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苗場山
升田 直子

山行日 1986 8月9日~10日
メンバー (L)服部、牧野、倉林、堀場、升田

"お先に失礼します"と一番に退社。谷川合宿以来3ヶ月ぶりの山行で、朝からムキって仕事を終わらせ、ちょっぴりうかれ気味に寮へ直行。21時30分、上野集合で懐かしい山ヤスタイル。
 電車の中では健康優良児に徹しようと、良い子の眠りの筈がまたまたしょうもないクイズを出してしまい、貴重な時間が過ぎてしまいました。
 3時に越後湯沢着、駅の待合室で仮眠をとり、4時30分起床。昨晩から雨が降っていたので牧野さんとシュラフの中で"きっと温泉山行だね、やったね"と話をしていたら無情にも雨はあがり"出発するぞ"とリーダーの味気ない一声。
 タクシーで祓川バス停まで行き6時~6時30分。和田小屋で朝食としました。上の出発からすでにしつこく言われ続けていたザックの一件・・・・。牧野さんそして服部さんの友人で同行した堀場さんにまで、何度となく"ザック小さくていいね、軽いでしょう"と連発され、私には重くはないけど決して軽くもなかっただけに、先輩方の羨むような言葉にただただ肩身の狭い思いをし、よしーと気合を入れ"牧野さんザック交換しましょう"とけなげな態度。感動のシーン・・・・と浸るのも束の間。交換した牧野さん曰く"軽いわねえ、ペースが速くなるわ"と五寸釘。1時間ぐらい歩いて"牧ちゃんザック交換して"とリーダーからの指示あり。登山靴でなくジョギングシューズの足元を気遣ってのことでした。
 7時40分、下の芝で休憩。このすぐ上の中の芝あたりから高山植物が目につき、みんなであれがミヤマホタルブクロ、コヒマワリ、ナエバキスゲなどメチャクチャな名前をつけては楽しんでいました。堀場さんはそんな私たちを軽蔑することなく自然の花にカメラを向けていました。こんなメルヘンな雰囲気に酔いながらも左足の指に痛みを感じていると上から"ペース遅いよ""足つっちゃった"この一言で30分のマッサージタイムになるとは本当に申し訳ないと思いました。
 服部さんによくほぐしてもらい岩の上で仰向けになったり、うつ伏せになったりマッサージを繰り返していると、数名の登山者が通りすがりに経皮鎮痛消炎剤インテバンクリームという塗り薬を貸してくれました。その後この親切な人たちと頂上と赤湯でも会い、家が薬局らしくインテバンクリームと強力なビタミン剤をわけてくれました。それから一言"素人がやたら揉んだり、マッサージするのはかえっておかしくするから、揉まずに薬を塗るのがいいんだよ"っと、その言葉にハッとして30分間もマッサージしてくれた服部さんを見るとオレは素人という顔をしてましたっけ。
 話は戻り、マッサージの効果もありましたが、念には念をと荷物の軽減まで神経を使ってもらった次第でした。みんなのザックはよりふくらみ、私のザックは体調と共にだんだん小さくなり、牧野さんの"足大丈夫?"の後に続く言葉を予期して自ら"軽いので平気です"と先手を打つという、ザックに関しては常に神経を使う状況が続きました。
 登山道というより、ちょっぴり高原気分が味わえる風景を背に10時ジャスト雷清水に到着。冷たい清水を水筒とお腹にたっぷり入れ10分間の小休止。まわりはガスっていて、この時苗場山はあまり晴れることがないんだよと聞きました。たまに秋を思わせるすじ雲が見られましたが殆ど朝からパッとしない天候で、小雨もポツポツと木の葉をたたき、暑さでバテるということは心配ありませんでした。また例の如くありもしない花の名前を勝手につけながらのんびり歩きました。空気が流れていて目を楽しませてくれました。
