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春山合
その6 春山合宿
三原 弘子

 「さあ行こう」とザックを背負った瞬間ずっと考えていた不安が、実感となってのしかかってくる。「重い」これまで日帰りや小屋泊まりの多かった私にとって、初めての大きな山行である。
 黒部ダム駅を出た所で上村さんにキックステップを教えてもらい出発。いきなりの急な下りに出足から足を引っ張ってしまう。それから内蔵助平までは思っていたより元気に歩くことができた。その後も順調に登っていたが、やっと顔を出した剣岳に感激したのも束の間、目の前に見えているB.Cを前に七転八倒。何度となく滑ってしまったが、自分では止めることも出来ず助けてもらう。"やっぱり雪訓を受けてから来ればよかった"すっかり逃げ腰になってしまい、かえってうまく歩けない。"ここからなら死ぬことはないから"という川又さんと佐藤さんに励まされ? 何とかB.Cに着く。私にとっては今度の山行の中で一番苦労した所だったように思う。
 すぐにテントを張り食事の仕度にかかる。ここでお詫びしなければいけないのですが、今回私は食当にあたっていましたが、準備の段階で何もしなかったこと。自分の買い出した材料を計ってみると、ちょうど一人当たり2kgになり凄いと思いながら、事前に材料を購入し計ってからメニューを作ったという高橋さんには頭の下がる思いです。結局当日の食事の方も調理は苦手と、恐々ホエーブスをつけてみただけに終りました。
 5月4日、いよいよ剣岳を目指す。雲一つない快晴。"山から見る海"を期待して頑張る。八ッ峰、源次郎、そしてそれを隠してしまわない今日の天気に励まされ、長次郎の雪渓を登って行く。熊の岩、気分が良いので多少の疲れも気にならない。長次郎コル、空が近い。海は見られなかったが、あともう一登りだ。
 五竜・鹿島槍、360度の雄大な展望にしばらく足を止められる。モートーのコールをたどると、別山、源治郎隊が、剣の住人のような顔ですっかり落ち着いていた。剣本峰、自分はこの山を登ったんだという満足感に、初めて山の頂上というものを意識したように思う。お山の大将とはこんな気持ちのことだろうか。少々未練を残してB.Cへ。初めは戸惑っていたシリセードも下に着くまでにはすっかり気に入ってしまった。
 5月5日、仙人山へ。恐竜の背中のような稜線を眺望を楽しみながら歩く。一つのピークを登り切るとすぐ向こうにピークがあり又登ると・・・・そんな登り返しで、いったいどこが頂上なのだろうと思っているうちに着いてしまった。一つ二つと峰を数える。裏から見る剣岳もまた素晴らしい。近藤岩に寄り道して帰ってくると雨が降ってきた。夜には凄い風も吹き女性ばかりのカマ天に佐藤さんに来てもらい、私と交代する。朝になってテントに戻ると、ちょうど朝食ができたところで、仕度に汗した佐藤さんをまだ寝ぼけているカマ天に追い返し、出来たてのお雑煮をいただいてしまう。
 テントを撤収し下山。容赦なく降る雨に気が滅入り足取りも重い。しかしこれが他の日だったらと思うと、今回の山行が天候に恵まれたことを、びしょ濡れになりながら感謝する。
 また皆さんには、慣れない歩行やテント生活、装備など全ての面でお世話になり、ほんとうにありがとうございました。


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