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遠見~五竜岳
小柴 芳美

山行日 1981年5月2日~5日
メンバー (L)山本、江村(皦)、小柴、広瀬、安田、植村、押樽

 淡いピンクのかたくりの花、眠い目をこすりながら去年の春山合宿を思い出した。
 5月2日、地蔵の頭で朝食を摂る。目の前の残雪が眩しく輝いていた。一ノ瀬髪、二ノ瀬髪を登り中遠見までは小さな山を登ったり下ったりという繰り返しであった。あれがきっと中遠見だと期待してがっかりすることが何度もありました。
 久し振りに汗をかいた体も荷物の重さでふらついていた。
 テント場に着いたのは12時頃で荷物を下ろしたら疲れも下ろしたような感じがした。テントを張る足取りも軽く前に見える五竜岳、鹿島槍が絵ハガキのように綺麗に見え感動した。
 午後から西遠見の池まで登る。しかし、池と言っても雪のため広い雪原になっていて、こんな場所で昼寝をしたい気分になった。写真を撮ったり、山の話をしたりしてのんびりした時間を過ごす。
 5月3日、テント場を後にして雪上訓練を兼ねて白岳~五竜小屋まで登る。
 白岳までは急な登りで直登であったので、いつも変なところでドジるのでもし落ちたら下まで行ってしまったら最後だなあと思い、下の方を振り向いてみたら背中がゾーッとした。
 山頂はさすがに風が強く、時々下の方に見える尾根がきれいに見えた。
 下りはアイゼンを付けていたので石にカチカチと当たり歩きづらかった。五竜小屋の横を通り白岳をトラバースしていったが、斜め上にはくっきりと雪崩の跡が見えていたので、雪崩ということが大きく頭に刻まれ落ちてこないように自然と祈ってしまいました。そしてそこを通り過ぎた時はほんとにホッとしました。正直な気持ちです。時たま、ドーとする音を聞いたら私のことをバカみたいと言えないはずです。
 テント場に着くと昼食を摂り、後発隊の人が来るのを楽しみにしていた。普段は何とも感じない一つの出会いにも山に来ると懐かしさがこみ上げてきます。
 後発隊の人達と私達先発隊が一緒になったのは昼過ぎで、午後からザイルなどの結び方の勉強会です。全部以前に教えてもらったことがあるが、忘れてしまった人が多く、もっと真剣に勉強しなくてはと私は大いに反省をしました。
 5月4日、今回の最後の日である。五竜岳登頂という目的に向かって、かなりの人数であったので2班に分かれて出発する。
 縦走隊の人達が山頂にいるがマイペースで登る。何か張りつめている自分を感じています。「雪崩が怖い」と情けない顔を隠しているからなあと思います。時間をかけて五竜小屋に着く。
 山頂に行くまでに花が供えられた場所がありましたが、何か胸に迫ってくる生々しさを感じた。アイゼンを履いているので凍っている雪の上をスムーズに歩けたが、何度か自分で自分の足に引っ掛けてしまい転びそうになった。白い雷鳥が空高く飛んでいたり、よちよち歩きの子供のように可愛かった。
 最後に急な登りであったので不安があったが、一歩一歩大切に踏みしめた。首に汗が滲み出る頃、目の前に懐かしい顔が見え嬉しかった。縦走隊の人達は疲れも見せず、楽しくまた大変だったことを話してくれた。皆んなで記念写真を撮ったり、周囲の山々に見入って山頂の時間を過ごすがさすがに寒いので早目に下山する。
 5月5日、今日は春山合宿最終日である。下山途中、登りにリフトやテレキャビンを使ったが歩きに変わったために何度か怖い目に合いましたが、最後の方の下りには後ろ向きにアイゼン、ピッケルを使った所など。途中から滑ってしまい止めてくれた江村弟さんに怪我をさせてしまいました。江村さんの顔から血が流れているので、どうしようと思いました。自分に腹を立ててしまいたいくらい申し訳なかった。
 色々なことがあった今回の山行も心に残る一つの思い出になったような気がした。
 山に接するようになって早いもので1年になる、しかし全然進歩していないことが山に行く度に感じる。
 でも、私のアルバムは山の写真ばかりである。写真を増やすためにマイペースでこれからも登ろうと情けないことを考えている私です。

