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甲斐駒ヶ岳集中山行
その2 黄蓮谷
小泉 周子

山行日 1983年9月23日~25日
メンバー (L)佐藤(哲)、佐藤(明)、吉岡、高橋(弘)、小泉

 9月22日、22時30分新宿発、辰野行きにビールとともに乗り込み、我ら三峰パーティは甲斐駒へと飛んで行った。
 穴山で黒戸尾根パーティと一緒に下車、タクシーで竹宇駒ヶ岳神社迄入り朝食をとる。ここで黒戸尾根の三人よりひと足先に出発。神社で登山者名簿に記入後、神社を後にした。
 予定としては我々五人パーティは黒戸尾根の五合目から黄蓮谷へ取り付くつもりでいた。
 神社わきの尾白川は台風でかなり荒れており、吊橋もメチャメチャにこわれていた。日頃縦走路を登りなれていない私にとって、黒戸の登りは初めからきつく感じられ、前をスタスタ行く吉岡さんをうらやみながら、ヒーヒー嘆いていた。2時間程で粥餅石に到着。すでに何人かの先客がおり、みんな天気が悪いのによくやるよ!。ここは水場になっていて気持ちの良い所で、そばに石碑が祀られた大岩があり、みんなスラブだと喜んでいる。ああ、無邪気な若者達よ-その活力が私はほしい・・・。
 笹の平を過ぎ、やがて無名の木へ到着。この木は何かというと、昼食を取っただけ。この時私は水しか通らず、隣でパンを食べている高橋さんがとても幸せそうに見えた。私達がここでボケーッとしていると、下から伊藤さん達がセッセとやって来たではないか。私はとても複雑な心境となった。
 更にチョットすると、快晴だったら展望がきくだろうと思われる狭い尾根にとびだした。この岩稜帯が「刃渡り」。この辺でやっと余裕が出てきたみたいで、周囲を見渡したら全くガスっていて視界はゼロ。トロトロと岩の上を歩いて、急登もなくゆるやかな山腹を巻き、下れば五合目の小屋がすぐである。
 五合目の小屋の脇で30分休み、水場を通って廃道を下っていく。ちょっと恐いくさった花崗岩のトラバースや壊れた梯子を雨の中下っていった。やがて沢の音と流れる白い黄蓮谷が見えてきた。「ウワー、あれが・・・」と声をあげてしまう程、きれいな沢だった。さっそく岩小屋で先客の2パーティに場所を分けてもらい、小屋の脇にツェルトを張って一杯が始まった。この夜は快適であった。
 9月24日、とにかく4時起床、まるでガスっていて雨がシトシト降っている。沢へ入るかどうかはリーダーの判断に任せ、とりあえず朝食の力ラーメンを雨と暗闇の中で傘をさして作る。明るくなるのを待って天候の回復をみるが、やはり中止となる。他のパーティは三人組の1パーティが出ていっただけ、我々は再びシュラフにもぐり込み2時間程の仮眠の後、昨日下った廃道を今度は登り返す。約1時間で五合目の小屋に到着。ここで休憩を取る。朝食が早かったせいかお腹がペコペコ、おまけに寒い。コーヒーをみんなで回し飲み、あー体にしみるなァー。
 五合目から七合目の間は階段やクサリ場が度々現われる。私はまたもやヒーヒーと越えて行く。つまりこれが屏風岩で、途中、ちょっとすごみのある吊橋を渡って、今度は不動岩が現われる。相変わらず階段が続いて、全く嬉しくなっちゃう気分だ。所々に岩に書かれた「七合目まで後○分」をはげみに、やがて真新しい七合目の小屋に到着。水の補給はここが最後とあって、お酒のパックにまでもたっぷりと汲んでいく。この辺りから森林限界となる。ハイマツに囲まれた道をトロトロ歩いていると、ゲーゲーとニワトリの腐ったような鳴声が聞こえた。ウワー雷鳥だ。灰色っぽく変色していた雷鳥がヨチヨチとハイマツの中へ消えていった。初めて見た雷鳥にちょっぴり感動し、やがて八合目の岩小屋へ着いた。
 この日はここで泊ることにし、まだ時間があったのでリーダーと吉岡さんは九合目に居ると思われる伊藤さん達のところまでお邪魔しに行った。その間に残った三人は岩小屋の中へツェルトを張り、一足先に一杯を始めさせてもらった。
 9月25日、ほとんど空身で頂へ向かう。それでもやはり私はアゴを前へ出していたけど。1時間もしないで九合目へ着いたけれど、嬉しいことにそこから5分たらずで山頂だった。3日がかりでやっと着いた。だけど風もありガスっていてひどく寒かった。それでもその辺の岩に登ったりして他のパーティの到着を待っていたが、こんな天候では無理だねと言いながら残念と下山の用意を始めた。晴れていればきっと最高の眺めだろうと思いつつ八合目まで下った。そこで我々の装備を整えていると、藪の中からニュッと男の顔が出てきた。登攀の四人だった。この四人、そうとう腹が減っていたのか、我々を見ると先ず食べ物を要求してきた。でも、会えてよかった。いいタイミングだと思う。
 総勢十二人となった我々は横手へと下っていった。五合目でひと休みした時は雨も本降りに近くなっていて、その後の道はまるで川。泥水の川下りだった。おかげでバランスの良い私は(一度でいいから言われてみたいョ)滑らずに・・・と気を配ったおかげで"ン回"も尻モチをついてしまい、半分泣きベソをかきながら下っていった。
 横手神社に着いた時は雨も上っており、幸福温泉で一風呂浴びて帰途についた。
 今回は幸か不幸か天候のため、沢に入ることはできなかったが、最初に黄蓮谷を目にした時、先ず私には無理ではないかと思っていたし、その意向については帰途にリーダーにも指摘された。今回で私は全く改めて考えさせられたし、リーダーをはじめ他のメンバーにも大変迷惑をかけてしまい申し訳なく思った。だけど、自分自身の勉強にもなったと思うので、それはそれなりに実のある山行だったと思っている。皆さんありがとうございました。

〈コースタイム〉
9/23 竹宇駒ヶ岳神社(8:30) → 粥餅石(10:25) → 笹ノ平(10:50) → 刃渡り(12:30) → 五合目小屋(13:30~13:50) → 岩小屋(14:40)
9/24 4時起床、出発(9:00) → 五合目(10:00~10:45) → 七合目(11:30~11:50) → 八合目岩小屋(12:45)
9/25 7時起床、出発(8:25) → 頂上(9:05~10:00) → 八合目(10:30~10:50) → 七合目(11:15) → 五合目(11:50~12:00) → 笹ノ平(13:30) → 横手駒ヶ岳神社(15:00)

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