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東沢渓谷ヌク沢左俣
山田 達雄

山行日 1982年7月18日
メンバー (L)植村、安田、中村、山田

 奥秩父の笛吹川の上流には西沢と東沢の分かれる手前から破風山、木賊谷の頭に突き上げ、途中260m(三段)の大滝のあるヌク沢がある。この沢を遡行し三国境の甲武信岳に登り木賊山から東沢入口付近に出る鶏冠尾根を下る、夜行日帰りコースである。
 前日からの雨も小雨になり、午後11時30分に塩山に着いた時は路面が乾いていた。駅前でタクシーに乗り西沢渓谷入口まで行く。運ちゃんに天候を聞くと「雨は昼頃止み量も多くなかったが、明日は曇り後雨だよ、あんた達も悪天候に山登りだなんて好き者だねぇ」と言われお互いに顔を見ると、なるほど好き者揃いのようである。誰かが「夏休み前の一番人の少ない時に、それも雨模様の中を登るのなんて山の通だよな」と自ら慰めるようにポツリと....。
 川浦温泉の前を通り渓谷入口へ着くと店があり、その軒先で仮眠。夜中にタクシーで来たグループが我々の隣でゴソゴソ。女性の声がする。混成パーティかと夢うつつに思いながら寒さに身を丸くする。
 翌朝7月18日5時出発、ヌク沢出合まで約20分、砂防ダムを越し河原で朝食、沢はあまり増水していない。青空も見えてきた。快適な沢登りが楽しめそうである。6時10分出発、近丸新道の出合(案内書ではここが出発点)まで小滝とナメが続き水もさほど冷たくない。出合まで約1時間、出合を過ぎると明るくなり遠望がよくなる。二俣まで同じような登りである。二俣に7時45分に着く。二俣の先は三つに分かれており、右側の沢の上方には林道の橋が見える。二俣の左側の沢を行く。この先トヨ状、小滝と続き、そしてアッと驚く大滝260m(三段)である。下から中、上段の滝は見えない。下段100m、中上段80m、下段は滝の右側を困難もなく登る。中段の滝を見上げウー。滝の上方にはザイルを使用した4人くらいのグループが登っている。幅30~50mの岩壁の左端の方を水は流れている。前のグループが登るまで約1時間くらい休憩する。我々はほぼ中央を登って行く。トップを行く植村さんはスイスイと行くが、沢登りの経験の浅い私にとっては真剣である。10数メートルの所で次のホールドが見つからず、岩はヌルヌルして足場も悪い。不安にかられ恐怖心が出てきた。こりゃヤバイ、一段落した所で下を見ると中村さんが重い重い体を持ち上げるのに苦労している。そしてその下に、これはまた猿のようにヒョイヒョイと安田さんが登ってくる。中程でトラバースして右側の草付きを登る。上段の滝は苦もなく登る。後は気楽に登り甲武信小屋に着いたのは11時。甲武信山頂は三国の境とオオゲサにいう程の山頂ではなかった。
 木賊山山頂に12時20分に着き、鶏冠尾根に入る入口は山頂から少し下だったところにある。入口にポリ袋に入ったメモがあり「◯月◯日 PM◯:◯◯ 尾根に入ったが迷い引き返した」とあり、不安をいだいて山道に入ったが最近整備したのか密生した原始林の中にハッキリしたコースがあり、いたる所に赤丸印がある。原始林を出ると木立も疎らとなり沢から登ってくるコースが多くなり、道は不明瞭になってくる。鶏冠山を過ぎ第2岩峰の上に出る。垂直約18m2段アプザイレンで降りる(と簡単に書いたが私にとって初めての経験、◯◯年山に登ってきたが、道具を使用して岩壁を下るなんて...、でも垂直の岩壁の途中から見る景色も悪くないなァ)。この後、道は枝道が多くなり迷いやすいので要注意。
 最終バスまで後1時間、駆け足、駆け足。東沢に出て沢に大木の橋がある。苔むし腐っており渡った形跡がなく、今にも落ちそうである。この橋を植村さんが四つん這いになってそろりそろり、後の連中も付いて行かなくてはならなくなり下を見てヒンヤリ。どうにか渡り振り返ると対岸の沢の下だった所に何と立派な道と橋があるではないか。チキショウ!前進すると旧東沢登山口の河原に出る。本道は対岸である。ここでまた徒渉、川の水は冷たく石のためか足の裏が痛む。ヌク沢の出合に着いた時は17時20分で、丁度12時間歩いたわけだ。最終バスは17時でタクシー待ちの登山客が多くいる。我々は缶ビールを片手に一つ下のバス停まで歩く。何にために、もちろん川浦温泉に入るために。露天風呂で痛む足をほぐしながら本当によく歩いた一日でした。


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