですが、約15cmの新雪のため諦めて下る。このシャモニからエギーユミディ(3,800m)までの高度差2,800mを一気に上り下りするケーブルカーの中では耳が痛くなるのでツバをゴクンゴクン飲んでばかり、こんなに一生懸命生ツバを飲んだのはアムステルダムで日本ではとても見られないような映画を見て以来です。
 参考までにベルギーではポルノ雑誌などは売ってなく、また一部の雑誌もマジックで修正されております。
 日本ではあまり紹介されておりませんがアムステルダムは飾り窓を始めとする夜の開放地帯で、久山氏あたりがアムスへ来ればもう日本へ帰るのはイヤダと言いだすに違いありません。
 シャモニの町を歩いていたら向こうからものすごく大きな荷物を背負った二人連れが来るのです。何だあんな荷物で....。と見ると、鈴木隆氏ではありませんか。
 私は敗退なのに彼らは今から登りに行くと言うのです。
 「また会いましょう」とのことで別れました。でも結局は、その後は会えませんでした。
 7月21日~7月22日
 氷河の末端のゲレンデで遊んだりシャモニ公営プールで二日間は遊びました。
 7月23日(月曜日)
 前回敗退したエギーユプランへガイドブックを忍ばせてアタックしてきました。
 7月24日(火曜日)
 シャモニに別れを告げマッターホルン、モンテローザの町、ツェルマットへやってきました。
 ホテルは日本人にはおなじみのバンホフです。予想通り泊り客の半数以上は日本人ではないでしょうか。
 1泊2千円弱、物凄く綺麗で自炊の道具も全て揃っています。
 ここツェルマットで40m、10.5mmのロープを買いました。
 マモーというメーカです。日本ではマンモスと言われているメーカかも知れません。
 このロープは半分の20mずつ色が(模様)違っていてドッペルとして使う時には良さそうです。
 7月25日(水曜日)
 バンホフのマダムに頼んでガイドを紹介してもらいマッターホルンの基地、ヘルンリ小屋へ入りました。
 パートナーがみつからなく、また独りで行くには技術的に未熟なためガイドをお願いした訳です。
 ガイドの服装というのは皆似ていて紺色のオーバオールになったニッカーズボンなのです。そして私のガイドは白のベレー帽、とにかく皆んな登山者を含めてカッコをつけているのです。
 作業ズボンや運動着でアルプスを歩いているのは日本人ぐらいでしょう。
 私も町で履くズボンのままで歩いたため皆んな私を登山者とは思ってくれません。
 7月26日(木曜日)
 朝、3時半ヘルンリ小屋を出発。かなりの数のヘッドランプが上の方に見えます。
 岩自体は最高で三級くらいでしょうか?
 所々に固定ロープが取り付けてあり快適な登りです。
 3時間15分で頂上着、頂上は本日の三番目。頂上はモンブランとは違いだいぶ痩せています。
 ここでアイゼンを履いてから下降です。昨夜の降雪のためアイゼンも快適です。急な下りでもガイドは岩を向かず前を向いて下るようにと言うのです。
 最初のうちはだいぶ怖がりましたが、なるほど前向きの方がスタンスがよく見えてラクチンです。
 途中のソルベイ小屋に登山者ノートがあったので三峰山岳会と書いてきました。次第にガイドも私を信頼してくれ、「お前はチムニーを下れ、俺はルンゼを下る、競争しよう」などと言いながらバタバタ下だって来ました。
 ヘルンリ小屋着が11時、3時間で降りてきました。
 同日、ガイドレスの日本人パーティも同じヘルンリ稜を登りましたが彼らは登り下り共に7時間かかったそうです。
 マッターホルンのヘルンリ稜はルートがわかりにくくガイドをお願いして正解だったと思いました。
 ヘルンリ小屋からシュバルツゼーまでもガイドと共に駆け下り、お昼過ぎにツェルマットへ帰りました。去年の夏、塔ヶ岳から大倉までの馬鹿尾根を1時間で駆け下る練習の成果が以外なところで発揮できました。ガイド料4万5千円、ちょっと痛かったです。
 7月27日(金曜日)
 今日は夏スキー、一番のロープウェイでトロッケシュティクへ行き、先ず一本滑りました。ガリガリのアイスバーンなのです。私の腕というか足ではかなり苦しい滑降そして格好です。
 地元の連中はノンストップでバンバン滑っているのです。やはり技術の差ですね。
 その後、イタリアのテオデュルバスまでバーリフトで上がり滑って降りてきただけで本日は終了としました。
 あまり暑いため雪が悪くなってきたからです。水着で滑っている人もいました。
 7月28日(土曜日)
 バカンスの最終日、朝ツェルマットを発ってレマン湖のほとりモントルーでション城を見てジュネーブからブリュッセルへ帰りました。

 初めてアルプスの山々を歩いて感じたのは、こちらの連中はいつもアンザイレンなのです。簡単だと思われるような所でも....。
 そして確保が実にいい加減というか簡単に済ましてしまうのです。これではかえって危ないのではないかと思いました。
 もしかしたら連中は自信があるのかも知れません。
 あるいは日本で行っている確保は過剰なのかも知れません。
 もう少し検討してみたいと思います。それからスタカット時の登攀スピードはどのくらいザイルワークでもたつくかで決まるみたいでした。
 今感じていることは過去1年間、三峰で岩や氷やロープ操作などを勉強させてもらったため、だいぶアルプスで楽しめました。もし岩登りなぞやったことがなければマッターホルンはかなり手強いでしょう。ロープを使ったことがなければモンブランは時間が掛かるでしょう。ロープなしでも大丈夫でしょうけれど、そして氷をやったことがなければクレバスに落ちた時に出るのに大変だったでしょう。
 今となって三峰山岳会に感謝する次第です。ほんの2~3枚のつもりで書き出した原稿がダラダラと長くなってしまったことをお許し下さい。
 あまり下らないことばかり書き並べると読むのに大変でしょうから終了といたします。
 適度のアルコールですと筆も快調なのですが、現在過剰供給気味ですので....。


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