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谷川岳集中山行
その2 赤谷川本谷
吉岡 誠

山行日 1985年9月22日~23日
メンバー (L)吉岡、市川、甘楽、川村

  前日の金曜日から雨模様で、中止すべきか入谷すべきか判断に迷った。川古温泉までタクシーで入ってしまった為、今さら敗退もくやしいし昨年の苦労も二度と味わいたくない。他の三人の顔を見ると、僕の困った様子に不安そうだ。とりあえず出合まで行ってみる事にした。川古温泉よりは約2時間の距離だ。
 昨年の大豪雪のため、入谷点よりすぐ上が10月上旬というのにスノーブリッジとなっていて、とても溯行など考えも及ばなかったが今年は雪は無い。とりあえず朝食をとっていると、4パーティが揃った。雲行きは非常に不安で小雨がパラパラ落ちてくる。強行か? 敗退か? 判断に迷う。9月も下旬だから雨中の溯行はイヤだしなあ。でも2パーティが先行して行ったので、強行することにした。口から出た言葉は「とりあえず行こう、マワットノセン迄行って駄目なら帰ろう」と、いいかげんなものだ。
 雨具の上着を着て出発。ゆるやかな流れを溯る本流ということで、右岸側からは枝沢が滝となって流入してくるが、本流には滝場はなかなか出てこない。主に右岸沿いに進む。約30分程進むと、最初の滝のマワット下ノセンに到着。既にここまでで敗退の気持はなかった。右岸より高巻く、ここで先行した僕が進退窮まりザイルを固定してもらうドジをしてしまった。先行き不安だ。次にマワットノセン。20mを超える大物だ、これも右岸より巻く。この頃より雨が激しくなるが、もう帰れない先へ進むだけだ。
 次に登場した巨岩帯は手強い、2・3階建ていやそれ以上もの大きさの建物と同じ位の巨岩がデタラメに積み重なって滝場を構成している。ショルダーや空身で岩をよじ登る。ルートを読まないと体力を消耗する。こんな登りが1時間以上も続くのだからたまらない。よくこんな巨岩がゴロゴロしているものだ。
 巨岩帯を抜け穏やかな流れが戻ってくるが、すぐ先には裏越しのセンがド迫力で迎えてくれた。100mを超す大物だ。この滝を越すには名の通り、中段バンドを利用して滝裏を渡り、右岸のガレ場を約1時間も高巻く。この高巻きで滝の大きさがわかる。しかし、夏なら中段バンドに登らずとも、釜の左端を泳げば簡単にガレに取付ける。
 裏越しのセンを抜ければ、即ちドウドウセンの高巻きだ。約250mのこの滝を巻くのに約2時間を費やすという。右岸より流入する枝沢から右の踏跡を辿る。傾斜も強く、おまけにブッシュも濃い。所々で露岩に遮られ右往左往するが案外速く抜けることができた。足下に穏やかな河原が見え、先行パーティの姿があった。みんなの顔にも笑いが戻る。
 下降もブッシュを手掛かりのクライムダウン、ようやく河原に降り核心部を突破した。これからは鼻歌でも出るかと思いきや、雨で川は増水し5m程の小滝も幅一杯に落水している。先行パーティは直登しようとして水にドボン! だそうだ。意を決して右岸のブッシュを強引にトラバースだ。足場は悪くズルズルだ。今までの踏跡追いの高巻きとは一味違う。これぞ上越の沢だ。後続の三人に注意するよう声をかける。この高巻きにも約1時間。そろそろ幕場を探さなくてはと、三人を残して先行すると、すぐ格好の幕場がありそこでビバークだ。
 全身ズブ濡れ、ガタガタ歯の根が合わないが、バーナーで火をおこし食事をするとやっと落着いた。幸い増水の心配もなさそうだ。四人で一つのツェルトで狭いが寒さしのぎにはいいようだ。
 翌日も雨だが水量は減っているので安心だ。すぐに上部ゴルジュ帯だ。このゴルジュは非常に美しい。陽が差していれば水泳に興じるところだが今は無理、ルートファインディングを問われる所だ。左岸のへつりから始まり、右岸に移ると主に右岸のへつりとブッシュトラバースで抜ける。ガイドブックでは左岸側がルートとなっているが、右岸の方が楽だ。このゴルジュを約1時間強で抜けると周囲は開け、一面の笹原となる源流部だ。細い流れを忠実に辿る。次第に傾斜も増し小滝の連続となる。この間がとても長い。俎ぐらからの山稜、国境稜線も望まれる。笹原の中をようやくオジカ沢の頭へ到着。溯行も終了である。心配して湯谷君と宮川チャンが迎えに来てくれていた。沢での二日間は持っていたトランシーバーも使えなかったので、皆に心配を掛けたようだ。
 男一人に女子三人でパーティ構成上の不安もあったが、三人ともガンバッテくれました。アリガトウ。僕の勝手な気持で突入し迷惑をかけた様で、この場を借りてお詫びします。でも、雨中の沢登りも格別です。

赤谷川本谷溯行図

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