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穂高と剣にて
千代田 美紀

山行日 1985年8月1日~7日
メンバー (L)吉岡、安田、金子、田中、湯谷、月山、本山、千代田

 8月3日、屏風(東稜)。
 今日は屏風のデビュー戦、誠ちゃんと組み東稜を登る。1ピッチ目にして私はアブミを落としてしまった。アホー!!。緊張していたせいか?幸いに下のテラスで止まっているので、そこまで降ろしてもらいもう一度登り返す。この日、加減することを知らないお陽様は私たちを人間干物としてしまった。持参の水筒は直ぐ空っぽになってしまい(一人1リットルは必要)、終了点から屏風の頭まで登るのにバテバテとなり、パノラマコースを通って涸沢に帰ってくるのがえらくしんどかった。
 アブミを落とすという初歩的なミスを犯した私は、アブミは必ず手首に通してから掛けかえるということを学ぶと同時に、いつも「落とすのではないか」という思いにつきまとわれ、ちょっとだけ人工が嫌いになったのでした。
 8月5日、前穂東壁右岩稜古川ルート、Aフェース。
 気合を入れて2時起床、3時半出発。基部に着いたのが8時半、なんとアプローチに4時間半費やし、9時半に取り付く。ここの核心部やっぱり言ってしまいました。「はってー!」と、でも核心部V・A0体を空中に放り出す瞬間は岩登りの醍醐味が味わえます。前穂のピークに着いたのが15時、それから吊尾根を経てザイテンを下って、涸沢に戻ってきたのが18時半。本日の行動時間15時間。岩を登れることが一番であるが本番では、つくづく体力が勝負であると感じさせられる。
 8月7日、前日からの降ったり止んだりの雨、(鬱陶しい台風8号の停滞のため)悩みに悩んだ挙句、継続(屏風~前穂~滝谷)は中止とし、屏風(雲稜)一本とする。2P目から雨、真夏というのに寒さで鼻水を出しながら登る。風のないことが幸いしてアブミが舞い上がるようなことはなかったが、場所によってはシャワーを浴びながらビレーするという状態だった。
 8月8日、一番実現させたかった継続もできず、穂高にはもう用がないので松本に下る。駅前にてビバーク。
 8月9日、予定より1日早く黒部に入り継続で登れなかった分を登ろうと決め、大町に移動し買い出し日とする。大町駅ビバーク!
 8月10日、黒部に入るべく大町駅に行くと非情にも、"アルペンルート不通"の張り紙があった。昨日の土砂崩れで明日まで動かないという。まだ東京にいる宮川ちゃんには、早朝から電話でたたき起すわで・・・すったもんだ考えた挙句、このまま明日の開通まで待つことにする。朝からすることもなく暇つぶしに行った木崎湖では、ギョ!!、うちの父兄と子供に出会ってしまった。まさか大町に行ってまで会うとは・・・(連れのまっ黒の二人は、どう見られたか?ちょっと気になるけど)。そんな調子でこの3日間のプータローの生活で、すっかりリズムを崩してしまいました。それが剣まで続くはめとなった。大町駅ビバーク!
 8月12日、丸山東壁緑ルート。
 穂高の継続の次のメインだった丸ちゃん!!。誰もいないと思っていたのに取り付きに行ってみると、先行パーティ(二人組)がいた。1時間程待って、偉そうなこと言えないけれど遅いんだよねー。7時に取り付く。2P目(III・A1)、雲行き怪しく何となく気分がのらないまま登る。途中でやはり雨となる。一日中続きそうな雨、このピッチを抜けたらもう降りたいなどと思っているうち、"アレッ"抜け口直下の所で落ちてしまった。幸い目の前でランニングビレーを取ったばかりだったので2m位で止まったが、足が天を向きひっくり返っていた。上にいた宮川ちゃんも湯谷さんも「大丈夫か?」と一応心配してくれたがケタケタ笑っているし、下でビレーしていた田中君は「頭がおかしくなったのではないか?」という。私は打撲の痛みに耐えて、心配させまいと笑ったのに・・・。しかし、自分でもなんで落ちたのか分からないような、何でもないような所である。その後またしてもアブミを落としてしまい、上から投げてもらいましたが2P目で敗退して帰ってきた。
 結局、この夏一番行きたかった継続もダメ、丸ちゃんもダメという結果に終ってしまった。両方とも一応"雨"で敗退したことになっているが、穂高の継続も湯谷さんと田中君二人なら強行しただろうし、丸山も私のミスがなかったら行ったかも知れない。毎度ながら、ゆーさんや田中君に荷物を持ってもらったり・・・お荷物になって、すみません。宮川ちゃんにも剣の後半はバテてしまい行動できず、パーティ編成など色々と迷惑をかけてしまい、すみませんでした。
 しかし、岩登りはしないはずだった私が、今年は穂高も剣も岩を登りに行く、去年とは随分違った山となり、色々反省することがたくさんありましたが、思い出の20日間となりました。


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