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剣岳
平尾 真一

山行日 1984年8月9日~18日
メンバー (L)植村、千代田、湯谷、吉岡、小泉、大塚、平尾

 いよいよ剣岳本峰へ向かう日である。コースは長次郎雪渓の左俣を行くことになる。雪渓どころか、雪の上をまともに歩くのは初めてだったので大変不安であったが、とにかく夜明けとともに真砂を出発する。長次郎の出合いで4本歯のアイゼンとヘルメットをつける。しかし、東京の蒸し風呂のような暑さに比べ、ここは信じられない涼しさだ。
 いよいよ長次郎谷に入る。まだ早朝であるため雪が固く度々転びそうになるが、始めは傾斜がゆるいのでなんとかピッケルで体を支える。雪渓の上方を見ると雪渓の上の方だけ朝日が当たっていた。左は源次郎尾根、右上に八ッ峰の頭があり、雪渓が朝日でキラキラ輝き、その上で岩稜が立体的に浮かび上がっているようで、それを見て思わず感動してしまった。
 熊の岩まではこんな感じであった。そこから上部は傾斜が強くなり、おまけに下にはクレバスが開き滝が出ているので大変であった。へたに転ぶとあの滝まで一直線だなと思うと、ビビッてしまった。しかし、他の三人はうまいなぁーと感心する。
 そんなこんなでやっと長次郎のコルに着く。非常にいい天気で日本海まで見えて感激する。長次郎のコルで昼食をとり本峰へ向かう。本峰はさすがに人が多く、また展望も最高である。槍ヶ岳が見えたので嬉しくなった。去年一人でコワイなあと思いながら槍へ登ったことが思い出された。槍の頂上にいるとき北鎌尾根からクライマーが登ってきたのを見て、ヘルメットなんか被って自分には関係のない世界だなんて思っていたのに、1年後、自分がヘルメットを被って剣を登っているのを思うと、なんか信じられない感じがする。
 その時、突然頂上の一角で歓声が上がったので何事かと聞いてみると、なんと「山渓」の記者が来ていて頂上で写真を撮るという話であった。当然われわれ四人も写真の中に入った。来年の「夏山JOY」に出るそうなので皆さん期待してください。
 下山は他の三人に申し訳なかったが、自分は雪渓下りに自信がなかったので一般コースにしてもらった。一般コースは人が多く、ちょっとした難所で女の子が恐がったりして大変な渋滞であった。その渋滞で待っている時すごい落石があった。一般コースの横を下っていたクライマーが人の頭ぐらいの石を一般コースの方へ落としてしまったのだった。一時一般コースの人々からイヤミの声などが出て険悪なムードになった。クライマーの人々も山を楽しんでいるのだろうし、一般コースから登る人々だってやはり同じだと思うのだが、こういうところを見ていると、なんか寂しい気持ちになってしまった。まあ、8月12日はこんな感じであった。
 今回の山行全般では、自分の体力と技術の未熟さのため思っていたことの半分くらいしかできなかった。それでも大変いい経験になりました。ありがとうございました。


チンネ
湯谷 茂樹

 8月13日、大塚さんと僕はみんなより少し早く真砂沢を出発する。前の日はアイゼンをつけて長次郎雪渓を登ったから、今日は7年間剣へ通ったという大塚さんについて、アイゼンなしで登ることにした。途中、先行パーティーをどんどん追い抜いて行く。右俣上部は傾斜も急でラントクルフトなどに注意しながら慎重に登る。
 池ノ谷ガリーの下降はズルズルと足下が崩れるようで嫌だった。三ノ窓は思ったより広い所で、10張以上テントがあった。ここから見上げるチンネはなかなか立派で、岩登りといっても広沢寺ゲレンデと前穂北尾根しか経験のない僕は多少不安な気持ちになる。
 左稜線ルートを登るということだったが、混んでいるので北条・新村ルートを登ることになる。先に1パーティーが取り付いている。落石の危険があるということで雪渓の手前で待つ。七・八人のパーティーが順番待ちしている。落石危険地帯を素早く通り抜け取付点に到着。登り始めてすぐに、大塚さんが危険だと言っていた所で落石発生。大音響と共に下で順番待ちしてた人のザックが吹き飛ばされた。幸い人間に怪我はなかったようである。大いにビビル。天気は良く、後立山の眺めも良い、しかし風景を見る余裕はない。喉が渇く。よく冷えて汗をかいた缶ビールが頭の中にポッカリと浮かんでくる。核心部でアブミを使って登るのだが、使い方もわからず苦労した。車が通れるほど大きな中央バンドまでは滑ったり、アブミがひっかかったりして結構疲れた。中央バンドから頂上までは一ヶ所嫌な所があったが、なんとか無事に到着。大塚さんと固い握手。感動がこみ上げてくる。よかった、よかった、ザックから取り出した「ます寿し」の折詰に周りの人が注目する。大塚さん、うらやましげな周囲の視線を受けながら「ごはん」をおいしそうに頬張る。帰りは頂上から池ノ平ガリーへ抜け、右俣上部を慎重に下り、大塚さんは見事なスタンディンググリセードで、僕はシリセードで出合いまで滑り降り、14時ごろ無事帰った。


八ッ峰・六峰Cフェース RCC(右方)ルート
湯谷 茂樹

 8月14日、チンネに向かう植村さんと小泉さんを見送った後、30分ほどして六峰フェース隊も出発。長次郎雪渓の登りも今日で3日目だ。Aフェースに登る大塚さん、千代田さんと別れて、吉岡さんと僕はCフェースに取付く。
 登るルートはRCCルート。吉岡さんのリードでザイルはどんどん延びていく。3ピッチ目だったろうか、凹角を直登する。今までのような大きなホールドもなくハァハァする。後からAフェースを登っている大塚氏が声をかける。どうやら僕達の登っているルートはRCCルートから外れているらしい。振り返るとAフェースが随分と下の方に見える。凹角を登ってしまうと後はそれほど苦しい所もなく、なんとかCフェースの頭に辿り着く。吉岡さん、グラシアス。
 お弁当を広げる、ごはんがおいしい、岩陰からオコジョが顔を出す。リスほどの大きさでなかなか可愛らしい。ガスが出てきたので予定していた八ッ峰上半は取り止めにする。
 Aフェースの頭で休んでいると、大塚、千代田両氏と交信。一緒に帰ることにする。五峰・六峰のコルまで慎重に下り、各々長次郎雪渓を滑り降りる。真砂沢ベースでは休養の平尾氏が冷たい麦茶を用意して待っていてくれた。ごくろうさまでした。


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