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正月合宿槍ヶ岳
その3 冬山合宿を終えて、北鎌尾根隊
千代田 美紀

山行日 1985年12月29日~1986年1月3日
メンバー (L)中沢、宮川、田中、千代田

 アパートを出る時、不安で胸が一杯で一人興奮して溜息ばかりつく始末。冬の北鎌尾根ということで、回りからプレッシャーをかけられたり自分でも大分覚悟して行ったのだが、結果的には最初から最後までラッセルもなくトレースもばっちり、昨年の明神東稜~前穂~奥穂よりも楽だったと思う。しかし、2日目の雨という今冬の異常気象には閉口させられ、槍の頂上では手の冷たさに泣き、荷の重さと体力不足は今回も痛感させられた。
 秋からこの正月合宿のために、何度もトレーニング山行を組み、時間をみつけてはランニングをしたり・・・でも自分の体力と精神力と技術力を思うと不安な材料ばかりで、息苦しさから正月合宿なんて、早く終ってくれればいいと思ったりもした。
 期待半分、不安半分で行ってみれば以外にもすんなりと行動することができた。いささか拍子抜けの感があったが、全員無事に下山できたことを感謝してます。今年も山からの悲報が後を絶たず、皆さんにはまたまた心配をかけてしまった。冬の北鎌に行ったらもう冬山止めようかな、なんて考えていたけど、どうしようかな。
 12月29日、快晴。大町から七倉までタクシーで入り、そこで入山手続きを済ませる。この日だけでも北鎌には50名以上の人が入山したようだ。ノロノロストーブにあたり続けていた我々は一番ビリとなり、他のパーティはほとんどが一泊を千天出合いへと進めていった。しかし湯俣で露天風呂を見た我々は、今日の幕営地はここと決め、早々に幕を張る。お湯の中に足だけを突っ込み一日の疲れをいやす。ここは熱で地面が露出しており砂地の上にテントを張り、快適な一夜を過す。一気に9時間も寝てしまった。
 12月30日、曇り後雨。湯俣から千天出合いまでは楽ちんに2時間もあれば行けると思ったのに、登ったり下ったりトラバースしたり、なかなか大変な道である。前にも書いたが今回はラッセル、トレースがばっちりついているのでその分楽なのだが、千天出合いまで4時間弱要した。
 P2への登りも急登で木の根っ子につかまったり、所々岩があったりしてしんどい。それにしても一番最初にラッセルした人は偉い!。途中、降り始めた雨は稜線に上がっても雪に変らず、3・4のコルで雪洞を掘って逃げ込む。風と雨はしのげるが濡れた衣服のまま眠る夜は冷たかった。
 12月31日、晴。今日は多分に停滞になるだろうと、グズグズ起きたら雨は上がっていて出発の頃には晴れ間が広がってきた。山の天気は本当に判らない。天気予報でも今日は雨が降り続くようなことを言ってたのに。この尾根歩きも登ったと思えば思い切り下ったりで大変疲れるが、トレースばっちりで順調にP9の頂上でテントを張った。
 1月1日、小雪後吹雪。昨晩の幕営地は多分Pナンバー7と計算して向かう。ちょっとした登りの所で関西の6人パーティがザイルを出して思い切り待たせてくれた。遅いだの何だかんだと文句を言いながら、我々はノーザイルで登ればそこは何とまあ独標のピークではないか。北鎌尾根の核心部であるはずの独標への登りは、千丈沢側のトラバースであろうと思い込んでいたのに、先ず20m位のルンゼの雪壁を登り、その上がちょっとしたリッジになってそれから岩場が出てきて、最後に快適な雪壁を30m程登ったら独標のピークだった。今冬は直上ルートとなっており、やっぱり一番最初にルートファインディングした人のセンスの良さがうかがえる。ナイス!。しかし、独標の登りを七峰への登りと思い『こんな所でザイルなんか出してしたら、独標なんて登れるもんか!!』と勇んで登ったところ、そこが独標だなんて嬉しいような、拍子抜けしたような、変な感じ・・・(独標と知っていればザイル出したろうに)。独標の登りに気を良くした我々であったが、槍の穂先への登りにかけて、またしても例の関西のパーティに待たされる羽目となってしまった。待つこと1時間以上、ここは一応安全を考えてザイルを出して槍ヶ岳のピークに立った。頂上はもう吹雪の中で何にも見えない。例のパーティに待たされることがなかったら、3時間は早く着けたのにと悔やまれる。『遅いパーティは抜かさなきゃダメ!』
 肩の小屋までは、先ず20mの懸垂下降をして慎重にハシゴを下って降りたが、小屋は既に一杯で入れず、小屋の脇にテントを張る。
 1月2日、吹雪・強風。昨日からの風は一向に止まず朝まで頭をどつかれっぱなし、吹雪いてて視界も悪いが今日は槍平までの下りだけということで9時に出発する。しかし、3000mの稜線の風は、とてもまともに歩ける風ではなかった。どのパーティも引き返してくるし、我々もしばらく様子を見ようと5mばかり歩いただけで、肩の小屋に逃げ込んだ。昨日ばったり会った、小林のモミヂさんと一緒に昼の12時まで待って、幾分かは良くなった視界をあてに下山を決める。西鎌尾根の千天乗越しまでの風は顔が凍るような強さだったが、所々に立ててあった赤旗を頼りに、右俣を一気に下った。
 1月3日、温泉入りたさに右俣をとっとと下って新穂高の深山荘の露天風呂にドボン!、これでおしまい。

〈コースタイム〉
12月29日 大町(6:00) → 七倉(6:30~7:20) → ダム(9:00) → 湯俣(13:00)
12月30日 出発(7:30) → 千天出合(11:20) → P2(14:00) → 3・4のコル(15:30)
12月31日 出発(9:30) → P9(14:00) → 3・4のコル(14:30)
1月1日 出発(7:00) → 独標(8:00~9:00) → 独標ピーク(10:30) → 北鎌平(13:00) → 槍ヶ岳基部(13:30~15:00) → 槍ヶ岳ピーク(16:00) → 肩の小屋(16:30)
1月2日 出発(12:00) → 千天乗越(12:25) → 槍平(13:20)

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