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その4 阿弥陀岳南稜覚書
広瀬 昭男

山行日 1981年9月26日~27日
メンバー (L)広瀬、高木

 9月26日、小淵沢にて他のパーティのメンバーとしばしのお別れだ。全員無事に赤岳頂上へ来られるだろうか。
 我々南稜パーティは若手のホープ、ユニークな高木さんと二人です。丹沢モミソ沢出合懸垂岩、鷹取山にてザイルワークの訓練を二人でしてきた。入会当時「岩登りなどしません」と言っていた高木さんだが、今ではスイスイと攀じっていく。
 夜行列車の疲労も加わり朝からノンビリムードで始発バスに乗りそこない、タクシーの相乗りで学林まで行く。バスより安く早く着き、更に運転手から色々なアドバイスを受けた。曇天の中、冗談を言いつつ旭小屋へと向かう。この頃はまだ、これから先に何が起こるか思いもよらなかった。南稜入山者は我々以外に三人のパーティだけである。旭小屋より立場山まで若干のアルバイトだ。また、登山道の右側斜面はきのこの繁殖地で立入禁止となっており、違反者は10万円の罰金だそうです。時折、落ちこぼれなのだろうか道端に名の判らないきのこが頭を持ち上げていた。
 青なぎより望む対面の紅葉はまだ完全とは言い難いが、しばしの間見とれてしまう。
 2時10分頃、無名峰の鞍部に到着する。先行パーティは既に幕営済みで話をしている。我らも適当な所へツェルトを張る。トランシーバー交信の時、川又パーティのを受信する。赤岳沢は増水のため変更し、本谷からキレット小屋を目指しているという。交信後、明日のルート偵察。我ら二人「若手の飲んべえ」であることによって3時半頃より飲み始める。男二人の寂しい宴の始まりだ。日本酒8合、缶ビール2缶を水代わりに背負ってきた。
 先ほどの交信の時、時々ジジジという嫌な雑音がしていたのが正しく雷であった。まさかこの時季にと思ったが非情な雷様は許してはくれなかった。
 滝のような雨が華奢なツェルトを叩きつける。雨男が二人だからたまったものではない。相乗効果の結果がこれである。稜線上のビバークなので避難場所もなく、ただじっと我慢の子だ。しかし、予想以上に内部は濡れない。ポンチョをツェルトに被せてあるので上部は100%防水が効き、内部はシートを敷いてあるので豪雨でも快適だ。それでも雷雨の方は増々激しくなる一方で一向に酒が喉を通らない。二人して青ざめてくる。メガネ、時計等々金属類を外すが一時の気休めにしかならない。何分にもツェルトのポールは避雷針と全く同じである。行きた心地などあるはずもない。それでも夕方頃には雷様の怒りも収まり、それと共に我々のヤケ気味のアルコールもハイピッチとなる。晩飯、フランスパン、バター、スープ。
 9月27日、朝快晴、昨日の地獄とは打って変わって今朝は申し分ない天気だ。朝食は食パン、バター、ソーセージ、紅茶。
 PⅣ、PⅢはいつの間にか通過し、PⅡ直下にて正面癖をつくづくと畏怖心をもって見上げる。正面および左側リッジが登攀できるが我々は裏側のルンゼを登ることにする。ザイルを使用するか否かで高木さんと意見が分かれたが結果的には使用することにした。
 小生がトップを務める。思っていたほど難しくはない。高木さんにみっちりと確保の仕方を教えておいたのが今ここで役に立つ。「残りザイル5メートル」というコールがかかる。しかし、暫し戸惑う。万が一の時は二人共危険にさらされる状態であった。1ピッチ終了しセカンドを確保中、広河原沢3ルンゼ右俣下部よりガスが舞い上がってきた。小休止後2ピッチ目へ向かう。登攀中のコールは殆ど届かず暗中模索であった。3ピッチ目はもう岩場ではなくなり草付きになってしまっていた。ガスの巻く中、稜線で大休止。
 PⅠの左側を簡単に巻くとそこは阿弥陀岳頂上です。頂上からのトランシーバー交信は今回の山行中で一番感度が良く入ってきた。シーバー交信の好きな川又君がよく喋る。
 早く皆に逢いたいと思いつつも足の方はなかなかはかどらず風も強い。赤岳頂上直下、伊藤さんの知る人ぞ知るオリジナルのコールが聞こえた。高木さんは雷鳥の鳴き声だと主張する。そんな馬鹿な、今にも吐き出しそうな声だ。頂上着。江村、川又パーティの面々が昼食の準備をしている。やはり集中登山はいいものだ。学生時代の合宿を思い出す。
 次々と各パーティがやってくる。天気は曇っていても心は晴れている。
 文三郎を登ったことはあるが下るのは初めてで、以前登った時より大分道は整備されていた。行者小屋で数年振りに大学の先輩と偶然にも出会う。小休止の後、一路美濃戸へと向かった。
 昨年は雨のため秋の集中は中止となったが今年は無事大成功した。来年も八ヶ岳にて集中を行うようだ。南稜コースはPⅡの登攀だけがポイントで他の所は全く普通の登山道である。三峰にて沢および岩訓練を受けた者ならば十分に登れるルートであります。八ヶ岳のバリエーション入門ルートとなっていますが、それほど難しいことはありません。
 来年はどなたか挑戦してみてはいかがですか。

〈コースタイム〉
9月26日 学林(6:45) → 立場川水場(8:40~50) → 旭小屋(9:20~10:10) → 小休止(11:00~11:20) → 立場山(12:20~13:10) → 無名峰着(14:10)
9月27日 無名峰(6:40) → PⅡ終了点(8:00~8:05) → 阿弥陀岳頂上(8:25~9:00) → 赤岳頂上(10:25~12:30) → 行者小屋(13:30)

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