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夏山第一合宿
その1 後立山連峰縦走A隊
加藤 次男

山行日 1983年7月27日~30日
メンバー (L)中村、江村(真)、比留間、千代田、加藤

 7月26日夜新宿集合。麻生さん、佐藤さん、佐藤(哲)氏、そして岩崎氏が清々しい彼女を連れて見送りに来てくれている。この日は長かった梅雨が明けた日で、天気の回復に感謝する。定刻にアルプス11号発車。
 7月28日、白馬で降りたのはたいした数ではなく我々はタクシーで八方尾根のケーブル乗場へ向かう。天候曇り、江村氏が上は雨かなと言う。案の定ケーブルで上がっている途中で雨が降ってくる。とにかくリフトに乗り継いで雨の中を八方池まで行くが展望は利かない。ガスが巻いたり、風で消したりする中、雨筋が空間を引っ掻いたように見える。雷鳴も聞こえるので唐松岳への道を断念し、栂池からのコースに変更し下山する。運良くタクシーを拾うことができて栂池自然公園に入り、水場のある駐車場を今日の幕場とする。食当は比留間さん。
 7月28日、雨は上がっているようだ。湿った空気の中に久しぶりに大きな虹を見る。6時出発。ルートは大池から三国境へと続くそれである。明瞭な道が天狗原まで延びており、そこから乗鞍岳へと、途中雪渓のある所を登って行くが、臆病な小生は多少不安である。稜線は広く風がまともに当たって冷たいくらいで、またガスに巻かれやすい所だが、ペンキの道標べに従って大池に下って行ける。大池で昼食後、いつの間にか青空の広がった中を、三国境まで快適な稜線漫歩である。途中、白馬方面からだと思うが下山者が結構多い。小蓮華岳を過ぎ三国境を少し巻いた所でお茶タイム。生憎白馬岳はガスのためその全容は確認できないのは残念だが、ここ三国境は静かな景色の良い所である。山肌の白、雪渓の白、雲の白と微妙に異なる白を基調とした世界で、高山植物の緑やその中に控えめに埋もれている黄や紫、ピンク色した花々のアクセントが何とも言えない。今日の幕場は雪倉岳手前の避難小屋と決めるが、着いてみるとそのキタナさに呆れて、つばめ平という水場のある所に変更し、ゆるやかなガレた雪倉岳を登り下って行く。多少ガスってきて一人では不安だろうと思う。1時間程下って右手に小さな水溜りを確認し、この辺りをつばめ平と判断し幕場を捜しながら下る。夕方5時過ぎ沢筋の所でザックを下ろす。ガスがまるでアメーバのように稜線を包み越えていき、その切れ間に明朝登る朝日岳が見え隠れする。テント設営後水場近くに陣をとり、食当の千代田サンの指示でイモを洗ったり、ニンジンを切ったりである。昨日に続き旨い食事にありつける。全く感謝感激雨霰である。いつの間にか月がはっきりと輪郭を整えて山の背にかかり、天頂にはカシオペア座が確認できる。しかし、その他は判らずせっかくコピーした星座表を忘れたのを悔いる。
 7月29日、4時起床。薄暗い中、江村氏トップで朝日岳へ向かう。途中振り返れば昨日越した雪倉岳は結構大きい。朝日岳頂上には小屋からの登山者が既に来ており思い思いに展望を楽しんでいる。剣岳がひときわ目立つ。休憩後、今日の目的地犬ヶ岳を確認しどんどん下る。途中"栂池新道を経て日本海"という標識を見て、いくつか小さなピークを越し、広場のような長栂山でなんと1時間の休みをとる。ここから黒岩平辺りまでは所々湿地が広がり、ミズバショウやニッコウキスゲ等の咲く気持ち良いルートで、特に黒岩平は雪融け水が流れ箱庭のような涼しげな別天地である。
 しかし、ここから先のルートは半分ヤブこぎのような所で景色を楽しむどころではなく、いつしか低山の趣きを呈してくる。いささかそんな道に飽きる頃さわがに山のピークに着く。さすがに犬ヶ岳がすぐ前に堂々と台形状の山頂を横たえている。多少ガスっている。犬ヶ岳山頂で長かった朝日岳からの道を振り返り、記念写真を撮り肩の小屋に急ぐ。既に2パーティが居たが、江村氏の貫禄で一隅を空けてもらう。食当は江村氏。
 7月30日、5時起床、御来光を求めて頂上にピストンするが地平線はガスっていて、太陽は出そうで出ない。それでも辛抱強く待った甲斐あって今回の山行で初めての御来光を拝む。犬ヶ岳からはあまり変化のない道が続き、そのせいか心は既に日本海である。白鳥山のピークを越し、だらだらと下って行く。途中の水場で昼食。小生の食当食が昼食となる。この沢筋でルートを捜すはめになり30分程立ち往生する。入道山を越した頃、波の音がかすかに聞こえてきてやっと日本海に出るという実感が湧く。薄曇りの中、明瞭な登山道を親不知へと急ぐ。


