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光の春と雪崩について
野口 孝司

 今年の冬は近年になく厳しい寒さが続いた。豪雪地帯には現在も数メートルの積雪が残っている。それだけに春の訪れは心待ちしている人が多い。
 春の季節は、昔から東洋の暦では「立春」から「立夏」の前日までとした。ヨーロッパでは「春分」から「夏至」の前日までとしている。だが、気候学的には3月から6月までを春としている。
 これからしても、2月は冬と春の同居の月で、気温の上昇も一進一退を繰り返し、下旬になってようやく上昇傾向が目立つようになる。
 しかし、日脚の伸びは順調で、2月10日の可照時間は「冬至」のころに比べ、鹿児島で49分、大阪で57分、東京で58分、仙台で1時間6分、札幌では1時間18分も長くなっている。
 日脚の伸びと共に日差しも強まり、明るさも増してくる。「立春」から「春分」までの、気温上昇を伴わない、日差しだけの春を「光の春」と呼ぶ。植物、動物は「光の春」に敏感で、雪国では既に梅、スイセン、ヒヤシンスなどが花を開き始め、ヒバリ、ウグイスなども鳴き始める。
 昭和56年以来の豪雪といわれる今年は、雪崩事故が続発すると考えられるので、山行は特に注意が必要だ。真冬の雪崩は、古い雪の上に新しく降り積もった雪が滑落する表層雪崩といわれ、その規模はあまり大きくない。春の雪崩は、地表面に接した古い雪、新しく降った雪全部がいっぺんに落下する全層雪崩といわれ、大規模で被害も大きい。この場合は、日本海を通る低気圧が引き金となることが多い。暖かい南風で気温が上昇し、地面と雪面との間の雪融けが促進され、摩擦の平衡が破れ崩壊するわけだ。
 一般に、傾斜角度24度以上で雪崩が始まるが、太平洋岸の積雪地帯では、傾斜角度41~45度、日本海側では36~40度ぐらいのところが最も発生しやすい。50度以上になると、雪が積もりにくいので発生は少ないのである。
 春山において雪崩の起きる場所は大体決まっていると言われているが、定石通りにゆかないのが雪崩で、5月の連休には多数の岳人がアルプスなどに入るが、良く研究し細心の注意を払って、コースの取り方、行動時間の決め方、幕営地の設定など、先ず雪崩を頭に入れて決めたいものである。


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