 すれ違う人たちから"もうすぐ頂上だよ""みんな若いね"などおだてられながら登ると、目の前の草木が切れ青い空がだんだん広がりやった! 一面空。っと喜びもそこまで、山頂まであと0.5kmの立て札。霧で視界は良くないけれど斜がかったあやし気な雰囲気がとてもいいムードでしたね。苗場山頂はどこが頂なのかわからないだだっ広く、湿原に点在する池塘と周囲を彩るキスゲと木道を歩くのが尾瀬を思わせます。しばらくするとありました、ありました標高2145メートル苗場山山頂11時に到着。雨が降ってきたので約1時間の散歩はあきらめて、記念写真を撮り11時50分赤湯に向け出発。実のところ全員同意見で散歩より温泉をとったのでした。山頂の小屋から道3本に分かれ赤湯へはケルンのある道を左に折れしばらく尾瀬道?を歩きます。
 登りは周りの優しげな風景も手伝ってか、そんなにきつい程ではなかったのに対して下りは、ちょっと急坂かなと思われる所も何ヶ所かあり、全員一度は滑ってましたね。そんな緊張の中にも新人の倉林さん、特出の堀場さんから時々思い出したように鼻歌が聞こえてきたのは余裕のようでした。堀場さんというと牧野さんがしきりにリクルートを勧めていて"三峰は沢山女性がいますから色々な人と会ってみては"とか"今度は服部さん大久保さんがいない山行も経験してみて下さい"っと本心は"私はいつでもいるのでお供します"と、一含みありそうな言い方もチラリ。計画当時は山頂にテントの予定が赤湯まで降り、時間もあまりないということで、途中、倉林さんのザックをリーダーが片手で持ち全員スタコラと急ぎ足。
 登ではみんなお腹がすいたと言っては、休憩の時に水分と一緒に行動食を口にしていたようですが、私はザックにあるカステラ、菓子パン、ビスコなど思い浮かべるだけで胃がもたれる感じで結局手をつけず寮に持って帰りました。途中、牧野さんに"ジョギパン"にはき替えましょうよ"と訴えたのですが、シカトされ、それでもめげずに"ねえねえ"としつこく言うと"うーん"とうわの空。朝、和田小屋で"タンパンにはき替えた方がいいよ"と言われた時素直に返事をすれば良かったと後悔。結局赤湯に着くまでジャージで常時むれて不快感120%、最近痩せたい女性のために「眠りながら汗を出し1ヶ月に6kg痩せて、みるみるうちにスリムな足」になるというスウェットパンツのようなものが市販されているようですが、登山で体を動かして汗をかく方が健康的なのにと不快を感じながらも反面、頭の中で思わず比べてしまいました。
 3時間くらい歩いた頃、途中ガクアジサイが咲いていて、そろそろ人里近しと心わくわく。16時30分待ちに待った赤湯到着。"あー温泉"という気持ちでいっぱい。早速、ジャンボの設営開始だが幕営地は温泉より少し先の橋を渡りきった、3・4幕でいっぱいになりそうな所で無料。入湯料は一人300円。温泉は目の前がすぐ川の露天で男湯は名前の如く赤湯だったそうですが、女湯は普通のお湯で露天とはいえ、さすがに青の養生シートを張ってありました。橋の上からこの露天一帯が丸見えですが、見ると後々まで責められそうなので、じっと我慢の子でした。女湯は私たち三人の貸切で、牧野さんは日焼けしてむけた皮をこの湯の中に浮かべていましたっけ。倉林さんは入る前に知らない人から"そっちは女湯だよ"と言われて山行1日目にしてショックを受けていたようです。
 さてサッパリした後は夕食。サラダとマーボの素を中心にしたよくわからない食事だったけど、とても美味しかったですね。デザートにフルーツ缶。ここで改めて感じたことは、リーダーの服部さんはザックの重さに関しては、自ら重い物、重い物と持ってくれますが、食事になるとフルーツ一切れにもシビアにナイフを入れ皆んな平等。対してサブリーダーの牧野さんはザックの重量を鋭く目測し何気なくチクリト言葉をさすのに、食事時は何を食べようかあらゆるものを開封して全てオープン。それでうまい具合に調和され、一つのパーティが保たれるんだと感心しました、はい。