比留間 恭子

 5月末、三峰山岳会に入会させて頂き、7月の夏合宿に参加できるとは夢にも考えていなかった。テント生活も炊事生活も全く初めて、そして第一に5泊6日もの間、元気に歩くことができるだろうか。出発の日が近づくにつれて、嬉しさよりも不安で一杯。
 いよいよ7月26日が来た。23時20分新宿発アルプス11号で白馬に向かう。パッキングのコツを知らない私のザックは、まるで空気袋のように膨らんでいる。「今回は何も期待せず最後まで歩き通すんだ」と自分に言い聞かせる。参加者は江村のお兄さん、中村さん、加藤さん、千代田さん、私の五人。よろしくお願いします。
 27日(1日目)5時40分、白馬駅に着き、タクシーでロープウェイの乗り場に行く、始発は7時。軽く食事の後、雲行きを見ながら休養。7時、白馬ケーブルで兎平まで行く。ケーブルを降りた途端、雨がものすごい勢いで降り出す。何とかリフトを乗り継ぎ八方池山荘まで辿り着き、雨の具合を見て八方池に向かう。途中雷が鳴り出し、雲の流れによって雨が降り出す領域がはっきり判る程。雷には勝てず証拠写真を写した後、諦めてルート変更する。白馬山麓からタクシーで栂池へ、夜行のためタクシーの中ではぐっすり寝てしまった。午後3時、栂池ヒュッテの下に天幕を張り、少し早めに夕食の準備に取りかかる。初日の食当は私、雨が止まずテントの中で調理する。鶏肉の照り焼きとサラダ。初めての食当なのでまごつき、みんなに手伝ってもらう。明日のルートを話し合い、激しい雨と風の中休む。
 28日(2日目)依然、雨と風が強く4時出発を延ばす。朝食にラーメンを作り6時出発。栂池自然公園をちょっと散歩して天狗原を通り、白馬乗鞍岳に8時15分に着く。天狗原は池塘が多く、小さな花が咲き乱れている。乗鞍岳の途中、江村さんは今晩のおかずにと、山菜採りに熱心だった。白馬大池で軽く休憩、2千メートルの所にある池に驚く。この後、三国境まで稜線歩きになる。三国境は雪渓の上を通り、冬山の経験のない私は滑って転ぶこと数回。昼食は雪渓を見ながら昼寝などしてのどかに過ごす。2時45分雪倉避難小屋で天幕といっていたが、明日のことも考えて雪倉岳を越えツバメ平に4時30分に到着。この雪倉の登りが疲れていることもあって非常にきつかった。山頂はガスがかかり展望はゼロ、無言のまま夢中で歩いた。ツバメ平は花は咲き乱れ、雪渓の水は冷たく天幕を張るには絶好の場所。夕焼けを眺めながら千代田さん食当のミソ味の野菜炒めとツナののスープをいただく。千代田さんは学生時代ワンゲルとあって山の持物が一風変わっていて驚いた。雨で少し湿った花火を恐々、騒ぎながらみんなで楽しんだ。
 29日(3日目)、今日こそ3時起床、4時出発。懐電を照らしながら石の上を一旦下り、小桜原に出て朝日岳の登りになる。小桜原ではまだ水芭蕉が咲いていた。尾瀬でしか見たことのない水芭蕉をこんな所で見られるなんて感激。今日は朝日岳から展望が期待できそう。白馬岳は見えるかな。6時25分朝日岳山頂。これから歩く長袖山や犬ヶ岳、かすかに海岸らしきものもわかる。いよいよ栂海新道に入り日本海に向けての下山。
 8時30分、長袖山に着く。なだらかな山で腰を落ち着けると、なかなか動きたくない山です。岩の間にひっそり咲いている駒草を見た。注意されなければ危うく踏みつけてしまうところだった。黒岩平を抜け2時5分、サワガニ山に着く。この間あまり人が入っていないらしくヤブ漕ぎのような道。汗があふれ出る。山頂で記念写真を写すためサワガニ山と書いてあるプレートを取り出すと、なんとプレートの後方に「死んでまえ、こんなボロ道つくりおって」と書いてあるのには一同爆笑。たまらない一瞬。依然ヤブ漕ぎの連続で4時45分、犬ヶ岳山頂に着く。今日は本当に「歩いたー」と実感できる一日。朝、朝日岳から犬ヶ岳を眺め、半信半疑だったが遂にここまで来た。栂海山荘まで15分ぐらい。前に江村さんが現地調達したゼンマイのような山菜のミソ汁がおいしかった。
 30日(4日目)、起床4時、昨日朝日岳が見られなかったので御来光と合わせて犬ヶ岳にもう一度行ってみるが、期待外れに終わる。朝食の後、同じコースを1日遅れて来る今村さん一行の目印にノートに記入、6時30分山荘を出発。「今日一日、がんばるぞー」時々にわか雨が降り出す天気。再度のヤブ漕ぎ。白鳥山に向かう途中急登のガレ場では、ニホンカモシカを見る。こんなことはまれに見る出来事だそうで、つい声を張り上げてしまう。疲れもなんのその11時50分、シキ割の水場で今晩の食事を昼食にとる。今回の山行は食事に最高の贅沢をしているのが初めての私にも良くわかる。のんびり行くことにする。ここまで来れば日本海は逃げないでしょう。3時50分、尻高山。4時40分、二本松、判りづらい道だが順調に進む。「日本海だ」と誰かが言うとみんなの足が速くなる。舗装道路に出るまで油断はできない。6時30分、親不知(日本海)に到着。犬ヶ岳、白鳥山から日本海(栂海新道)の標識を目にして、「本当に歩いたんだ」と充実感で一杯になる。
 良いメンバーに恵まれ、全く初めての縦走でここまで来れたことに感謝します。ありがとうございました。山の生活も知らず、見るもの聞くもの全てに感謝した縦走です。もう一度来たいとは思わないけれど、素晴らしい山行でした。ちょっと自信もつき、たくましくなったようです。皆さんお疲れさまでした。


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