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雪の蓼科山より
広瀬 昭男

山行日 1980年12月20日~21日
メンバー (L)広瀬、川又

 初めて山らしい山に登ったのが蓼科山で、顧みること13年前である。その後、何度かこの山に登ってきた。5~6年前にワンゲル仲間と一緒に登って以来、ここしばらく縁がなくいつか冬に挑戦することを夢みつつ歳月は過ぎてきてしまった。
 7時過ぎ親湯入口でバスを降りる。登山者は我々二人と単独者の計三人だ。女神茶屋までの登山道も林道ができてコース判断に多少戸惑う。昔の女神茶屋は山の中の茶屋というイメージが強かったのだがいつの間にか民宿に様変わりしてしまっていた。
 川又君にワカンの紐の結び方を教えたが直ぐに緩んでしまい使用せずに登ることにする。
 このルートは蓼科山では一番傾斜がきつい、その代償に登山道からの景色は素晴らしい。過去に登った山々が一望に見渡せる。甲斐駒、仙丈、御岳など数えたらきりがない。という訳で好き好んで何遍も登ってきた。
 途中までトレースがあったものの心配の種であった吹雪と吹き溜まりで消滅している所が現れる。いつの間にか三人でラッセルを交替で頑張っている。コースはよく知っているため不安要因はない。頂上は登れば登るほど遠ざかっていく気がする。ルートが行き詰まり三人で三方に分かれてルートファインディング。夏道を発見した時の感激が忘れられない。しかし、登山路はまだ長い。遂に岩が見えてきた。頂上直下だ。ここまでで頂上へは登らぬことに決定。吹雪の状態ではこの山の下山口は判りにくい。一歩間違えばリングワンデルングや遭難する可能性もある。単独者も頂上から先へ縦走するといって我々と別れたものの途中から引き返してきた。
 午前7時に出発し午後4時少し前に着いた。夏時間では4時間で登れるのが今日は8時間要している。実に長かった。下山路は今登ってきた道である。ところがトレースはなくなっている。真っ直ぐ下ればビーナスラインに出るコースなので道に対する不安はあまりなく、尻セードなどしながらどんどん下る。
 下るにつれ夕焼けが西の空をオレンジ色に染めつつある。北アルプス方面は真っ黒な雲に包まれている。
 茅野市街、蓼科温泉に夜の帳が下り灯火が一つ二つと星の如くキラキラと輝き始めた。温泉に浸かって雪見酒と洒落ている人達もいるだろう。
 いくら下だっても行程は長く感ずる。疲労のためかも知れない。ついに真っ暗になってしまった。すると月が雪面に光と木々が織りなす影を、幻想的な世界を創作し我々にトレースを示してくれる。月明かりでルートが分かるのだ。もし吹雪ならば完全にルートが分からない所だけにありがたかった。ようやく女神茶屋に到着。もう歩きたくない。時計を見ると既に6時になっている。第一勧銀山荘まで行くのを中止してここで幕営することに意見一致。やっとメシが食えると思いきや、コールマンの新型ピークⅠも寒さに震え上がってなかなか点火してくれない。天幕には内張りがない。寒さも一段と厳しく若さで乗り切れた山行であった。


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