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現代温泉症候群考査
斉藤 芳弘

 今や温泉ブームでありますがテレビ等、マスコミを彩る虚妄はさておいて、私も正統派を自負する温泉党であります。何故、東奔西走して風流な「イデユ」を捜すかと申しますとこれ『別有天地非人間』であります。
 人生長いことしていますと、ふと文明病に罹りつつある世の中で、大自然を相手に野趣に興じるなど、如何にもナチュラリスト風インテリに感じるのであります。
 さて前置きはこの位にして有体に申し上げれば、温泉症候群の特長は文明社会から取り残されたひなびた温泉を最高とする変人的な病であります。例を挙げて申しますと、テレビ、電話、電気等、文明の利器に汚染された宿を嫌い、ひたすら野天風呂にて混浴を求め、この混浴のところを強く主張する訳であります。数少なくなりましたが、今でも東北の温泉では古風な慣わしを守り老若男女、仲良く入っております。
 しかるに今頃のギャルは水着を着けて恥じらいもなく温泉に入ってきては、しげしげと見るのです。困った風潮でして、小心な私など浴槽から上がれず赤面しのぼせてしまう訳です。さて次なる特長は、止せばいいのに日に数ヶ所の温泉を歩き廻るハシゴ病。当人は病ですから判らないけど相当湯当りしている訳です。結果、宿に帰って一気に疲れが出て、ほてった体を窓辺に横たえて独り淋しく天井を眺めているとか、他人の下着を着けてしばらく気付かず慌てて脱衣所に走り込んで、他の人が怪訝な顔をしている中、鼻歌を唄いながら見覚えのあるパンツを必死で捜しているなど笑えない状態になれば本物間違いなし。更に重病になると女性の脱衣所で裸になり、出てきた女性に悲鳴を上げられ裸で飛び出て、アレ混浴じゃないの! と言っている奇人も在る訳です。(普通入口は男女別々なのです)この病、治りそうでなかなか治らないのが特長で、たびたび再発する。しかし憎めない病で一度罹るとクセになる。
 という訳で過激的に書きましたが、私など考えますに、数年前温泉に行ってくると申しますと爺くさいとか、ネ暗ネェ! なんて言われたのが、今やNOWいジャンと言われる世の中、変わったと言えば物の見方が何が何だか判らないほど変ってきている。はっきり言って滅茶苦茶、学者は価値観多様化などと言っているが本当かね。悪い話ばかりではない。今頃カワユイギャル達にも温泉症候群に罹る娘が増えているとか、真意の程は判りませんが心中複雑です。東北の温泉でも若い女子のために浴槽を別々に改築して、昔の趣など吹き飛んでしまったところが出始めてきている。宿の主人の話では新しく作り変えないと若い客が泊ってくれないということであった。情けなや! こういう客は何を求めて来たのかね。温泉の楽しみ方は人それぞれにあると思うが、古き賢人の慣わしを尊びつつ独断と偏見に満ちた自分なりの楽しみ方を見つけ出すことだと思う。
 今頃、変な外人も東北の秘湯に来るようです。将来世界的に「イデユ」なんて言葉が流行するかも、何方にしても巷の流行などに惑わされず本物の温泉症に罹ることを御奨め申し上げます。ただし病に罹るのも大変苦労がいることを申し上げておきます。  !おそまつ!


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