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雲取山
麻生 光子

山行日 1984年2月25日~26日
メンバー (L)麻生、佐藤(明)、高橋(光)、牧野、加藤、川森

 久しぶりにリーダーとなって計画を立てる。雲取山は一度も無雪期に登っていないので、いきなり積雪期に登るのは不安もあったが、ガイドブックを開いてはいつも行きたいと思っていた山だった。
 2月25日、晴れ。最終集合場所を立川駅とする。早朝にもかかわらず、皆さん時間通りに集合してくれた。奥多摩駅からバスに乗り鴨沢に着くと、雪の白さ、広々とした奥多摩湖の水の青さでやっと目が覚めたようだ。今日はできれば奥多摩小屋か避難小屋まで行って、明日は石尾根を下るための時間が欲しいと思う。鴨沢よりの登山道はゆるい登りながらも着実に高度が稼げる。深く落ち込んだ小袖川を眺めていると、東京都に在りながら随分スケールの大きい山域だと思う。樹林帯の中を陽だまりを見つけては休み休み登っていく。「富士山はいつ頃見えてくるかな」と楽しみにしているがなかなか姿を現わさない。右側には赤指尾根がまっすぐ延びていて、6月頃にはツツジが美しく咲くそうだ。今度はあの尾根も歩いてみたいと思いながら登って行く。堂所を過ぎ、七ツ石小屋近くなる頃、高橋さんの足の攣れてしまう。12時も過ぎていたので小屋に行って一休みすることにした。左側へ行くと小屋を巻いて雲取山へ続く道。右側に入りつづら折の道をだらだら登っているうち、なんだか嫌な予感がしてきた。とてもきつい登りで「随分嫌なアルバイトだな、どうしたんだろう」と考えてみるが思い当たらない。小屋に着いてお茶が沸いても高橋さんが登って来ない。足の攣れがひどくなっているようだ。軽い昼食をして休んでみたが、これ以上歩くことは無理のようだ。丁度、小屋の前にエスパースジャンボ一張りが張れる広場もあるし今日はここで幕営とする。全員一致で、少々申し訳ないが高橋さんにはテントの留守番をお願いして出かける。七ツ石の頂上は視界360度。天気も良いのではるか遠く南アルプスまで見える。陽射しも余り強くないので顔にシミができる心配もなさそうだ。とてものんびりした気分になる。小屋へ戻る途中、石尾根へ延びる尾根を少し歩いてみる。一人か二人の足跡しかなく、下山路として使う人も少ないようだ。夜にはすっかり元気になった高橋さんも含めて賑やかに夜は深まる。そのとき佐藤さんが「リーダーはトップを歩かず最後のになるべきだ」と言った。「やっぱりまずかったか」と反省する。そして問題は明日の予定である。温泉に入りたいと言うメンバーの言葉に迷ってしまう。普通なら鴨沢ピストンが適当なのかも知れないが、三峰に下りると温泉に入れるという。それはそれで良いと深く考えずに決めてしまう。外は星の降るような夜空なのに山裾はガスっている。シュラフの中で聞いた22時の天気予報は雪か雨。低気圧もしっかりおでましだ。
 2月26日、雪。起床時間を過ぎて佐藤さんに起こされる。外はチラチラ小雪が舞っていて、出発する頃は一段とひどくなっている。ヤッケを着て手袋をはめ帽子もかぶる。七ツ石を巻いて念願の雲取へ向かう。冬山合宿にも参加していないので、冬山らしい冬山は久しぶりだ。海老のしっぽや樹氷、ノソノソ舞い降りてくる雪、その一つ一つがとてもなつかしく感じられる。奥多摩小屋を過ぎて1820メートルを巻いて行く。指導標は大きな立て札ではっきり示されている。昨夜、雲取山荘に泊ったらしい数組のパーティとすれ違う。小雲取に近づくにつれて登りもだんだんきつくなり、4メートルくらいの風は所々トレースを消してしまう。トップの加藤さんがゆっくり皆に合わせて歩いてくれる。避難小屋に着くころには雪も既に雨雪となり、ヤッケも濡れてやたら寒さを感じる。頂上で記念写真を撮ったりしているうち誰かが「三峰は雪も多いしエスケープルートもないから無理だ、三条の湯に下ろう」と言う。雪で視界もままならないところへもってきて、この言葉はショック。一瞬その人の考えていることが理解できなかった。三峰への下山は無理としても、全く念頭にない三条の湯はもっと無理だと思った。結局、鴨沢への下山路とするが、私はこの時、完全にリーダー失格だと自覚した。避難小屋に戻り、お茶を沸かしてホッと一息ついてパッキングを始めると「あっピッケルがない」、もう最悪である。落としたピッケルは誰かが拾って奥多摩小屋へ届けてくれていたが、ここの小屋番さんはとてもきびしい人で、「山の魂を落として歩くような人は、山に登る資格がない」と二言も言うのである。私はいたく傷ついて「イヤ反省をして」、小さくなって大切なピッケルを渡してもらう。このことを某氏に電話で話したら「三言じゃなくてよかったね」とさらりと慰められた。七ツ石小屋に戻った時、無駄なエネルギーを消耗してしまったと思った。私に迷いがなければ、重い荷物を背負って歩くこともなかったし、時間も短縮できたはずだ。自分があせったり迷った分だけメンバーに大きな負担をかけてしまったという思いで一杯だった。それでも不満もグチも言わずひたすら雪の中を歩いてくれた皆に感謝している。今度はツツジの咲く頃、さわやかな風に吹かれながらもう一度来てみよう、そんな楽しいことを考えながら雨雪の中を鴨沢へと下った。とても貴重な経験をした1泊2日の山行だった。

〈コースタイム〉
2月25日 鴨沢バス停(9:40) → 堂所(12:00) → 七ツ石小屋(13:00)(幕営)
2月26日 七ツ石小屋(7:10) → 奥多摩小屋(8:30) → 頂上(10:00) → 避難小屋(10:50) → 七ツ石小屋(12:25) → 鴨沢バス停着(14:15)

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