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黒部・下の廊下
国行 道雄

山行日 1980年10月10日~12日
メンバー (L)江村(真)、広瀬、麻生、岡部、川又、国行

 10月9日夜、予定より40分くらい遅れてキャラバンは吉祥寺を出発する。私にとって黒部は高校以来であり(黒四ダム見学)、会の予定表を見せてもらいここに狙いを定めていた。不安はあったがただ皆んなに迷惑をかけずに付いていければ良いと思った。
 中央高速を抜け大町を通り有料道路(大町ルート)に入る。駐車場には既に何台かの車が停まっているがひっそりしている。午前2時30分頃到着する。とにかく朝まで寝袋に入り睡眠をとることにした。
 10月10日、晴れ、7時30分のケーブルに乗ろうと大町駅へ向かう。駅には観光客がごった返しており乗れないので8時30分発のケーブルに頼み込んでやっと乗せてもらう。団体の観光客がかなり入っていて登山客は無視されている気がする。トロリーを降りてコワゴワとトンネルを歩いていくと急に視界が明るくなり立山連峰がくっきりと見えてきた(立山連峰が迎えてくれたのだ)。
 既に3~4パーティが来ておりここでリュックの紐を締め直していよいよ出発。今日の目的地は池ノ平まで、先ずダムを後にして下りである。吊橋を渡り少し行くと早くも「あざやかな」紅葉が見られる。すかさずパチリパチリ、シャッターを切る。黒部川伝いにルートは更に続く。やがて黒部川とも別れて山らしくなってきた。だんだん勾配がきつくなってくる。内蔵助谷出合に着く、右方向は帰りのコースである「下の廊下」、私達は左に向かう。先頭はリーダー江村さん、続いて岡部、麻生、私、川又、広瀬の順番で。アシの林みたいな所を抜けたりして楽しみの昼食時間になる。昨日作ったオニギリを頬張る。実に美味である。一休みして道は渇水した川を登る。ここが長かったこと、行けども行けども玉石状の登りで苦しかった。Tシャツ1枚なのに背中は汗びっしょりである。川又さんはすこぶる元気でしゃべり続けている。疲れを知らないというのか、羨ましい限りである。私はそこへいくとただ離れないで前の人の足を見ながら黙々と歩いている。そんな具合で長かった登りもやっと終わり今度は下りである。気をつけながら石段状の道を降りる。もうすぐそこは剣沢である。川原に下りて適当な場所を確保する。初めてのテント生活、中は思ったより狭く好き嫌い問わずお互いの顔を見合わせする。これだけ接近して飲んだり食べたり寝たりしていると山特有のコミュニケーションがおきるのであろうか?テント内の楽しい会話はとどまることはない。テントは二つあるので分かれて休むことになりました。
 10月11日、起床5時頃、外はまだ真っ暗であり暗いのになぜ起きるのかなどとつまらないことを思いつつ起床、朝食が終わり出発前に寝ぼけ顔をパチリ! 先ず川伝いに歩き始める。川を横断することになり適当な飛び石コースを探す。何とか川にも落ちなくて済み無事通過。池ノ平の手前でポツリポツリとうとう降り出した。山に入ると雨はつきものですね、もう頂上の小屋は見える。もう一息である。この池ノ平も天気がいいとさぞかし素晴らしい景色であろう、実に残念だ。登りが長かったせいか小屋に着くとホッとする。次のパーティも来たのでリーダーの指示で雨具を取り出し着替えて出発する。足場の悪い泥んこの道を下り、やがて仙人池の小屋に着く。山小屋の中は人でごった返しており、先ず入口で荷を下ろして休ませてもらう。雨が小降りになったので外でお茶を沸かすことにしました。こういう温かいものを飲むと生き返る気がする。ミカンといい凄く美味しく感じられる。こういう美味しさというのは日常の生活では味わえないだろうきっと。
