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荒海山
勝部 辰朗

山行日 1984年9月8日~9日
メンバー (L)勝部、川田、今村、高橋(光)、加藤、小原、近藤、久山

 荒海山というなんとも味わいのある名を持った山は、太郎・次郎と二つのピークを有し、イトマキエイの頭のような秀麗な姿で栃木と福島の県境にそびえている。一般道は福島側の会津滝ノ原よりあるが、今回は栃木側の芹沢の上流にある岳ノ沢を登降路として行くことにした。
 東北本線野木駅に9月7日夜10時に集合して、川田氏、久山氏のマイカー2台に分乗して出発する。川治温泉を過ぎ五十里湖より会津田島へ抜ける街道へと進み、中三依の集落へ入る所の芹沢入口にあるバス停より右へ折れる。学校を右に見て進み最後の集落である上坪を過ぎると舗装は切れ、500m進んだ所で側壁が崩れそうな所があったので、その手前に車を止めて幕を張った。時計は1時を指していた。酒を飲んで寝る。
 9月8日(土)、天気はうす曇り後晴れ、5時30分起床。1日で充分ピストンできると踏んで来たが、なにせ資料の乏しいルートなので用心のためテントのフライとシュラフカバー等を持って出発する。
 長い林道を歩き西ノ沢とぶつかった所で林道は終点となる。ここで朝食をとり、西ノ沢を50m程下って岳ノ沢へと入る。ゆるい傾斜のナメの連続を溯る。滝は最初の内に2mと3m位のナメ滝があるだけで稜線までない。水流は渇水期ということもあって、登り始めて1時間位で消える。アザミとかタラの木とかトゲの草がかぶさるヤブ沢である。本流を忠実に溯り、傾斜がきつくなり岩の基部を左へ巻きながら登りつめると灌木帯になり稜線に出る。出た所は次郎峰の西にある1530mの小さなコブの少し東の鞍部だった。ここに下降時の目印としてナタでササを刈り払い、また赤テープを木につけて稜線のヤブ泳ぎを開始する。笹や灌木ツルの入り混じったヤブだ。1560mの次郎へ上るとすぐ目の前に本峰の太郎がせまる。ここより多少踏んだ跡が所々にみられる。次郎より一気に20m位下り、岩峰左のヤブ帯を巻きかげんに登り、平坦になったヤセ尾根を木に乗り、ツルを踏みつけかき分け、かき分け進む。太郎の登りをガサゴソと登りつめると、1580m荒海山の標識が目に飛び込んできた。三角点はこの標識のある所より少し東に行ったピークにある。三角点のピークにはエスパースなら2・3張れる笹原になっている。また、標識のピークのすぐ下に無人観測小屋があり、3・4人は寝られる。
 出発の時は曇りだったため、展望は期待していなかったが、幸いにも晴れてきて七ッ岳など会津の山々や帝釈の山、日光の山、男鹿の山々とすばらしい360度の展望だった。お茶を沸かして昼食をとり、もと来た道を下る。
 沢の下降では、前述の岩の基部で念のためザイルを出してゴボウで下ったぐらいで、難なく下って行った。
 栃木県側からの登路として、入山沢上流のクラカケ沢を登るコースなどもあるが、やはり今回のコースが一番最短時間で行けるコースではなかろうかと思う。
 車の置いてあるベースまで帰りつき、タキ火を囲んで宴会をする。一仕事の後の満足感の中、時折姿を見せる名月を肴に飲む酒は格別であった。11時頃就寝する。
 9月9日(日)、天気曇り時々小雨、朝5時半起床の後釣を楽しみ、奥塩原温泉に浸かって帰京した。
 充実感の残る山行だった。

〈コースタイム〉
上坪部落より500m地点(B.C)(6:10) → 林道終点(7:35~8:00) → 稜線(10:35) → 次郎(11:05) → 荒海山(太郎)(12:10~12:50) → 次郎(13:50) → 下降点(14:15) → 林道終点(16:25) → B.C(18:00)

