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正月合宿
その1 鹿島槍東尾根隊
佐藤 明

山行日 1983年1月30日~1984年1月1日
メンバー (L)植村、片岡、吉岡、佐藤(明)

 12月30日、無風快晴
 「アッ、天幕のポールがない」。ここは信濃大町、まだ夜も明けきらぬ寒々とした駅の待合室である。2週間ばかり前のラッセル訓練山行では川又組が、やはりポールを車内に忘れて我等が大笑いしたばかりなのに・・・・。今回は笑われる側である。しょうがないので隆チャンと白馬まで取に行く、とにかく見つかって良かった。
 ポールを抱きしめながら大町駅に戻るや否や、この2時間もの遅れを取り戻すべく、さっそくタクシーに乗り込む。車窓から見る白く輝く爺ヶ岳にしばし目を奪われる。「運転手さん、今年は大雪だって騒がれているけど、ずいぶん積もってる?」、「いやそうでもないスよ。毎年、今年は大雪だって天気予報じゃいってンケドここんとこ毎年平年並みだナ」。「運転手さんなら雪道は慣れたものなんでしょうけど、今はどこまで入れるの?」、「本当なら鹿島部落のチョイ先までだけど行ける所まで行ってやるよ」。
 鹿島館に挨拶をして更に進むと、路上に天幕を張っている者、大きなリュックでひたすら、ひたすら歩いている大パーティなどを尻目に我等がタクシーはドンドン進む。「ガガガ・・・」ヤバイ、轍を外して動けなくなってしまった。ヒザ下くらいの深雪のため、タクシー救出に手間どり約30分のロス、せっかくゴボウ抜きした他のパーティにも全て抜き返され、しょっぱなからついてないなー。
 ここでタクシーを捨て大谷原に向かって歩き出す。無風快晴。東尾根に入ってからも立派なトレースが我々を導き、11月の荷揚げの時散々苦しめられた、あの根曲がり竹もみなこの雪の階段の下。結局、前回より1時間以上も早く一ノ沢の頭に飛び出す。この付近が森林限界の2千メートルである。ここからは白銀の山々の眺望を楽しみながら二ノ沢の頭へ向かう。ここは荒天時のために、4人3日分の食料、燃料がデポしてあるのだ。
 二ノ沢の頭に着くや否や片岡、吉岡両名に天幕設営を依頼し、前回の荷揚げ実施者である隆チャン、私はさっそくデポ品探しである。目印の枝もみな雪の中、おまけに頂上の位置も雪のため判然としない。結局30分もの捜索はむなしく終わった。

教訓
1. 天幕のポールはザックにくくりつけておくこと。
2. デポの際は太さ20センチ以上の木を目印にしておくこと。
3. タクシーの運転手をおだてて、無理に遠くまで行かせないこと。

 12月31日、晴れのち雪
 早く起きたので予定通り出発はトップである。昨日に続いて無風快晴、満天の星空、そしてヘッドランプに照らされる雪も固く登行は快適そのもの。第一岩峰の下の台地に張ってある天幕を見送り、50メートルばかり雪稜を登ってやっと取付き。この第一岩峰は傾斜の急な下部が雪に埋まっており、無雪期より楽である。またこの上部100メートルもの急な草付も帯も固い雪のおかげで難なく通過できた。不安定な雪の場合は、二ノ沢の頭からトラバース気味に登り、この雪壁の通過がポイントだろう。
 第二岩峰もトップで登れるものとばかり思っていたら、何と前夜この基部に泊ったパーティがまさに取り付こうとしているのだ。もう7時過ぎだというのに今頃出発だなんて・・・・。技術的の未熟らしく、なかなかザイルが伸びない。待つこと2時間でやっとうちらの番だ。後には更に5~6パーティの20名くらいが諦めたように、思い思いの時間を過ごしている。ここから手の届きそう天狗尾根を登ってくる連中の中には、昼寝を始める奴もいる。さあ俺の番だ。この第二岩峰は2ピッチに分けられる。最初は約20メートルのトラバース、何ということはない。そして2ピッチ目、5メートルのチムニーとその上部50メートルのフェイスである。核心部はチムニー上部チョックストン上部の乗越しである。スタンスが得られないため、ほぼフィックスロープ任せの腕力登攀である。今回は非常に苦しく、やっとの思いで岩峰上に引っ張り上げてもらう。トップで登った隆チャンが信じられない。
 疲れた疲れたという訳で、食事を兼ねた大休止となる。後続パーティを高見の見物していると、皆それなりに苦労しているらしく、ユマーリングで登ってくる者もいる。ここからはもう難場もなく快適な雪山歩きである。荒沢の頭のトラバース時に「モートー」というコールが聞こえたような気がした。南峰に三峰の連中が居るのだろうか(実際いた)。一応コールを返しておく。
 ここで天狗尾根を合流させ、トレースはますます明瞭となり、小気味よく北峰ピークに到着である。第二岩峰を越した時は、終わったと感じたが、ここ北峰では何の感慨も湧かない。剣岳も間もなくガスに隠され、我々も早々に北峰を後にする。11月の吊尾根は新雪で不安定な登りを強いられたが、今回は疲労を除けばまあまあ快適である。雑踏の南峰を抜け、布引を過ぎる頃には小雪となり、今日の幕営地冷池へと足を速める。

 昭和59年元旦、雪
 雪降りの新年だが、あとは下山のみと思うと気が楽である。稜線から赤岩尾根への下降は冷乗越からのトラバースルートを採用する。少し不安定そうだが、まあ行けそうだ。1ヶ所にストレスをかけて雪崩れさせないよう各人の間隔を広くとり進む。
 高千穂平で我らが赤岩隊の天幕発見。極度の酩酊状態の人もいる。間もなく後発隊である田原隊も下から到着し、共に一足早い下山祝いと称して再度アルコールを補給する。そして転げ落ちた赤岩尾根の後は、今年の初風呂を大町温泉で迎え、今回の合宿を更に価値あるものにした。

〈コースタイム〉
12/30 大谷原(8:35) → 東尾根取付(9:15) → 東尾根(9:30) → 一ノ沢の頭(12:00) → 二ノ沢の頭(13:05)(幕営)
12/31 出発(4:30) → 第一岩峰取付(5:45~終了6:30) → 第二岩峰取付着(7:10~取付8:50) → 第二岩峰上部発(10:00) → 荒沢の頭(10:20) → 鹿島槍北峰(10:50) → 南峰(11:50) → 布引岳(12:30) → 冷池(13:07)
1/1 出発(10:15) → 高千穂平(11:20~13:10) → 西俣出合(14:10) → 大谷原(15:00) → 鹿島館(15:45)
〈参考タイム〉 無雪期で同一ルート(昭和58年)
11/3 大谷原(7:30) → 東尾根取付(7:55) → 東尾根(8:25) → 一ノ沢の頭(11:30~12:10) → 二ノ沢の頭(13:30)
11/4 出発(6:05) → 第一岩峰(7:35) → 第二岩峰(9:10) → 荒沢の頭(10:40) → 北峰(11:45) → 南峰(12:40) → 布引岳(13:20) → 幕場(13:40)
11/5 出発(10:05) → 冷池(10:20) → 高千穂平(11:15) → 西俣出合(12:20) → 大谷原(13:10)
概念図

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