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ちょっと一言「東沢乙女の滝、氷瀑訓練」
千代田 美紀
山行日 1984年1月28日~29日
メンバー (L)佐藤(明)、佐藤(朋)、安田、赤松、小泉、植村、川森、鈴木(竹)、江村(真)、千代田、高橋(千)

 岩はやらない、まして氷なんて、ぜーんぜんやる気なし!!・・・・の、つもりだったのに。
 昨年の5月、初心者対象の岩登り訓練に参加したことがある。理由は、尾根の縦走でも岩場はあるし、講習は受けておいた方がいいと勧められてであった。それで三ッ峠にでかけたが、岩に取り付いている人間を見た瞬間に思ったことが一つ。「アホヤ。きちんとした道から登ればいいのに、なんで無理して岩にへばりついてんだろう。岩は山とは違う。一種の冒険心を満たす特殊なスポーツじゃないか」と。とにかくそれまでは岩登りについての知識がなかったし、というより目が向いていなかったし、ピークを目指してトコトコ歩く山行しか知らなかった私には、岩登りは奇異なスポーツとしか目に映らなかった。そうは思ってもせっかく来たのだから、教わるままに登ったり降りたりの練習をしてみたものの、面白いとかつまらないの感じはなかった。ただ、峠から見える富士山がきれいだったのが一番の印象だった。そんな調子で初めての岩登りを終了し、そしてまた、昨年の9月に三ッ峠に行くこととなった。誘われた時は勿論断ろうと思ったが、前回よりもう少しまともに登ってみたいという気がチラチラあったことと、その日山行に行かなかったら暇なことと、加えて"引っ張り上げてあげるよ!"(とは、優しいてっちゃん。今は福島に帰ってしまった人)の、佐藤哲也氏の一言で決まり、行こう!。岩に登りたいがために行くのではなくて、大方暇つぶしに行くという、いささか不純な理由ではあったが、2度目の岩登りに挑戦だった。この時もドタ靴のため相も変わらず登りづらかったが、懸垂下降とやらは気分が良かった。落っこちるんじゃないかな、という不安と緊張した気持ちで体を空間に投げ出す瞬間。その昔、空を飛ぶ夢を何度も見た記憶がある、その夢が現実となるような不思議な瞬間だった。2度目の三ッ峠は登ることより下降することの方が面白く感じられた。
 そして今回の氷瀑に参加となった。しかし、氷も岩と同様、あえて登ってみようという気は起こらなかったが、なんで東沢まででかけたかというと日曜日が暇だったことと、土曜日の夜に出発するメンバーがいたこと、という理由で参加した(あまり大きな声では言えないなー)。氷瀑も見るだけのつもり。東沢のアイスハイクと洒落こむつもりだったのに、渓谷入口から乙女の滝のハイキングで(約2時間)汗をかき、今度はその汗が冷えて体温を奪われる羽目となり、寒いの一言(毛の下着を着なかったため)。見てるだけのつもりでも、突っ立っていられない。それで寒さに耐えかねて、どーでもいいから登ってみることとする。下から見てると簡単そう。滝の長さは30メートルくらい。ダメなら途中で降ろしてもらおうという下心あり。アイゼンをつけて氷の上を歩くのも初めて、ピッケルを2本持つのも初めて、ピッケルの持ち方、使い方は安田さんが一言二言指導してくれる。ほんじゃまっ、どんなものか登ってみようかな。一歩、二歩、何となくピッケルがアイゼンが氷に突き刺さる。滝の途中辺りまで登った頃、冷たさで指の感覚は失われている。ピッケルを持つ手も自由が利かない。少し休ませてもらい、再びピッケルを振るが・・・・。情けないことに腕の力はだんだんなくなってくる。ピッケルは氷を砕くだけでなかなか突き刺さらない。あと一息というところで今度は、冷たく感覚を失った指に感覚が戻り始める。痛い!なんとも言えない感じだ。私の顔は引きつり気味、おまけに泣きべそをかきそう。あと少しだというのに・・・・。ここで諦めるのは口惜しいし、もう一度休ませてもらう。もう最後はピッケルを振る元気もあったもんじゃない。こんなとこでモタモタしていては余計冷えるだけ。こうなればどんな醜い格好であろうと登りきることが先決と、伸び出している木の枝に腕を絡ませ(指では感覚がないため使えないし、ピッケルを外そうとしても外れない。もうピッケルがじゃまやわー。)、ついでに両足もへばりつかせてよっこらしょっと、やっと終了。あーあ、たった一本登るだけなのに何十分かかったことやら、下から見ると簡単そうだったのに、見るとやるのとでは大違いでした。しかし、岩も氷もいいけど、寒さに勝つには体力、精神力共々大変ですね。
 この日は天気にも恵まれ陽の光の届かない東沢渓谷は冷たい感じもありましたが、透き通った水、氷のシャンデリアと自然の造形美を楽しみ、ハイキングだけでも最高なところです。帰りはお決まりの山形館にて温泉に浸かり、みなさんお疲れ様でした。最後に何となく敬遠していた岩も氷も、やってみると何となく面白そうな気分・・・・かな。


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