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事故について
中村 順

 今回の岩つばめを見られてわかりますように、三峰にしては珍しく事故が続きました。そのどちらにも参加した者として特に中央アルプスの雪崩の時はサブリーダーとして事故を未然に防げなかったことを深く反省しております。具体的な事故の経過と反省は各リーダーが書かれていますが、私はここでは普段事故(より詳しくは爆発事故)を扱っている者として山には参考にならないかも知れませんが、事故に対する雑感を書いてみます。
 先ず我々が事故を事故として捉えるのは被害を伴ってからのことが多いのですが、本来事故と被害は区別するべきものです。事故の起きた結果として被害を生じるのであり、いわゆる大事故というのは被害の大きな事故をいうのですし、当然被害の全くない事故もあるわけです。
 こうした事故と被害の関係についてよく知られているものとして、1:29:300の法則というのがあります。これは同じ事故が繰返し起きた時、被害(傷害)の大きさの程度が1:29:300の確率になるというものです。例えば歩いていて躓いて転倒した時、重傷1回、軽傷29回、そして無傷300回といった割合で傷害が起きるというものです。
 この法則の数字は事故種類によって異なるでしょうし、同じ転倒でも雪の急斜面でのそれは遥かに重傷や死亡の比率が高くなるでしょう。しかし、この場合数字そのものを問題にしているのではなく、この法則は事故による被害の大きさは確率で決まることを表しています。被害の大きさが確率で決まるということは、偶然に支配されることであり、被害は偶然に大きくもなり、小さくもなるのでして、その偶然に支配されるところの被害の減少を図る対策よりも、むしろ事故そのものの発生の未然予防の対策の方がはるかに賢明なのをこの法則は教えています。是は被害のない事故を何回か重ねているうちに、ある確率によって大きい被害が現れ、こうした不幸を防ぐには被害が発生しない場合でも事故の再発防止、予防処置は必ず講じなければならないことを示唆します。転倒による1回の重傷を防ぐには被害の有無にかかわらず合計330回の転倒事故の発生を全部防止しなければならないというのがこの法則の安全原理です。山でいうなら遭難対策も必要ですが遭難を起こさない、その予防に重点を置いた技術体系の完成、努力がより必要と考えます。


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