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丹沢主稜
関谷 伴子

山行日 1984年2月18日~19日
メンバー (L)古矢、関谷、牧野、佐藤(光)

 2月18日、新宿集合6時30分。7時30分頃の電車に乗る。昨日の雪のために全部各駅停車である。大秦野着10時30分。蓑毛までバスでヤビツ峠まで歩きだ。夏ならばヤビツまでタクシーなのになどと思いながら歩き始める。登るに従い雪が深くなり、前のパーティの後ろをツボ足で歩く。早い出発でなくて良かったとつくづく思った。
 ヤビツ峠で昼食。その後富士見橋までの車道をラッセルである。いくら昨日雪が降ったとはいえ丹沢の車道をラッセルなんて滅多にないことだ。ここでテントを張るのもいいねなどと半分本気の冗談を言い合う。
 富士見橋の登り口からサカイヤで買った新しいワカンをつけたが、2、3歩歩くとテープが弛んでガクガクになる。千円ちかくも高いテープ付きのワカンなのにと恨めしくなる。シュリンゲで結び直して出発したらすぐ、悪口を言って申し訳なかったとワカンに詫びた。ワカンをつけてさえ膝上のラッセルなのだ。なければとても歩けない。富士見橋からは踏跡もなく、ちょっとした急登になった。道の両側の木の枝は荷物に引っかかるし、膝上まで雪に埋まるとどうやって歩いたらよいのか分からない。そこで佐藤さんの出番である。このパーティ唯一の男性。さすがにキャリアはあるし力もある。ラッセルのやり方を真剣に教わった。今までの山行のように誰かが道をつけた後を歩いてはいられない。自分でラッセルをしないと先へ進めないのだ。こういうところが女性だけのパーティの辛いところだ。
 途中に標識がありヤビツまで35分と記してあるところを2時間もかかって歩く。今日のテント予定地は丹沢山であったのに、塔ヶ岳になり、三ノ塔になり、もう目標がなくなっている。表尾根縦走は既に諦めているのである。行ける所まで行ってテントを張ろう ― この軟弱さが私は好きですね。慣れないラッセルで疲れているのに、周りの景色を眺める余裕があるし、地図でルートを調べたりできる。「とにかく行くんだ」と後を必死でついて歩く時には、自分がどこにいるのか考えるのがやっとで、道中を楽しんだり感じたりする余裕がない。結局ヤビツから二ノ塔の途中でテントを張る。3時30分。設営に2時間近くかかって少し反省する。もっと素早く張れるようになりたい。夕食のメインは五目御飯である。私が担当で、重くならないように色々省略したので品数が少ない。そうしたら佐藤さんが自家製の漬物とか煮物とか重い物をたくさん出してくれた。ザックの大きさは私とそんなに変わらないのに何でも出てくる魔法のザックだと私は呼んでいたけど、パッキングが上手なんですよね。
 19日3時30分起床。6時20分、二ノ塔を目指して歩き始める。相変わらずのラッセルだが日の出に思わず見とれた。海岸線がぼんやりと見え、海がオレンジ色に二重に輝いている。登るにつれて明るくなり、海がはっきりして海岸線が地図と同じだなどと妙なところに感動する。空は快晴、見晴らしも素晴らしい。ルンルン気分で登って行く。近そうに思ったのになかなか二ノ塔に着かないと思いながら歩いていて、一歩踏み出したら二ノ塔という標識が見え、着いたと思ってもう一歩踏み出したら、その上に富士山がかぶさって見えた。今回の山行で最も感激した瞬間だった。2日がかりで一番初めのピークを踏んだのだ。二ノ塔到着8時25分。
 三ノ塔までは雪も少なく、すぐに到着。足元から富士山までの山並みがずっとつながって見える。今までは富士山は空に浮いて見えるものだったので、地面からつながっているのは初めてだ。南アルプスもハッキリ、クッキリ見えるし、自分たちのパーティの他に人はいないし、ワカンが身体の一部になるようなラッセルをしたし、ほんとに丹沢かしらと疑いたくなる。
 みんなと協議の結果、塔ヶ岳まで行く元気はないから烏尾山まで行って降りようと決定。烏尾へ行く途中の下りでワカンを外し快適に歩く、やっぱり歩き易いなどと話していたら、小屋の少し手前の登りで腰までのラッセルになった。膝上の時には、膝で上の方の雪を崩して低くして歩けばよい。だけど腰まで雪があったら歩くなんて無理だ。佐藤さんに聞いたら、そういう時は雪の上に寝転んで雪を崩して、更に膝で崩して三段階で歩くのだそうだ。やってみたらできた。もう私はどこでもラッセルができるぞと思った。
 この時後から若い男の人が一人追いついてきた。今日蓑毛から来たとのこと、私たちの一泊のコースを3時間余りで登って来たのだ。軟弱大好きだけど、ちょっと軟弱すぎるのかしらなどと思いながら烏尾山到着。11時30分、エネルギーのかたまりのような彼は塔ヶ岳を目指すとのこと。頑張ってください私たちはここで下山します。
 下りの途中で振り返ってみたら、頂上付近は天気が崩れ始めている。私たちは上天気のうちに下山、やっぱり私の行いが良いからだと内心思う。2日間ともバッチリラッセルで、もうくたくたに疲れたけれど、リーダーである古矢さんに「関谷さんに原稿お願い」と言われた時が一番疲れて、身体中から力が抜けるような気がした。だけど、日の出の時に振り返って見た海と、二ノ塔から見た富士山は長い間私の目に残りそうだ。ステキな山行だったと思う。

〈コースタイム〉
2/18 蓑毛発(10:25) → ヤビツ峠(12:20~12:50) → 富士見橋(13:40) → 二ノ塔手前(15:30)(幕営)
2/19 出発(6:20) → 二ノ塔(8:25) → 三ノ塔(9:20~9:55) → 烏尾山(11:30) → 新茅荘(13:10) → 大倉(14:50)

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