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谷川岳集中山行
その3 万太郎谷
野田 昇秀

山行日 1985年9月23日
メンバー (L)野田、高橋(弘)

 土樽の駅を出て清水トンネル手前のガードレールをくぐると、もうそこは自然の真っ只中という感じを持っていたが、万太郎谷左岸に出来た関越道とその先のトンネルが土樽のイメージを変えてしまった。広い駐車場を右に見てトンネル建設の飯場跡を過ぎると、急にさみしい山の中に入った。広かった林道が狭くなると右に吾策新道の分岐があった。
 雨がしとしと降り続いている。弘道さんと何回となく行くか戻るか話し合っている。二人だけで登るのは今日初めて、お互いに遠慮し合いながら結論を引き延ばしている。分岐から万太郎谷に降りる。又、行こうか戻ろうかである。きっぱりと結論づけられないのが私の性格でもあるのだが、もう決めなくてはならない。どこを登っても濡れるのだから、どうせ濡れるのなら登ってしまえ、今日は弘道さんという強い味方があるのだからと、いつもの感情的思考で沢に入る。
 昨日からの降雨で沢すじ一杯に増水している。今日は飛び石伝いという訳にはいかない。すぐ膝上までである。右に左に渡渉を繰り返すと雪崩で磨かれた滑床の連続になる。水量が多く腰迄入りそうになる所もあるが、まだがまんのヘツリが続く。廊下状になると右岸に3本のハーケンが打ってあり捨てナワがかかっていた。ザイルを出してヘツろうという弘道さん、落ちて泳ぐ私、水から上って震える私を想像して、今日は時間がないからと高捲きをすすめる。かなりの大高捲きで井戸沢の上に出たようだ。左岸に突然関越トンネルの排煙塔が現われる。山の中に不自然というよりUFOの基地という感じであり、降りしきる雨の中で不気味である。
 いくつかの滑を越すと、一の滝が豪快に水を落としている。水しぶきでそばに近寄れず左岸を高捲く。すぐに一回り小さい二の滝に出る。右岸の針金を頼りに登る。この付近には谷川新道のペンキが所々に残っている。三の滝手前の左岸に高捲き道がある筈であるがどうもよくわからない。三の滝落口の右側をザイルを出して弘道さんがトップで取付く。かぶり気味の所を嫌って水量の多い方に入る。猛烈なシャワーである。右に戻って直上し15m程で中段のテラスに出た。私の番だ、シャワーを嫌ってかぶり気味の所を強引に上る。冷たい水が袖口から入り下着を濡らす、じゃあじゃあという水を浴びて良くトップは登ったものだ。中段から高捲き気味に嫌らしいトラバースをすると、三の滝上に出た。
 左から入る枝沢を1本見送り次の二俣で右に入ろうとする弘道さんを谷川新道の残りであるペンキを見つけた私が左へ導いてしまったのである。これから長い苦難のヤブこぎが1時間30分続き、やっとオキノ耳付近に出ることができた。トマノ耳から小屋にコールをかけると中沢さんが迎えに来てくれた。
 小屋の中で熱いお茶の歓迎を受ける。上流で左に入らなければもう少し早く楽に登れたと思う。一日中雨であったが、思い出に残る登山ができ、弘道さんに感謝しています。


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