 夕食も終りその晩のクライマックス・・・・というにはちょっと迫力に欠けた花火を楽しんだのですが、何故かみんな線香花火に専念するという暗いシーンもありました。その後男性はまた温泉に行くというわけで20時以降は女湯に入っていいことになっているので、もしやそれを狙っていたのかなと、口には出さず内心思ったのでした。
 翌朝のんびりと8時45分出発。昨日と同じく結構距離を歩いて9時30分、たかのす峠で小休止。まだ1/3も来てないんだと地図をしまい、よいしょと軽い腰を? 上げるのでした。いつの間にか登山道が林道に変り11時5分第2の休憩場こび橋に着き、橋の下に溜まっている水がフラッペのブルーハワイのような色で時間があれば、どうにかしてでも降りて行きたかったくらいとても素敵でした。
 11時25分、元橋に向かい再度出発。途中、林道と近道に分かれていて、以前歩いた牧野さん曰く"最後のつめが大変だった"と話してくれましたが、リーダーの"それでもこっちの方が全然近いよ"の一言でこの近道に決まり。途中河原で休みいよいよ最後の登り。殆ど無言の状態で登り、時折り吹く風に涼しさを求めて立ち止まると"止まらないで歩く"と後ろから声がして又、モクモク。
 "あそこが頂上かなあ""そうかも知れない"との会話の後に"もう一つ山を越えるんだよ"の言葉で力抜け、頂上だと思ったその場所に立つと、それ以上山もなく、下る道の向こうはすぐ車道。もう一つ山があると思っていただけに、この瞬間みんなの喜びようは拍手もんでしたね。この時既に13時。残り最後の水でイチゴジュースを作り回し飲み。車道にあるお店を見つけてアイスクリームが食べたいとか、早く駅に戻って温泉に入りたいとか、それぞれしまりなく顔のデッサンが崩れてました。
 13時30分、寝ているタクシーのおじさんを起こして駅まで直行。赤湯では流し湯がなくシャンプーは勿論、体を洗い流すことも出来ないので汗を流すのみ。そんな汗臭い5人が一度にタクシーに乗ったので、冷房車にもかかわらずタクシーのおじさん、さり気なく窓を開けていました。湯沢では最後のひと風呂も10日は定休日ですと非常な張り紙。列車の時間も余りないということで未練を残して帰路へ。
 今回の山行は下りがいささか長かったように思います。結局持っていて意味がなかったものが二つありまして、缶ビール2本、1リットル入りの六甲の水が帰京までザックの中に眠って、苗場山越えをしただけでした。帰りは14時56分越後湯沢始発に乗り、無地に帰れば全員でご苦労様なのですが落ちがありました。牧野さん、倉林さんはそれぞれカレー、ソバを食べていて、残る3人は席を取るためにホームに止まっていた電車に乗りザックを置きました。ところがどっこいしょと堀場さんは忘れ物でもしたのか外に出たところが、ガタンと電車が動き出し、心配そうな服部さんの顔をよそに、私は"きっと連結するのかも"と、その反応に対して"この電車は14時36分発長岡行きです"と車内アナウンス。慌てても遅いし、石打で折返しに乗り再び越後湯沢に戻ったのでした。ヘラヘラ笑っているみんなに答えるように、こっちも"やあやあ"と笑顔で挨拶。高崎で倉林さんが降り、赤羽で牧野さんが降りて、無事に上野へと思うとやっぱり最後の最後まで愛きょうを忘れない山行でした。電車の長椅子の下に忘れ物として、ちゃっかり登山靴が並んで残されていました。あー牧野さん、なんてこと・・・・。

メモ
越後湯沢~祓川 タクシー代 4450円
元橋~越後湯沢 タクシー代 4630円
湯沢タクシー 電話0257-84-2660


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