五竜合宿記
植村 隆二

 「五竜岳」と聞かされても何処にあるのかさえ知らなかったし、それも合宿となると学生時代以来のことで甚だ不安になったものです(先の磐梯山でさえもバテた)。
 ましてアイゼン、ピッケル等を使ったこともなく雪上訓練を行う予定云々となると、平素の私にとっては何をか言わんやというのが、出発前の偽らざる心境でした。
 5月1日の夜行列車で新宿を後にし、2日早朝神城駅着。さあこれからが本番だ。「頑張らなくちゃ」と気持ちを引き締めたはずが、今までこんなに重たいザックを担いだことがなかったので10分も歩かないうちに青息吐息になってしまい、テレキャビン乗り場に着くまでが何と長く感じられたことか(皆んなは慣れているのか楽々と担いでいるように見える、羨ましい限りだ)。
 キャビン、リフトを乗り継いで遠見小山まで登る、やはり楽だ。地蔵の頭で朝食、何よりも腹ごしらえが肝心だ。食後スパッツ等を付けキャンプ地に向かう(迂闊にも私はスパッツを忘れてきたので困った)。
 遠見尾根は地図で見ると楽な稜線に見えたが、主稜線に出るまでは急登がありかなりきつい。私は景色を眺める余裕もなく、皆んなに遅れまいと必死で「早く一本取らんかな」とただそればかり考えていた。
 小遠見を巻いて尾根伝いに歩き、中遠見山に着く、ここからは八方尾根、鹿島槍などの眺めが綺麗だ。一時疲労を忘れさせてくれる。キャンプ地まで後少しのはずだ。「頑張れ」少し下り、予定地の手前にて設営する。設営後、訓練する場所を探すが適当な所がなく明日の予定を変更して白岳に登ることになった。雪上での泊りは初めてだったが、夏とはまた違った感じがするものだ。
 翌3日、西遠見を越え白岳の鞍部に出る、雪渓を真っ直ぐ登りトップを交替しながら頂上を目指す。今日はサブザックになっているので軽快で昨日のきつさがウソのようだ。
 頂上は風が強く唐松岳への尾根伝いは雪も吹き飛び、稜線がはっきりと見える。
 休憩の後、五竜山荘に下り五竜頂上を間近に見ながら明日はこの山に登るんだと思いを新たにテント場に戻った。
 昼食の準備をしていると後発隊も合流し賑やかになる。我々の昼食にケチをつけながらも食する。すこぶる美味であった?
 山での楽しみの一つにゲテモノ喰がある、これも実感。夜はいつものように酒盛りとなるらしく私には少々荷が重い。明日は縦走隊とも合流し20人以上になる、壮観だろう。
 5月4日、夜来の雨も上がりいよいよ五竜登頂の日、アイゼンワークにも慣れ昨日のコースを進み、今日は雪渓をトラバースして山荘へ向かう。山荘からは頂上は見上げるように聳えている。ガレ場を通って岩稜沿いに急坂を慎重に登っていくと周りは北アルプスの山々が見え始め、雷鳥も出迎えてくれる。頂上では縦走隊が我々を見つけ何やら叫んでいるようだ。一歩一歩踏みしめながらやっと頂上に立つ。2814m、今まで私が立った最も高いところになる。周囲の山々は何度写真で見たことだろうか、やはり自分の目で実際に見るのとでは存在感が違う。新鮮な感動があるものだ。山の素晴らしさはこういう時に一番感じるのだろう。
 全員そろって記念撮影を済ませて名残は惜しいが下山を開始する。岩場は下る方が大変だ。危険な場所ではザイルを張って慎重に降りていく。山荘まで降りるとペースは速くなってくる。なぜか下りはいつも速くなる。苦労して登ったのだから、もっと味わいながら降りてくるのも一考なのかも知れない。ベースに戻ると我々に諸先輩からザイルの結び方、巻き方などを教えられた。初めてなものでうまく結べなかったが、これも練習次第で素早くできることになるだろう。
 夜、縦走隊の話を聞くととても今の私には行けそうもない。もっと経験を積んでから挑戦することにしよう。
 5月5日、起きるとモルゲンロートが美しいとのこと、待つことしばしだったが、私にはいつ終わったのか定かではなかった。それはもっと鮮やかになるものと思っていたからです。
 早目にテントを撤収し下山し始める。天気は最後の日になって一段と良くなり、雪の照り返しが眩しいくらいだ。下りはカマ天を背負ったので最初と同じくらいの重さなんだが、何だか軽く感じられる。これも余裕ができたのか?(2、3日で変わる訳ないのだが)。雪道の下りは滑りながら行くのでどんどん稼げる。スキー小屋まで降りてくると帰りはテレキャビンに乗らないのでスキー場を降りていくことになった。最初はなだらかだったが途中から急坂になっていて先が見えない。よくこんな所をスキーで降りられるもんだと感心していると、後ろのメンバーが滑り落ちてしまった。初心者はアイゼンを付け直し、トラバースしながらゆっくり降りて行ったのだが私も足を滑らして20mほど落ちただろうか、ピッケルを突き立ててもなかなか止まらない。ここまで来れば無事終了と思ってほっとしていたところでとんだ雪上訓練になったものだ。しかし、滑っている最中は無我夢中だったのに、降りてしまえば何だか愉快に感じるから面白い。実際本番でこんなことになったら大半が無事では済まないはずなんだが....。
 最後まで気を抜けない、いい教訓となった。私にとってはほとんど初めてづくしの合宿であったが、いい経験ができ、改めて山の楽しさ、苦しさ、怖さなどを知ることができた。
 これからの自分の山行にも良きアドバイスと思って役立てていきたいと思います。


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