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アブとヤブと丸山岳
川又 康司

山行日 1984年8月11日~13日
メンバー (L)川又、高橋(弘)、小原、古矢

 標高1820mの山頂は草原に覆われ、多くの池塘が散在する。夏、池塘や雪田の周りには、ニッコウキスゲ、ナンキンコザクラ、シラネアオイ、キヌガサソウなどが咲き乱れ、アマツバメが飛び交い、キアゲハが乱舞する。山頂は双耳峰となっていて、その東峰には池塘があり夏の雲を映している。二等三角点は西峰にあり、花が咲き乱れる草原からは、会津駒ヶ岳や越後三山が一望できる。この文を目にした時、ぜひとも行ってみようと思っていた。そしてついに行ってきました。「山上の楽園丸山岳へ」。
 8月10日夜、目白駅で三日間山行を共にする高橋(弘)氏、小原氏、古矢さんと合流する。車で東北自動車道へ入るため浦和ICへ向かうが、川口へ入った途端帰省の渋滞に巻き込まれ、結局岩槻ICより高速に入り、宇都宮、今市、鬼怒川温泉、田島、只見と私と高橋(弘)さんとで車を飛ばす。
 朝5時過ぎ目的地である大幽沢出合いに到着する。1時間ほど車中で仮眠した後、沢へ降り歩き出した。ゼルバンは持たず、ザイルは40メートル1本。
 30分も歩いた頃からだろうか、アブが集団で襲ってきた。とにかくすごい数だ。腕を1回振り回すと手のひらの中には数匹のアブが入っている。しかし刺された瞬間痛いだけで、腫れることはなかった。準備のしっかりしている古矢さんは、頭から昆虫採集用の網をスッポリかぶり大群に対抗していた。その姿がまたなんとも言えず・・・・かった。
 このアブ軍団も西ノ沢と東ノ沢に分かれる地点では数もすっかり減って、変って赤トンボが飛び交い始めた。沢中合沢出合いを過ぎて30分も歩いた所で、早々と今日のビバーク地を決める。時間はまだ12時30分、ここまでは沢というよりも河原歩きといった感じで、大変明るい沢である。ビバーク地だけを決めて、早速釣竿を持ってきた高橋氏と私が今晩のオカヅにと大きな期待を抱いて釣りに行き、途中河原で昼寝をしたり、古矢さんが持って来てくれたダンゴを作ったり、小原氏のワインを飲んだりして2時間をつぶす。最終的に釣りの結果は高橋氏のイワナ一匹でした。
 早速焚火を囲みながらの夕食だ。一匹のイワナを4人でじっくりと味わう間もなく食べてしまった。河原での焚火を囲みながら、星空の下での夕食は格別であった。明日の「山上の楽園丸山岳」を楽しみに9時ごろには全員眠りに就いた。
 2日目、4時起床、予定より20分遅れて出発。1時間近く歩いて二俣に着く。ここからは多少沢らしくなってきた。と言っても小滝が少々出てくるぐらいである。ここから2時間ぐらい登った所で雪渓が現われ水が涸れ沢は終った。
 これから丸山岳の頂上目指してのヤブコギなのだが、反対の梵天ヶ岳の方に向かってしまったのだ。間違いに気付き、1時間半ほどヤブをこいだ後、引き返し改めて丸山岳の頂上を目指した。
 予定よりかなり遅れ、ついに「天上の楽園丸山岳」に到着。確かに美しい山頂だ、緑のジュータンで一面敷き詰めたような中に池塘があり、花も咲いている。古矢さんに花の名を教えてもらったが、今はもう覚えていない。ここでのんびり休んでいたかったのだが、予定の時間よりかなり遅れていることもあって、頂上を少し下った所の雪渓で水を補給して出発する。ここから今日の予定地である熊ノ平の避難小屋まで5時間の行程だ。このとき時刻は既に2時を過ぎていた。登山道はあるのだが、かなり荒れている。顔まで(場所または人によってはそれ以上)のヤブの中をただ黙々と歩く。風がないので暑さがかなり堪える。だんだんと過ぎ去って行く丸山岳、大幽西ノ沢を見ながら小休止をとる。
 またしてもアブが寄ってくる。数は少ないが沢の途中で会ったのより大きい。そのアブを「このアブを待っていたんだ」と目を輝かせて、捕まえて食べてしまう人がいた。なかなか美味しいらしいが、私はさすがに食べる気はしなかった。興味ある人はぜひ一度食べてみては? それ以後アブは恐れをなしたか、その人のところには近づかなかったようだ。
 三角山からは高橋氏と小原氏に先行してもらい小幽沢に下りて水を取ってもらうことにする。ここからはヤブも少なくなり歩きやすくなる。白沢ノゾキを過ぎ、会津朝日岳に着いた時はかなり暗くなっていた。ここからヘッドライトをつけることにする。朝日岳から10分ほど行った所で先に行った2人が水を確保して待っていてくれた。ここでビバークしようかとも考えたが、後30分も歩けば避難小屋に着く。雨も降る様子もない、星も月も出ていることだし歩こうということになり、沢から汲んだばかりの冷たい水で咽を潤した後歩き出す。8時に小屋に到着。さすがに疲れた。小屋に先客1名がいたが気にせず、アルコールも入り食事が終わった時は10時近くになっていた。
 3日目はゆっくりと7時半に出発。小屋の前から小幽沢に下る。途中2ヶ所でザイルを使用した。ゆっくりとしたペースで最後の1日を楽しみながら下った。黒谷川に1時に到着。すぐ林道に出たのだが、またしてもアブの大軍である。アブを払い落としながら20分で大幽沢出合いの車に着いた。アブの大軍のためそのままで車にアブと共に車に飛び乗り、アブを追い出しながら温泉を求めて走り出す。南郷で温泉に入り東京へと帰った。
 アブとヤブに悩まされた山行であったがそれ以上に楽しく、喜びの大きい山行でした。

〈コースタイム〉
第1日目 出発点(7:30) → 東沢分岐(9:06) → 沢中合沢分岐(11:25) → ビバーク点(12:20)
第2日目 ビバーク点(5:55) → 二俣(6:45) → 沢終了点(10:00) → 丸山岳(14:00) → 朝日岳(19:00) → 避難小屋(20:00)
第3日目 避難小屋(7:30) → 黒谷川出合い(13:00) → 駐車場(13:40)
丸山岳ルート図

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