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富士山雪上訓練
佐藤 朋子
山行日 1982年12月4日~5日
メンバー (L)広瀬、植村、安田、国行、桑名、片岡、岩崎、勝部(久)、麻生、市川、牧野、古矢、佐藤(朋)

 12月3日、21時新宿発で富士山へ向かった。富士吉田からタクシーで中ノ茶屋まで入り、12時15分出発。一列縦隊で一人おきに懐電を点け暗闇の中を進む。馬返しまでは林道だが、8月の台風のためか道の半分がパックリ陥没している所が多い。富士山特有の火山灰土の感触に、「ついに日本一の山、富士山に足を踏み入れたのだ」という感慨が湧く。
 馬返しを過ぎるといよいよ山道となる。月明りはあるが木陰に入れば真っ暗だ。1時間に一本とりながら進むが、高度が上がるにつれ風が冷たくなり、寒くてじっとしているのが苦痛になってくる。それにも増して辛かったのは、絶えず襲いかかってくる睡魔との戦いだった。次第に目がかすんで足元が見えなくなってくる。普通なら何でもない所でつまづく、みんな眠くないのだろうか、と問いかけると「眠い」の一言。
 夢遊病者のようにふらつきながら、午前5時20分、幕営地の佐藤小屋に到着する。東の空は白み始める。テントを張り陽光から逃げるようにシュラフに潜り込む。6時30分くらいだった。
 9時半起床。朝食の後、ザブザックで出発。11時30分近かった。五合目からはいよいよ富士山特有の火山灰のずるずる滑る急坂となる。しかも夏道はひどく荒れていて、一歩登ると半歩下降する。天気は良好、風も思った程強くなく白峰三山、八ヶ岳の展望がよくきく。
 13時30分、七合目小屋着。軽い食事をとる。今年は雪が少なく、八合目より上に行かないと訓練できないとのこと。八合目まであと1時間、訓練開始3時とすると下山は真っ暗になってしまう。更にメンバーの疲労度からリーダーの判断で、今日はここで下山ということになった。ベースキャンプ着3時半。明日またあの坂を登るのかと思うと気が重い。
 18時頃、豚汁を囲んで夕食が始まる。ここでリーダーから重大発表。「明日は昼には下山しなくてはならないという時間的制約により訓練は中止」。今夜は皆ヤケ酒で、盛大な宴会だ。21時、後発隊の4名到着。23時就寝。シュラフに潜っていてもテントがバサバサと頭を叩く。「この風では明日登ったら事故が起きるかも知れない」と嫌な予感がする。
 翌朝7時起床、下山だけなのでみんなのんびりしている。朝食後11時出発、風が強い。昨夜、眠さでふらふら歩いた道も明るい陽射しの中では快適な下りで、あっという間に馬返しに着いてしまった。ここで富士山をバックに記念撮影。八合目から上は氷でとろとろに光っている。山頂までくっきりと美しい。富士山は登る山でなく見る山だ。富士吉田駅着午後3時15分。振り仰ぐ富士はすっぽりと雲に覆われ、その雄姿を再び見ることはできなかった。
 そして帰宅後、この日にやはり富士山で滑落事故があったことを知り、予感的中にゾッとした次第。
 今回は睡魔との戦いが辛かっただけで荷物も軽かったし楽な山行だった。
 テントを担いだヤングパワーのお二人はご苦労さまでした。


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