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小雨降る上高地
藤巻 豊太郎

 足の具合が余り良くない、しかし普通の歩行には大した支障もない。そうだ歩ける内に何処か行きたい。偶然にもバス旅行の空席の切符を得たので、思い切って出かけてみることとした。歩けなければバスの中に居れば良いと思って・・・・。コースは新穂高温泉から上高地へ。しかし天気は良くない。カメラをバックに車中の人となる。
 新横浜駅前を出発し、東名高速、名神高速と進むにつれポツポツとやってきた。飛騨高山から平湯峠、新平湯の温泉街を過ぎ、バスは下り道となり右にカーブして新穂高温泉への道に入る。この頃には雨も止んだが雲は低くたれこめ今にも泣き出しそうな空模様。しかし幸運にも新穂高へ着いた時には薄日が射してきた。希望者はロープウェイにて西穂高入口まで行くというので同行する。
 ゆらりと揺れて動き出したゴンドラからの眺めは薄日に映え、青々とした眼下の温泉場が次第に遠くになってきた頃、第二ロープウェイへの乗り換えである。見上げる山頂付近は厚い雲に覆われている。車内アナウンスでは視界やや良好とのこと。山頂の展望を天運にまかせる。間もなく山頂駅に到着したが残念、濃い霧に覆われ視界15mから20mぐらいしかない。駅付近は未だ残雪が白く広がっている。痛い足を引きずって残雪の上に立つ。ああ、この感触。何時の日か何度か味わったこの感触。眺望こそ駄目だったがこの感触は嬉しかった。何年振りだろうか!、この感激を後に下山のロープウェイの車中へ、そして今夜の宿、山のホテルへ・・・・。眼下はるかにはいまだ薄日が緑をくっきりと浮き上がらせている。
 翌朝目を覚ますと、眼下の山々は陽光に輝き今日は好天。せせらぎと共に心も弾む。再びバスの人となり新穂高温泉を後に上高地へと出発。昨日とうって変った晴天に乗鞍の山嶺もはっきりと見える。明るい陽射の上高地に胸を弾ませ・・・・。しかし大正池付近に来た頃は雲が低くたれこめ、霧の流れが速いポツリポツリと降り始めた。木梨平に着いた頃は相当の降りとなった。せめてもカメラに写そうと雨具に身を包み、足を引きずりながら河童橋へと向かう。一寸小降りになってきた。しかし霧は山の奥から河原へと下ってくる。3・4枚シャッターを切った頃、再び本降りとなってきた。近くの売店へと走りこむ。
 今年は天候不安定で、時期が悪い5月中旬のことでした。早々に引き上げバスに乗る。バスは松本へ向かう。平湯を過ぎ高度をぐんぐん下げる。視界が開けた頃天候は急速に回復し暑い陽射が車中に流れ込む。車中のそこかしこより残念残念の声が聞こえる。松本城下街を過ぎ、諏訪インターより中央高速に入り一路帰路につく。皮肉にも車窓の左に八ヶ岳の峰々がくっきりと浮かんでいる。右手はるかに南アルプスの全容が、又遠く雄峰富士が晴れ上がった空にくっきりと・・・・。また来る機会を胸に何年か振りの旅を終わる。


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