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初めての沢登り・キュウハ沢
村山 久美子

山行日 1980年6月29日
メンバー (L)稲田、川又、小柴、村山

 天気を心配しながらも「行ってみようか」という稲田さんの言葉ににっこり頷いた私達。サブザックに必要なものを詰め込んで稲田さんに続くピカピカの新人三名、川又、小柴、そして私。初めての沢登りに胸はどきどき。石の上をポンポン身も軽く渡って行く稲田さんを追いかける。河原に着いた。さあ、いよいよ渓流足袋に履き替えです。何だかおかしな気分。不思議な感覚。これでいかにも滑りそうな石の上を歩いていけるんだろうか。沢登りって岩登りと親戚みたいなものでしょう。靴と同じだ信じよう。最初の堰堤を巻く。気を抜くと落ちそうな岩をトラバース。フー、何とか行けた。しかし私は臆病なくせに慎重さが欠けてる人間なのだった。最初のへつりを無造作に渡ろうとしてドボン。悔しいなあ、下半身はぐしょ濡れ、でももう濡れたって恐くはありませんぞ、と思っていたら本当にまた見事に落っこちてしまった。一寸斜めになっているなあーと思いながら片足で石を蹴って行こうとした瞬間、ツルリ、ワッー落ちる、ドボン、どっぷり首まで浸かっていい気持ち、なんて余裕などあろうはずがない。足が下についてるのか確かめることだって無理。冗談でしょう。私は「カナヅチ」なんです。アップ、アップしていると川又君と小柴ちゃんが見えた。助けてと呼んでも声にならず、自分の身は自分で守らなければならないという教訓を身をもって知った感じ。不思議にも手と足をめちゃくちゃバタバタやってたら、アレッ岸が近づいてくるではありませんか。助かった、心からそう思わずにはいられなかった。後で稲田さんが言うことには「何で泳いでいるんだろうと不思議だった」とか、グサッ。それからはちょっぴり慎重に、少々ビビリながら進んで行った。天気は良くなりそうもなく、今日は大滝まで行こうということになった。へつって少し登る場所にぶつかった。落ちたら濡れるだけじゃ済みそうにないな。稲田さんが登る。同じように手と足を動かして根性で登る。登れた、嬉しくてしょうがない。稲田さんはザイルを出した、ザイルを出そうか考えている間に私は登ってしまったのかもしれない。スミマセン。最後の登り、大滝を稲田さんが登っていくのをじっと見守る。稲田さんが上に消えてしばらくするとザイルが降りてきた。しかし、打ち合わせをしていなかったために身体に結ぶ前にザイルが引き上げられていく。引っ張ると更に強い力で引かれてしまう。コールは届かない。川又君が行ってくると言って登り出す。脆い岩、石がぼろぼろ落ちてくる。川又君が上に消えるとザイルがそろそろと降りてきた。さあ、いよいよ私の番です。岩を掴もうとするとポロッと取れてしまう。本に書いてある通りだけどこういうの嫌いだナー、川又君と同じ所で行き詰まる。腕が疲れるョ。ちょっとチムニー状になってるみたいだ。思い切って足を伸ばしてみる。正解、無事通過できた。フー、怖かった。上に行くと稲田さんがとても寒そうな表情で確保を続けていらっしゃった。長い時間かけて申し訳ありませぬ。最後は小柴さん。彼女は早々と姿を現したエライッ。じっとしていると震えそうなほど寒いのですぐ降りることに決定。稲田さんが肩絡みの降り方を教えて下さり、帰りはザイルを使ってどんどん下って行った。始めの下降は凄かった。10メートル以上もあったような所を初めて肩絡みで降りた。力を入れ過ぎて下に着いた時は右手の感覚がなくなっていたくらい。下手っぴい、ラストの川又君を待っていた場所に偶然にもイキチゴの実がどっさり生っていた。稲田さんが子供のようにパクパク食べる。私も負けずに食べまくる。初めての沢、お天気には恵まれなかったけれど色々ハプニングはあったけれど何となく楽しかった。へつりや岩を登る緊張感、登れた時の何とも言えない満足感。山の中の川、いや沢というものが気に入ってしまいそうな気がしてなりません。この渓流足袋をまた履く機会がきっとありますように、稲田さん、ありがとうございました。


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