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八海山
麻生 光子

山行日 1980年7月6日
メンバー (L)島田、鈴木(一)、中村(弘)、麻生

 この日、東京は晴れというのに難儀して登った八海山は一日中雨が降り続いた。久し振りの日曜休みは、また12時まで朝寝坊して終わるのかとうんざりしているところに島田さんの誘いがかかり同行させてもらった。島田さんにとってこの八海山は前から気にかかっていた山だったという。私は何の予備知識も持たないまま、出発の日は仕事、職場の歓迎会でビールを飲み電車に乗った。そして登り始めてやっとここが信仰の山域であることに気がついた。高度を稼ぐ毎に仏像、青銅の吊鐘が所々に祀られてある。鈴木さんの鳴らす鐘の音が四方の山に響いていたが、信仰を持たない私には何の感慨も湧かない。仏像に手を合わせることもなく、あまり失礼のないように足元を見ながら通り過ぎる。
 7月6日3時30分。六日町に着く。駅でビバークをし、里宮までタクシーを使う。駅に着いた時は小雨も徐々に激しくなり雨具を取り出す。八海山神社の軒下で朝食を摂る。雨雲は厚くどう転んでも止みそうにない雨を見て、私と初めて同行する中村さんは「温泉がいい」と言う。6時取り敢えず歩くことにする。畦道のアヤメが雨に映える。二合目から目的の屏風コースに進路をとる。鈴木さんと同行して面白いことは、メンバーとの一本立てる時間が合わないことだ。縦走派の彼は1時間歩いて一本のタイムが目安になっているらしいが、我々は45分くらい。島田リーダーの「休もうか」の声に即ザックが背中からずり落ちる。六合目辺りまではそうきつくもない樹林帯を登る。鬱陶しいが時々谷あいから流れる冷たい空気に触れ心地よい。ここは滝の多いところだ。雨も時々止み、振り返ると雄大な山並みがガスの切れ間から覗きホッとさせる。六合目からは樹林帯から開放され視界が広がる。裸の岩を鎖を使って一挙に高度を稼ぐ。ただの尾根をだらだら登るよりよほど効果的だ。岩も雨で滑りやすなっているが、私程度の技術でもしっかり登れた。三点確保を守りながら少々の余裕を持って。それでも、あまり長いアプローチに、ふと「最後まで登れる自信があるか」と不安がよぎる。ドキドキ変な心臓の動きが伝わってくる不安に。食べたくもない菓子を水で流し込む、一度「山登りと低血糖」について調べてみようかと思いながら未だに手を付けず苦しい、苦しいと登り続けている。10時30分、千本檜小屋に着く、ぐっしょり濡れた衣服はどうすることもできず、ジーパンを脱ぎカッパズボンを履く。しっかりした骨組みのこの小屋にも仏像が祀られた一室が別に設けられていた。11時30分、ビールと昼食を済ませ出発。両側が切り立った岩尾根を進む、ヤブ蚊の多いところだ。雨が少し上がるとブンブンところ構わず刺し始める。鈴木さんは口呼吸をしているのか咽に二匹も蚊が入ったと言う。数少ない高山植物がチラチラ咲いている新道コースに進路をとる。後は目的のバスに乗るためにただひたすらに下山することに精を出す。15時ジャスト、目的のバス停着。しっかりと計算通りに終了した山行であった。島田リーダーの執念のおかげで岩登りのスリルも味わって久し振りに山登りをした感じ。中村さんの「温泉」が叶えられなかったのが少しかわいそうでしたが、退会間近な島田さんとは最後の夏山も計画しているのでそれもしっかりと登ってきたいと思う。


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