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ボッカ訓練
佐藤 朋子
山行日 1983年6月12日
メンバー 勝部、伊藤、中村、佐藤(哲)、川又、赤松、佐藤(朋)、高橋(正)、塩沢、片岡、佐藤(明)、岩崎、吉岡、宮沢、桑名、播磨、川森、国行、千代田

 6月12日、関東地方にも遅れていた入梅宣言が発令された。大倉キャンプ場も厚い雲に覆われ肌寒ささえ感じる。今日はボッカ訓練。ただでさえユウウツなのに、頭上から覆い被さるような冷気は、体の中にも30キロのザックを抱えているような圧迫感で迫ってきた。
 今回のボッカは、男性35キロ以上、女性25キロ以上となっていた。「冬山に入るには、30キロ背負って6時間歩いても、十分余裕があるくらいの体力が必要だ」と言われていたので、私は何が何でも30キロ背負おうと決めていた。勿論、30キロ背負うなんて初めて、30キロってどのくらいなのかも知らなかった。
 朝食後、各自ボッカ用の荷造りを始める。石、パイナップル、グレープフルーツ、甘夏、水等々、ちょうど30キロになった。さて、それでは背負ってみるか「うっ、あれっ・・・・持ち上がらない、何たることだ」。必死で膝まで持ち上げ、半分助けられながら何とか背負う。石が下なので重心が悪く背負いにくいことこの上ない。これを背負ってバカ尾根から塔ヶ岳まで果たして行けるだろうか。いや、這ってでも担ぎ上げるぞ、負けるものかー、自分との戦いだ。
 悲愴な覚悟で9時20分出発。山頂までペースを崩さないように、マイペースでゆっくりゆっくり歩く。みんな歩くのが速い。とても私にはついていけない。結局、一番後ろをのっしのっしと歩く。その後からついてきてくれた勝部さんと川又さんには、申し訳ありませんでした。
 荷重は腰にぐっとかかる。汗は滝のように流れ落ちる。しかし、最初の一本までで重さにも慣れ、ペースにも乗ってきた。何度目かの休憩でパイナップルを食べたため、その分の石を入れる。ザックを背負う時も何とか担ぎ上げられるようになった。
 高度を上げるにしたがい、霧雨と風が強くなる。火照った体をちょうどよく冷やしてくれる。バカ尾根も思ったほど滑らず、さほど苦にならず花立に着く。山頂までもう一息。苦しいとか重いといった感情もなく淡々と足を運ぶ。
 山頂着、14時20分。5時間の行程だった。山頂は霧雨と強風。とてもじっとしてはいられない。風を避けられる場所で石を捨てる。腰掛にちょうどいい大きさだったので、さっそく腰を下ろす。播磨さんが担ぎ上げた、熊田さん差し入れのスイカの美味しさに、みんなの顔もほころぶ。私は、石と一緒にグレープフルーツ、甘夏など全部放り出して、ザックを空っぽにする。ザックを逆さまにして叩いた時の快感ー。
 みんな寒さに震えながら腹ごしらえして、15時には出発、烏尾尾根を下ることになる。身軽になった分、体に羽が生えたように足が速まる。そういったみんなに交じって、相変わらず40キロを背負って歩く片岡さんの根性には頭が下がった。
 烏尾山頂までは、いくつかのピークを越える。風と霧雨の中、ほとんど走るような早足で飛ばす。山頂着16時15分、大倉キャンプ場まで1時間45分の立て札がある。
 ここから下りは細い急坂で、しかも濡れているためドロドロ、ズルズル、こういう下りは走るに限ると飛ばす。途中から川森さんと佐藤(哲)さんの後を走っているうちに後続と離れてしまう。と思っていると、突然目にも止まらぬような速さで佐藤(明)さんが横をすり抜け、あっという間に見えなくなってしまった。なんという身軽さ、今のは人間か?。
 川森、佐藤(哲)、私の3人は、お互いに「ロートルだからお先にどうぞ」と先頭を譲り合いながらも、先頭を走り続ける。「歩きたいよー!」と言うと、後から川森さんが「だめ、走るのだ!!」と追いたてる。顔に似合わず怖ーいお兄さんですこと!!、駆け下りること30分で新茅小屋の車道に出る。霧雨と汗で髪毛はビッショリ。
 車道歩き45分で大倉キャンプ場到着。当然、先に着いてお酒でも飲んでいると思った明氏の姿が見えない。「あれっ、どうしたんだろう」後から到着した人の話によると、突然ヤブの中から明氏が這い上がってきたという。何とユニークなんだろう。またスピードを出し過ぎてヤブの中に飛び込んだというのか、転がり落ちたというか。「この御仁、本当に人間かしら?」私の疑問は増すばかりなのです。この落ちで、この日は疲れがいっぺんに吹き飛びました。
 三峰に入会するまでは、せいぜい15キロしか背負ったことがなかった。自主的にやった初めてのボッカ訓練の時は22キロでも辛かった。それなのに今回は30キロ段々自分がたくましくなるのが何となく寂しい。「普通のおしとやかな女性でいたい、でも山に行ってもバテないくらいの体力もつけたいし・・・」複雑な乙女心に揺れるのです。
 とか何とか言いながらも、今回は自分がいかに登りに弱いか悔しいぐらい思い知らされた。体力に男女差があるとはいえ他の人たちは、35~40キロを背負っているのに、30キロしか背負っていない私がどんどん引き離されてしまった。これでは他の人の足を引っ張ることになる。登りに強くなるためにも、もっと体力をつけなくては、と言っても意志の弱さからくる寂しさよ、トレーニングもままならず自己嫌悪に陥るばかりなのです。
 いやー、みなさん本当にタフですね。おつかれさまでした。


塩沢 久

 前夜からの宿泊組と合わせて、8時30分には大倉キャンプ場に全員集合。前夜組は当日組が到着する度に空のザックを取り上げて、嬉しそうに石を放り込んでいる。
 新入会員の私としては、空模様と共に何か非常に心配になってきた。恐怖のザック計量も終わったところで、9時には大倉を出発。
 大倉尾根から塔ヶ岳を目指した。各自の体力に合わせて20~40キロの荷物を背にしているが、初めは皆余裕があるのか、それともミエなのか笑顔や冗談が飛び交っている。ほぼ30分に一本のペースで歩いて行くが、なだらかな道から本格的な登りが始まる頃には笑顔も消えて、汗も振り絞って一歩一歩登りつめて行くようになった。堀山の家を過ぎた辺りからが一番苦しい急登になり、赤土の急坂を登り切って花立山荘の前に出た所では思わずザックを投げ出して大休止、でもここまで一人も石を出さずに頑張った。塔ヶ岳まではあとわずか、全員出発時のままの重量で山頂に無事到着。スイカを食べてお酒を少し飲んで、さあ下山。小雨がパラついているものの、荷物がなくなったので見る見るうちに行程がはかどる。烏尾山まで表尾根を辿り、あとは尾根を戸川林道に下山。林道を辿れば今日の出発地、大倉のキャンプ場に到着。

各自の重量
赤松 35kg、塩沢 33kg、片岡 40kg、吉岡 35kg、佐藤(明) 35kg、岩崎 35kg
国行 30kg、佐藤(哲)36kg、宮沢 40kg、川又 35kg、桑名 35kg、中村 35kg
川森 35kg、高橋(正)35kg、播磨 25kg、伊藤 30kg、佐藤(朋) 30kg、千代田 25kg
勝部 35kg

〈コースタイム〉
大倉(9:00) → 一本松(11:00) → 駒止(11:30) → 花立(13:30) → 塔ヶ岳(14:20)


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