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井戸沢
大久保 哲

山行日 1986年7月19日~20日
メンバー (L)今村、牧野、高木、大久保

 車を深山湖畔の放水口に着け、女性2人は車の中、男2人はツェルトへ寝ることになった。外は風が強く湖の波の音がうるさい程聞こえる。ましてツェルトの風上に寝た私は頭上でパタパタと寝ていられない。さらに寝しなに飲んだビールで小水タンクがはれつしそうでガマンの限界にと思いきや、今村さんが起き出す。私も飛び起き、自然を前にダムの放水口めがけ放水。あやうく強風にあおられ、しぶきがかかりそうになるがとっさに躱した。
 とりあえず車を走らせると間もなく車止めにぶつかった。先はまだ車は十分に通れる様だが、自分の足で歩き始める。後で分かったことだがこの道は上にある三斗小屋温泉の大黒屋の管理道になっている様子である。40分も歩くとやがて三斗小屋宿跡へ出た。ここはその昔、会津中街道として大峠を経て会津田島へ抜ける宿場として往来がさかんな所であったらしい。そこから10分ぐらい歩くと沢へ出た。沢を渡り右へ行くと三斗小屋温泉へとつながっている。さっそく今村さんが地図とコンパスで井戸沢を探す。(ここで失敗の原因になるのだが)第一の目標の3mの滝がなかなか現れない。単調な川床が続く。どうも沢を間違えたらしいと気が付いた時には、中の沢と峠沢の合流に着いていた。とりあえず峠沢を溯行し、三斗小屋温泉と大峠をむすぶコースへ出て、全員で今後の予定を話し合う。帰るのは明後日なので、明日再び井戸沢にチャレンジするかどうかで意見がなかなかあわず、女性2人は大峠へは行った事がないというので、とりあえず、大峠へ出てそこからまた登ったコースをたどり、三斗小屋温泉につかることにする。大峠ではニッコウキスゲがまぶしい程の黄色でまわりの新緑にまけじと咲いていた。三斗小屋温泉ではまだ時間が早いせいか宿泊客もまばらだった。ここは大黒屋と煙草屋の二軒の宿があるが、私の意見で大黒屋の内風呂に入ることにした。ここは煙草屋と違って露天風呂はないが風情があって、なかなかいい内風呂がある。いざ入浴と風呂の扉を開ければオバサン連中が男風呂を占領し、我々はシブシブ少し湯舟がせまい女風呂に入った。
 翌日は前日とうって変わり、雨が降っている。今村さんは昨日の雪辱戦として沢に入ろうというが、私は湯舟につかりたいと考えながら起きず、しかし、ここ何回かの沢登りはつめた事がないので今回も同じ様になるのではと思ったとたん、急にファイトがわいてきた。女性2人を車に残し、今村さんと2人で5時すぎに出発。話もせずにもくもくと沢の出合に向かう。あっという間に三斗小屋宿跡をすぎ出合に着いた。井戸沢の入口は流れもなくうっそうとしている。間もなく最初の3mの滝現われ、進むにしたがい井戸沢であることが確認された。何かホッとしたような気がした。いぜん小雨が降り続き、上部を見上げればガスがかかっている。ここからもくもくと登り始める。最初の15mと6mは高巻き、後はホールドもしっかりとし階段状の所まである。川床はぬるぬるするが次から次へと滝をクリアし、次第に水量も少なくなってきたところで二俣に出る。右俣をたどり最後の10mチムニー状の滝を登りきり、あとはひざ位の笹ヤブを登る。沢ではあまり苦労はなかったが、ここが一番歩きにくい。足元がずるずるするし、少し休むとブヨがぶんぶんと寄ってくる。仕方なく少しずつ休まず一歩一歩足を前に出して行くと稜線に出た。
 稜線は踏跡がささにかくれ、わずかな笹のくぼみを頼りに歩き出すと間もなく、流石山頂に出た。何とも言えない爽快さ、小雨は相変わらずぱらついているものの、久々の満足感から思わず「モートー」のコールを3回もしてしまった。あとは大峠へと下る。大峠ではこの天気なのでほとんど人はおらず、一人どこから来たのか知らないが自転車を担ぎ登って来た人と出会った。何と前日は三斗小屋に泊って、これから田島へ下るそうだ。どう考えてみても、自転車で走れる道はなくmただ担ぎ上げて、又下る様なものなのに、変わった人だと思いつつ彼の後姿を見送る。我々も下山開始。今日は昨日間違った峠沢を下ることにした。途中、右足の親指をしこたま岩にぶつけて痛い思いをしたが無事下山。車では牧野、高木の両女史の作ってくれた紅茶を飲み干し、一気に板室の幸の湯へと向かった。
 何はともあれ、今回は沢は間違うは、初めて2人での沢登りはするは、下山に沢を下るはと少々ハードな、又大いに勉強になる、ドタバタ沢登りであった。


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