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夏山第一合宿
その2 後立山連峰縦走B隊
棚網 宏

山行日 1983年7月28日~31日
メンバー (L)今村、棚網、町田

 7月28日~31日までの日程で、今村氏をリーダーとして町田さんと私の三人で後立山連峰の一部を縦走した。
 本パーティは、そもそも夏山第一合宿に日程などの都合で参加できなかった人々の集りであり、合宿組が27日に八方尾根から唐松岳経由で栂海新道に入るコースであるのに対して我々は、1日遅れで白馬の大雪渓を登り、白馬岳で合宿組と合流して、同コースを行こうというものである。
 主装備(テント=ダンロップ4~5人用、コンロ=EPI、コッヘル等)は、全て今村氏の私有物を借用し、食事は朝と昼は行動食とし、パンを主食にし夕食はアルファ米を主体とした献立にした。
 なお、本山行報告は28・29日分を棚網が、それ以降は町田氏が担当する。
 7月27日は平日のためか我々の乗車したアルプス9号はかなり空いており、八王子でも座れる状態であって、ワンボックスを三人で占領でき、快適な旅の幕開けとなった。
 翌日白馬駅には定時に着いたがバスの発車が20分程遅れたため、猿倉に着いたのは6時半頃となってしまった。ここで朝食と準備等を済ませ、7時半に出発した。
 以後コースタイムを中心に書くと、白馬尻着が8時25分、発が8時40分、大雪渓には2時間程かけ葱平の岩小屋には10時45分に着いた。この雪渓は人々の列が途切れることなく続いており、また火山灰状の粉状でコースがハッキリと判るので、比較的歩きやすい。私一人が軽アイゼンを使用しなかったが、特に必要性は感じなかった。雪渓上でスキーをやっている人もいた。
 岩小屋で昼食を済ませ、10時45分に出発した。途中、小雪渓をトラバースし美しいお花畑を通過し、村営頂上宿舎に到着したのは13時30分であった。時間的には更に足を伸ばすことも可能であったが、当初の予定通り合宿組と合流するため本日は白馬止まりとした。
 しかし、後日知ったことであるが、合宿組は前日の悪天候のためコースを大幅に変更し、この日は既に雪倉岳を少し過ぎた地点で幕営しているのであった。
 白馬岳のキャンプ指定地は100張り程度は可能であるが、目前がゴミ捨て場であるのには閉口した。
 猿倉では若干小雨に降られたが、この日は一日中雲天であった。頂上付近まで来るとかなりの強風であり、寒さもきつかった。深夜はすっかり晴れ上がり、月の光でテント内は影ができる程明るかった。
 翌29日の朝は快晴で山頂からの展望を充分満喫できた。5時半に山頂を出発し、雪倉の鞍部に着いたのは7時頃である。ここの避難小屋は便所はかなり汚れているが、20~30人くらい収容可能な部屋は、結構きれいに保たれていた。30分休憩し朝食をとる。朝日岳山頂に着いたのは12時30分である。この登りは私にはきつく感じた。山頂で昼食となる。
 13時40分にいよいよ本山行のメインテーマである。栂海新道の入口に着いた。ここから本日の幕営予定地である黒岩平までの道、もちろん今まで来た道よりは頼りない感じがするが、栂海新道全体の中では最もしっかりした区間である。
 間違いようのない程しつこい「栂海新道入口」の案内板の示す方向に進むとすぐ、オオシラビソの林の中に道は入る。先程よりはかなり歩きづらくなるが、途中テープや道標があり、道を外す心配はあまりない。林を抜けるとすぐ「照葉ノ池」というあまりきれいではない池が現われ草地となる。しばらく快適な草地を歩くと今度はガラ場となり長栂山となる。この付近はかなり広くなっており、路地から国道に出たようだ。視界が悪い時は道を外さないように注意が必要だ。
 長栂山を越えるとアヤメ平に出る。丁度幸いにもアヤメが咲いていた。ここから黒岩平までは池塘、お花畑、林が交互に現われ、快適なハイキングとなる。赤い杭やテープに導かれて黒岩平に着いたのが16時10分であった。ここは尾瀬にあるのよりは幾分小さめのミズバショウが多数咲いていた。ここは幕営禁止地区であるが、4~5張り可能な好都合な平地がある。水もすぐ側を流れている。
 早朝は快晴であった今日の天気も、朝日岳山頂では曇り出し、テントを張っている時についに小雨が降り出した。
 本コースは稜線上を歩いているが、季節の関係で水には恵まれていた。


町田 紀子

 方のきしむような重いリュックを担いでの合宿、2日目は夢中で登りに登った。ふと我に返った時、黒岩平であった。辺りは霧が立ち込め足元には様々な美しい植物が繁茂している。踏まずに歩こうとするため、ぬかるみに足を取られてぎこちない。じっとしていると霧が動くため地面が動いているような錯覚に落ちる。山に入ると何度か幻想的な場面にぶつかるが、ここもそうであった。日光キスゲの黄色がいやにはっきりと見えた。早朝4時半に黒岩平を後にする。さて、足取りも軽やかに? 今村氏達とルートの確認をとりながら、サワガニ山へ向かう。天候が今一歩はっきりせず、小雨が顔をうつのがうっとうしい。サワガニ山の由来なぞを聞きながら上がったり下がったりの忙しい山道を歩く。犬ヶ岳頂上へ到着。山小屋備え付けのノートを見るとA隊の到着した日時、それにB隊へのメッセージが書かれていた。「ワッ」と三人の声が上がった。「なんだ、やっぱり先に行っていたか」「じゃ、今頃はここだな」「白馬山頂では会えなかったが・・・」「よし!俺達も負けずに行こうぜ」などと明るい声が飛び交った。しばしの休憩をとり外へ出た。2時間ほど急な下りを降り黄蓮の滝に着く。水場へ下るのが一苦労で、枝にぶら下がったり岩を這い降りたりして辿り着く。冷たく美味しい水であった。菊石山、白鳥山の頂上を踏み、シキワリまで来ると何ともいえずジメジメした所で、三人の疲労も目立ってきた。シキワリを抜け坂田峠まで下りテントを張る。暑くて眠れない。稜線ではあんなに風が吹いているのに、とうらめしい。一夜明け、今日この日に親不知に着くのだという思いが口元をほころばせる。しかし、それもつかの間、二本松まで来ると地図に書かれている道が廃道になっており、戸惑った。結局、入道山を越えて行こうということになり進む。頂上をわずかに過ぎた所の右側に赤い布の目印を見つける。下りて行くにつれ道がなくなってきた。思わず顔を見合わせ道探しに懸命となる。今村氏の努力により道らしきものが見つかった。道のないような道を下り、出た所が沢であった。「この沢をずっと降りていけば親不知だ」との言葉に不安が安心に変わる。滑ったり、転んだりしながら、とうとう親不知の海岸に到着。全員泥だらけである。目前に見える海の色がまぶしかった。


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