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集中登山 甲斐駒ヶ岳
甲斐駒、秋の集中
佐藤 明

 昨年は雨で不成功に終ったため、今年の秋の集中もここ甲斐駒ヶ岳に再挑戦である。
 今回は6パーティ計23名もの会員がピークを目指した。2泊3日の日程で入山したのが高橋弘道氏率いる黄蓮谷隊、そして高橋千恵子さん率いる早川尾根隊である。弘道氏は昨年もこの黄蓮谷ルートを選んだが、その時は五丈の岩小舎から敗退、きっと今年こそはやってやるぞという強い意志を持って、リーダーを引き受けたに違いない。昨年はベロベロに酔った他のメンバーと一緒に岩小舎の外でツェルトを被せられて寝たためか、今回は早く到着して奥の一番良い場所を確保したとのこと。
 参考までに、これ程広く快適な岩小舎を私は知らない。一見いや一泊の価値のある所である。また日本一の美谷といわれるこの黄蓮谷も巻道を使えば2級程度のグレードとのこと。沢登りを志す者にとっては必踏のルートであろう。
 千恵子さんをリーダーとする早川尾根隊は女性4名に男性1名という生物学的な性別では非常にアンバランスなパーティである。残念ながら去年このルートをトライした者は同行しなかったが、彼らのアドバイスのせいか、行動計画などは入念に出来ていた。また実際の行動も非常にスムーズだったことなどから、彼女のリーダーとしての才能が十分に発揮できた山行であっただろう。
 ところで気になる男性1名の参加であるが、彼にとっては決して両手両足に花ということはなかったらしい。何でも彼の担ぎ上げた2升のお酒は最初の晩に全て飲み干されてしまったため、次の晩は皆のためにわざわざ北沢峠まで酒の買出しに行かざるを得なかったとのこと。そして女性はおしなべてやさしかったと彼は言っているが、濁る言葉じりから判断すると真相は不明。
 1泊2日の予定で入山したパーティは3組である。まず戸台川本谷からピークを目指す伊藤氏と新人2名のパーティ。戸台川は南アルプススーパー林道の開通にもかかわらず入山者が減ったためか、道が不明瞭になりつつあるようだ。また苔も増えたためか、出合にて小さなスリップ事故があり、伊藤氏はこのルートは無理と勇断し、隣りの小尾根を登ったとのことだ。この日は六合石室に泊まり、全員元気に集合してくれたのは大きな喜びである。
 播磨氏をリーダーとする4人パーティは、北沢峠からのピストンである。入山日は全員で仙丈岳へ、そして集中当日は仙水峠経由で登り出したものの、鈴木(竹)さんの体調が悪く、甲斐駒を目前とした駒津峰より宮島さんと共に引き返した。我々が手本とする生涯登山家実践者の竹次郎さんには参加してもらえるだけで十分です。
 勝部氏他5名の黒戸尾根隊は、以前ここの小屋番をしていた江村(兄)さんがガイド役である。彼にとって甲斐駒は庭みたいなものとのこと。冬の水場や良い休憩場所を熟知しているばかりでなく、歩き方やペース配分など何につけてもプロフェッショナルを感じさせる。またこの黒戸尾根は信仰登山者のメインルートとして古くから登られており、各所にある石碑や剣が我々の不届きな行動を戒めるような雰囲気をかもし出している。そのため敬意の強い私など、このルートではうかつに空キジも打てない悩みがある。
 最後に赤松パーティ。彼は単独で穴山から暗い夜道を夜通し歩き続け、黒戸尾根に取り付いたとのこと。朝7時に着いた七合目で、出発前だった勝部パーティと合流し一緒に頂上へ登ってきた。彼は根性の男である。
 集合時間は正午であったが、10時30分には全パーティが無事ピークに到着できたことは、私にとってこの上ない喜びであった。そのうえ一日中快晴で、初冠雪の北岳をはじめ遠く北アルプスの白い山並までが望める視程と汗ばむ程の陽気で、誰もが登山の良さを満喫したに違いない。
 下山は11時15分に開始。3名を除き摩利支天、双児山経由で北沢峠に下った後、バスを乗り継ぎ甲府着5時であった。
 バスの混雑や乗車時間の長さを考えると、黒戸尾根下山の方が良かったようだ。総勢20数名もの会員が困難を乗り越え、一つの山に集中することは、山岳会という組織があってこそ出来ることであり、今回の成功は非常に価値あることである。楽しさだけを追求する引率登山から脱皮して、自己の実力向上を目指す者にとってこのような集中登山は、技量の自己評価の良い機会であろう。今後も定期的に行うなら集中登山に中間目標を設定してトレーニングをされることを希望する。

パーティ構成
1.黄蓮谷隊 高橋(弘)、金子、湯谷、井筒
2.早川尾根隊 高橋(千)、市川、冨岡、鈴木(章)、佐藤(明)
3.戸台川本谷隊 伊藤、小原、山田
4.北沢峠隊 播磨、鈴木(竹)、佐藤(八)、宮島
5.黒戸尾根隊 勝部、江村(兄)、山沢、加藤、関谷、牧野、赤松(日帰り)

概念図

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