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行けなかった平ヶ岳スキー山行
佐藤 明

山行日 1984年3月17日~20日
メンバー (L)佐藤(明)、川田、勝部、吉岡

 3月17日 曇のち雪
 尾瀬戸倉迄は車で入るのがベストだが、今回は新宿よりスキーバスに便乗する。これは時間のロスがないという点では国鉄利用と比べ有利だが、新聞紙を敷いて床に寝られない、騒げないなどの欠点のため三峰諸氏は余り利用していない。
 到着した戸倉スキー場から15分ばかり車道を戻った西栗橋分岐より、シールをつけたスキーをはく。積雪は1~1.5mだがトレースがしっかりしており快適だ。鳩待峠付近の雪は2~3mで小屋も半分埋まっているがスキーなら何の問題もない。ここでシールを外して滑り出すが、食料と酒で重いザックが災いして、身体全体をフルに滑らせながらの滑降は余りいい気分ではない。この下りも山の鼻へ続く電線から離れなければ、先ず迷うことはない。今日の予定地、山の鼻には既に6張の天幕が張ってある。
 3月18日 雪
 夜通し雪が降り続き新たな積雪は40cmぐらいになっている。視界も50mなため当初の予定の平ヶ岳アタックは中止とする。何もしないのも退屈とのことで、尾瀬ヶ原の真中にある竜宮小屋迄行ってみようということになり、スキーで出発。視界が悪く地図と磁石と赤布をつけながら2時間もかかり、最初の目標牛首に着く。夏ならほんの20分の距離である。しかしながらここからはほとんどホワイトアウトとなってしまったため引き返すことにする。わずか30分で山の鼻に到着。しばし小屋の屋根のスキー滑降を楽しむ。
 3月19日 曇
 天気は下り坂でまた大雪に降られては大変と天幕を早めに撤収するが、その頃より風も収まり至仏山も見えてくる。せっかく来たのだから登れる所まで登ってみようとエッチラ出かける。既に先行パーティのトレースもあり森林限界迄は難なく登るが、ここから上のクラスト気味の斜面はアザラシシールの川田、佐藤にはキビシイ。高天ガ原にて強風のため引き返す。
 ここからのスキー滑降はすばらしいの一言につきる。斜度20度ぐらいか。山腹どこでも滑れ雪質も程良い。誰もいない大斜面を思いのまま滑る醍醐味は、山スキーならではのもので、もう登りの苦しさなぞ思い出せない。
 2時間半の登りを45分で滑り降り山の鼻へ。昼食後シールをつけ鳩待峠、そして最後の楽しみの津奈木沢への滑りである。
 トレースが良くできているので、ついついスピードを出し過ぎる。あまり快調でそのまま戸倉まで行っちゃえということになり林道をひたすら滑る。ワカンをつけて歩いたらとても一日では着けないだろう。あらためてスキーの強みを知る。ワックスがけの不充分だった吉岡、勝部両氏は滑走面に雪が付着のため、何度か転倒した。湿雪でのワックスの落ちの早さも長距離緩斜面を滑ることが多い山スキーでなければ実感できないはずである。バテバテになりながらも西栗橋に着きここに天幕を張り、最後の夜を飲み明かす。
 3月20日 曇のち雪
 戸倉からタクシーで憧れの老神温泉へ行く。2千5百円で風呂、豪華な食事付きとは安い。内風呂も良いが、ここ若乃湯は大野天風呂で有名なのだ。ヘベレケになりながらもこの風呂だけは、と向かいの野天風呂へ急ぐ。
 入口を開くと中から女の子のはしゃぐ声。間髪を入れず宿の親父の「お客さん、野天風呂は混浴ですよ」とのアドバイス、思わず口元に手をやりヨダレが落ちていないことを確認しながらも、平静を装う。自分自身に冷静にと言い聞かせるが、つい脱ぐ下駄もひっくり返すなどして動揺しているのがバレそうである。この親父と目を合わせないようにしながら脱衣所へ急ぐ、この声はやはり野天風呂から聞こえる。大急ぎで服を脱ぎ、野天へ、ヤッター。4人もいる。喉に渇きを覚え、手にしていた缶ビールを開けるが、今まで急ぎ過ぎたためか泡が飛び散る。ビール缶のふちを噛みながら、おもむろに彼女達の方へ目を移す。「ああ、あと10年後だったらなあ」頭にかかる雪が野天風呂を実感させてくれる。出がけにまた宿の親父と目が合ってしまった。「お客さん、良かったですか?」「ああ、風呂は最高だったよ」と目をそらしながら答える。宿の入口ではもうタクシーが待っていて、我々を雑踏に引き戻そうとしていた。
 尾瀬・至仏の早春は山スキー入門者にとって、素晴らしい山行を保証してくれるルートである。ゲレンデスキーで一生を終わることなく、山スキーを利用した機動性あふれる山行をより多くの会員に企画、参加して楽しんでもらいたい。

〈コースタイム〉
3月17日 戸倉スキー場発(7:00) → 西栗橋発(7:30) → 津奈木沢出合(10:30) → 鳩待峠(12:15~30) → 山の鼻(13:50)
3月18日 起床(4:00) → 出発(10:50) → 牛首(12:40~50) → 山の鼻(13:20)
3月19日 起床(4:10) → 出発(7:50) → 高天ガ原(10:30) → 山の鼻(11:15~12:00) → 鳩待峠(13:30) → 津奈木沢出合(14:35) → 戸倉(16:15)
ルート図

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