ルート図

近藤 真理子

 仕事が終ったあと慌てて家に帰り、ほんとに慌しく準備をして上野へ向う。待ち合わせぎりぎりの時間だったせいか、勝部さんと小原さんが心配顔で待っていた。何とか間に合ったものの、この集合場所に辿り着くまでが、毎回の山行の行程の中で一番疲れるように思う。
 野木駅に降りると加藤さんも同じ列車から降りてきた。外へ出ると川田さん一行が車で待っていた。男性ばかりだ。ルームの後の打ち合わせ会で、ヘェーと驚いてはいたものの男性だけ七人に私が一人加わった山行だ。ヤブ山って女性はあまり参加しないのかな。会の人達から聞く山の話の中に、必ず出てくる勝部さんの有名なヤブ山山行。機会があればぜひ参加してみたいものだと思っていたのですが。
 車を飛ばすこと数時間、林道を行ける所まで行く。雨が降ると崩れそうな崖を見て少し引き返しテント設営。すぐ眠るのかと思いきや、みんな大酒飲みばかりみたい。飲めないくせに、暖まらなくちゃとかなんとかついワインをガブ飲みし、早々に寝込んだけれど、これがいけなかったんです。
 翌朝、空一面の雲だが雨は大丈夫そう。車を置いて林道を詰める。沢との出合で軽く朝食後、沢筋を歩いて行く。昨夜のワインが原因か頭痛が気になる。沢はこれまでに行ったことのある沢とはどことなく印象が違う。目を見張るような眺めも、冷やりとするような所もない。ナメが続く、ヤブが濃い。「行く先に滝はあるんですか」と誰かの声。「さあ、行ってみないとわかんないなあ、何も書いてないから」と勝部さん。沢が二手に分かれれば地図と磁石で、ああだこうだと検討が始まる。楽しそうですね、人が滅多に入らないようなルートで山へ行くのが。「でも、この地図、沢の青い線なんて書いてないですよ」なんて言わなきゃよかった私。「この等高線が入り込んでいるところが沢だな、ほら」「あ、そうですか」
 沢が涸れてくると、そろそろヤブが始まる。ただただついて行く。川田さんがナタを出して目立った障害を払ってくれる。ナタの刃が恐いなあなんて思いながらついて行く。振り返ると正面にピークが見える。するとまた、「あのピークはどれだ」と地図を覗き込む人達。「うーん、ここで標高1500mだな」と納得して、またひたすら登る。倒木を越え、小枝をつかみ、顔を打たれして登って行くとだんだん傾斜がきつくなる。かろうじてあった踏跡すらなくなってきたようだ。「まだかな、まだかな」と思っていると、出たぞ、と声がする。あ、ようやく広い空が見える。
 稜線では、帰りの目印にとナタでヤブを払い、小枝に赤いビニールテープを巻いておく。目の前に見えるピーク、あれが荒海山!ではなくて、次郎岳とのこと。さて、稜線のヤブはこれまでと違って、比べ物にならない本当のヤブ。足が地面に着かないし、すぐ目の前に見えるピークがいつまでたっても近づかないように感じられる。先頭を行く勝部さんや今村さん、やっぱりヤブが好きなんですね、生き生きとしてました。でもあのヤブ原でどうやってルートを選ぶのでしょう、ちゃんと目的の場所に着くんです、不思議。普通の登山道なら10分程のところ、30分余りかけて次郎岳に辿り着く。また向こうに太郎岳(荒海山)が見える。「ここで止めたいなあ」という雰囲気が一瞬、皆の間に流れる。が、勿論荒海山を目指すことに決定となる。天気も持ちそうだし、勝部さんは真面目だからなあという声がどこからか聞こえてきたようだが。
 次郎から太郎までは、一度下ってからまた登りとなる。先の次郎までの行程よりは踏跡らしきものがあり、幾分楽だが、道のりが長い。ピークまでは1時間半で行けなければ、帰りが暗くなるというのが頭にあるせいか、一定のペースながらもかなり速い。反り返ったり、かかんだり、足を上げたりと柔軟体操さながらの動きを繰り返して1時間強、やっと太郎岳に辿り着く。ヤブをポコッと抜けるとこじんまりした頂上があった。"荒海山"の標識がある。静寂そのものの頂上であるが、某グループの登頂の印が残してあった。「ここに来る人もいるんだなー」「でも同じルートじゃないよ」と皆で雑談する。遠くに赤薙山が見えた。
 しばし休憩した後、帰路に着く。ひたすらひたすらヤブと格闘して進む。歩くしかない、次郎岳を越えて、赤いテープの印を見たときは嬉しかった、けれどその先が長かった。1回ザイルを使って危ない所を下り、後は登ってきた所を下る。大分疲れていたように思う。ナメの思わぬところで転んだり、小さな渕に尻もちつく人がいたり。同じコースとはいうものの逆に辿ると沢はまた違った趣がある。こんなきれいなナメがあったかな等と思いながら歩く。そして林道と沢の出合に着いた時はクタクタ。さあ、もうひとがんばりと林道を歩いてテント場到着、夕食となる。私はまだ頭痛が続いており、食当の仕事の半ばで別の人に代わってもらった。どうもすみませんでした。まったくほんとにワインが原因だったら自分にあきれてしまう。夕食が済んだらすぐにシュラフにもぐり込んだので、良く判らないが皆さんは「やっぱり太郎岳まで行って良かったな、うん」とかなんとか言いながら、かなり遅くまで飲んでいたようだ。そして翌朝目が覚めたら、何人かは早くから岩魚釣りに出かけているとのこと、元気だなー。感心するばかり。
 今回の山行は、山といい、帰りの温泉といい、なかなか味わいのある山行でした。


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