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夏山第一合宿 飯豊連峰縦走
村山 くみ子

山行日 1982年7月24日~27日
メンバー (L)安田、高木、麻生、村山

 まだ梅雨の明けきらぬ7月23日、播磨氏を始め、伊藤、広瀬、植村、勝部各氏の見送りを受け、上野発23時49分発の急行ざおう3号に乗り込む。メンバーはポーカーフェイスのリーダー安田、高木、麻生、村山の4名である。
 一昨年の夏、朝日連峰の縦走をした時から飯豊の名は私の心の中に住み続けていた。山形、新潟、福島の三県にまたがる飯豊とはどんな山のか、今年こそ一人でも行こうと決めていたところ、やはり飯豊に興味を持っていた人達がいるということで合宿を組んでいただいた。一人より人間味豊かな山仲間と一緒の方が楽しいもの、私は期待に胸を膨らませた。
 米沢で米坂線に乗り換え越後下関に着いたのは陽もすっかり暖かさを感じる8時29分、太陽の光が睡眠不足を吸い込んでくれるようだ。束の間の晴天かな、風が生暖かい。
 タクシーで大石ダムへ入る。軽く朝食をとり、ダムをバックに記念撮影をしているうちに、いよいよ山へ行くんだという気持ちが広がってくる。9時45分、ダムを後にする。
 夏山が暑いのは当たり前のことと解ってはいるけれどいつも同じようなことを思う、今日はここで天幕張って寝転んでいたいなあ。麻生さんが沢の水で作ってくれたレモン水に元気づけられる。たっぷり休憩を取りながらの1日目、大熊小屋に着いたのは15時45分。小屋の手前の沢の水が快気に流れている。広瀬氏が話していた泳げる所とはここだろう、水着を持ってくればよかった?小屋には沢登りを終えた人達が入っていた。天幕を張り夕食準備にとりかかる。本日は豚汁、虫よけの薬を塗りながら外で食べる。
 25日、起床3時30分、懐電をつけて飛び起きる。天幕の中は蚊、蚊でものすごい。手を出して寝ていたものだからもっこり腫れている。網シャツを着て夕飯を食べていた安田さんは背中がひどい。皆んなどこかやられているが私の手が一番醜かったようだ。蚊取り線香をつけると蚊がボタボタ落ちてくる。
 5時55分、小屋を出発、雨が降り始める。覚悟の上とはいうもののやはり気落ちする。幸いにひどくはならず一杯清水に着く頃には晴れ間さえ覗いていた。蒸し暑い尾根の登りの途中の水場は安らぎを与えてくれる。9時55分、稜線が見え始める。稜線に出ると風が強くなりガスってくる。大熊尾根終了、10時45分。杁差小屋一帯がニッコウキスゲの群落である。晴れていたらもっと素晴らしいのではなかろうか、小屋に入りお腹を満たす。行動食の担当は高木さんだ。草餅、オレンジ、ソーセージ、ジュースなど色々持ってきてくれている。少しずつ減っていくのが楽しみなんだとか。杁差岳のピストンは低い丘を登っていくような感じ、展望は花の中に小屋が見えるだけである。
 花に見送られて杁差を後にする。播磨さんが話して下さったヒメサユリらしき花が現れる。花の大きさ形ともニッコウキスゲによく似ているが色は薄いピンク色、麻生さんとこれだこれだと喜ぶ。勉強不足のため他にも色々咲いていたが紹介できないけれど、とにかくニッコウキスゲが最高だった。
 大石山を過ぎ頼母木小屋、13時55分着。水道がジャンジャン流れていて驚いた、こんな水場があるとは思わなかった。今日の幕場の門内小屋の水場はどんなものかわからないが雪渓が豊富なのだから心配はないだろう。
 雨は相変わらず降り続く、何も見えないので足元ばかり見ているが、頼母木山を過ぎる辺りミヤマウスユキソウが目に入った。16時30分、門内小屋着、他に天幕2張あった。今夜の食当は私、じゃがいも、ニンジンの他持参のカレーライス、肉の代わりに鮭缶を使う。
 3日目、6時25分発、土砂降りに近い雨の中の撤収だ、濡れることが気にならなくなるとむしろ楽しくなってしまう。これも一人じゃないからだろう。鋭鋒と言われる北股岳もコース的に通ったという気がするだけ、梅花皮小屋を見ながら下っていく。石コロビ沢雪渓を見ようと少し下だってみる。ザラザラの雪だが懐かしい。いつかここも歩いてみたいと思う。梅花皮岳から振り返って北股岳を見るととても大きく見える。そして雪渓があちこちに素晴らしく残っている。今まで山に隠れていて気づかなかった所に膨大な雪渓を見た時、飯豊の山を感じた。御手洗の池の側の道は雨のため、小沢の状態になっていて沢登りの気分にもなった。天狗の庭から先、道が雪渓上にあったり、また登山道に戻ったりしながら進む。左側は本当の大雪渓、誤って滑ったらどこまで行くのかわからないと思われるほどだ。御西小屋の少し手前で道が二つに分かれた。左へ降り気味に行くとすぐ小屋に出る。12時20分である。
 ひとまず小屋で休もうとしたが覗いただけで諦め風にあおられながら天幕を張る。大日岳ピストンの予定も全員一致で止めるほどの雨の振り方だ。夕食までの間、火を囲んでくつろぐ、お互いの人間性が現れるこんなひとときが私は好きだ。さて今夜はソウメンと焼豚、食当安田、今回の山行の食事はみんな最高だった。二皿に分けて食べたのに高木、麻生組の分があっという間になくなり性格がわかるなあと大笑い。
 27日、相変わらず雨の中の出発。御西岳は頂上のすぐ下に道がついている。駒形山を過ぎるとガスの向こうにぼんやりと本山が見えてくる。せめて本山では晴れて欲しかった。8時10分、本山着。神社で一休み、川入までの下山に向かう。山小屋らしい切合小屋を過ぎる頃から雨はすっかり上がってしまう。飯豊連峰、雨と雪渓、そしてよく歩いた。振り返るたびに山が遠ざかる。三国岳に着く頃は汗をかくほど、空は憎らしいくらい晴れている。いつもこんなものかな山は、登れなかった大日岳、そして雨の飯豊山にまたいつか来れることを祈って別れる。滑ると一寸危ない剣ヶ峰を過ぎ地蔵小屋、歩きにくい木の根坂を通り沢沿いの林道に出る。終わったという安心感と名残惜しさが入り混じった気持ちを引きずって川入到着、16時、皆さんお疲れさまでした。できることなら本当にもう一度歩きたい。晴天の日を狙って。東北の山は少しも派手さがない、しかし、いつまでも心に残る山だと思います。


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