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滝子山
相沢 真智子

山行日 1981年10月25日
メンバー (L)相沢、岡部、村山、沼山、中村、国行、広瀬、勝部、安田、植村、増田、鈴木(竹)

 いきなり道がなくなった。防ぐ手は色々あったろうにリーダーの準備不足、心構えの甘さにしっかり答えが出てきた。ここはまだ秋の初めで紅葉にはもう一歩というところだ。
 滝子山にはずっと前から登りたいと思っていた。誰かさんが言うように、道のない山が好き、という訳ではない。どんな山だって行ってみなければ分からない。おおかた登る山はどれも気に入っている。抱え込まれて容易に出してくれなかったヤツも含めて。ただ、どちらかといえば人のいないのが望ましい。山を降りて里人に出会い、ホッと一息。そんなのがいい。
 八方道を探して、いよいよ分からない。それでも微かに人の通った気配。あれこれ検討の挙げ句、沢伝いに暫く進むことにする。巨大な石がのしかかるように散在するおおらかなきれいな沢が続いている。しばらくして右岸に渡り沢と尾根の二手の偵察を待つ。尾根に向かった広瀬さんの「こっちが良かろう」という意見に従い斜面を喘ぎ登って一休み。少しばかり見通しがついたところで開き直ることに心を決める。今更悔いても始まらない。
 電車の窓から仰いだ滝子山の特徴ある頂きが木々の間に見え隠れする。そこにあるのだもの、あそこまでだ。道なき道はこれでなかなか心地よく、私達にちゃんと譲ってくれている。どうも足が速くなる。歩みを止める。また間が開いてしまう、ゴメンナサイ。喘ぎながらの急登だけあって頂上がぐんぐん近づいてきた。
 岩に松の根が張って足の下はストンと何もない。もう先へ進めないかと思う。勝部氏がトップに出て下さる。また頂上が見えた。もう目の高さ。岩の間をすり抜ける。ただ黙々と登る。
 あそこまでだと期待して来たのに着いてみると切望的、目指す頂とは谷を挟んでこちら側にいるではないですか。「滝子山じゃないんじゃないの」の声を後に斜面を黙々と辿る。目の前に筋がある!出ました!間違いなく滝子山に連れて行ってくれるはずだ。唐突で声も出ず。数メートル辿って皆を待つ。
 「道に出たぞ」と中村氏の声。やはり道を辿るのはいいものだ。ホッとしてわいのわいのが始まりやっとハイキング気分になっていく。
 滝子山はそれから3つ目のコブであった。3時。皆さんお疲れさまでした。広瀬氏の味噌汁を暖かく美味しくいただいた。つるべ落としの秋の日はもう西に傾きかけシルエットを作りつつあったけれど、それでも360度の展望がからくも楽しめた。自分の至らなさのため申し訳のないことになってしまったけれど、色々考えさせられ勉強になった。ニコニコ笑っていられない時、人の真価が問われる。リーダーはやはり実質的に力を持たねばいけないのだ。少なくともその様な心構えでいるべきだった。調子に乗るんじゃありません。
 あの下り道で見たシルクロードの夕焼けとくっきり漆黒の富士のシルエットは忘れられない。皆さんのおかげであのしんどい山行が楽しく思い出されます。ありがとうございました。


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