 今日の目的地である阿曽原まで後は下りみたいである。ルートは変わらず泥道を下り、そして石段に変わり、時折足を取られながら進む。雨は降り続けておりカッパの中は汗びっしょりで汗かきの私にとってこの天気は苦手この上ない。樹林帯に入り薄暗い山の中をひたすら歩き続ける。もう少しだもう少しだと自分に言い聞かせ進める。江村さんの声で励まされる(もう少しで目的地に着くゾー)、力が湧く。突然前の方で「キャー」という声で思わず足を止めてしまった。大きいガマガエルが道の真中に座り込んでいたのだ、とんだハプニングでした。そうこうしているうちにやっと阿曽原小屋の屋根が見えてきて目的地に着いた。結構パーティが来ている、10パーティくらいかな、様々な型のテントが咲いていて黄昏の雰囲気を漂わせていた。小雨がなお降り止まず、テントを張り終え中に潜り込む。今晩の料理は麻生さんと岡部さんの担当で大変美味しくいただきました。山行のメンバーで一人でも女性が参加するとパーティの空気が和やかになるものですね。ここは野天風呂があり食事が済むと行くことになりました。暗い道、痛い足を引きずり引きずり行きました。お湯に浸かると痛みや疲れが解きほぐれるようで正に天国! 今日歩いてきた苦しさを忘れさせてくれる。その夜はぐっすり眠れ、翌朝は足取りも軽く出発。
 10月12日、小雨、今日は3日目、黒部へ戻る日で、今日のコースは割合楽そうな話を聞き心の中、一人密かに喜ぶ。平坦な道とはこれほど快適なのかと感じつつ歩を進める。樹林帯を過ぎ黒部川に出て川を右手に見ながら歩く、やがて大きい吊橋が見えてくる。普段なかなかお目にかかれない物、おっかなびっくり面白半分足元に気をつけて渡る。橋の真ん中辺りの眺望に見とれたりして「いい眺め」、橋を渡り切った所で一本取る。ルートは川伝い。少々勾配がきつくなり、そして「十字峡」。雨で水かさが増しており吊橋から見える激流、物凄い速さで流れている。雨足はゆっくり少しずつ回復に向かっている様子である。とうとう来ました「下の廊下」、ここからしばらく鎖場が続く。足元を見ると.....ゴウゴウと音を立てて流れている。思わず緊張して足を滑らしそうである。ヒヤヒヤの鎖場も終わって今度は延々と崖っぷちの道が続き、何キロメートル先までくねくねした道が肉眼ではっきり判る。「何と感動的な景色だろうか」本当に山奥へ来た気がした。こんな所が日本にもあるのですね! まるで映画のヒロインになったような気がして、一介の旅人浸りきってしまった。
 ここまでは良かったのです。予期せぬ出来事といおうか、ルートは左手に川を見ながら進み、崖っぷちもやっと終わり、川原地帯に入って間もなく「どうも調子が悪い」ペースがみるみるうちに落ちてきて、そのうち歩けなくなりとうとう座り込んでしまいました。止むなく予定外の休みにしてもらい、ともかく体を軽くしてそこの石の背によこになることにしました。疲れと空腹が原因らしい。約15分くらい休んでいると力が湧いてきて行動食を摂ったり、励まされて出発する。
 内蔵助谷との出合を過ぎしばらくすると黒四のダムがチラチラ見える。しかしなかなか着かない。この間長く感じられたがダムの下まで来た時はさすがに嬉しかった。「帰ってきたぞ」という感じで叫びたかったほど、残るのはケーブルの発着所までの登りのみ、最後のひと踏ん張りやっとの思いで到着。
 今回の山行を顧みて、これだけの距離を3日間歩き続けたのは快挙ではないだろうか。高校時代駅伝をやっていたとはいえ5年前の木曽路、7月の北海道一周を越してきたものの自分の体力の低下しているのを痛感しました。そして入会して初めての山行が”黒部”ということで私にとって想い出深いものになりそうです。江村さん始めメンバーの方々に親切にしていただいて、また色々お世話になりました。ひょっとすると病みつきになるかも知れません。これに懲りずこれからもよろしくご指導の程を。


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