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『誰がために湯煙は上る』むねはわくわくイデユわく之序
編集子

 火山帯の寄り合いみたいな日本には、やたら温泉がポコポコ湧いている。湧いていなくとも、穴をほじくれば出てくる。地面全体が湯船を覆うでかっい風呂板みたいなものだ。山屋はそんな地面の凸凹の間をウロウロしているのだから、温泉に行き当たらないハズがない。熊に出くわさなくとも温泉には出くわす。我が三峰山岳会では、近頃温泉に出くわす確率が、不思議なことに、他会に比べ非常に高い。これはどうしたことか!! 理由は如何であれ、山の自然を楽しんだ汗を大地の湯で流す、自然の恵みの中に文字通り全身を浸す温泉こそ、自然を愛する者の旅のしめくくりに相応しい。出湯は大地のメッセージ、その語らいを全身で受け取るのである。
 そこでしみじみとした秋の温泉シーズンを迎えるにあたり、温泉特集を組んでみた。お寄せいただいた原稿は、温泉消極派から重度後天性熱烈入湯症候群患者まで千差万別。どの語り口にも各人の人柄、温泉観が出ていて、面白くお読みいただけると思う。それぞれの山があるように、それぞれの温泉があるようだ。特筆すべきは、今回全く予期しなかったことであるが、勝部辰朗氏と佐藤明氏両名の、性格の正反対の温泉判定基準が並んだ点である。前者は、温泉消極派を含むパーティの下山後の意思決定に一助となろう。温泉に寄る寄らないは、人によって山行の印象を左右する要因であり、リーダーには慎重かつ沈着な判断力が要求される。勝部氏の基準は、そうした際に大いに参考となろう。後者の佐藤氏のものは、古今東西画期的な温泉グレード体系の提案である。これは当会会員の湯あたり遭難防止の悲願を込めた委員長的配慮に基づいた提案であると同時に、氏の長年に亘る経験に培われた温泉の実力の程を窺わせて見事である。この試案をたたき台として、今後更に体系化を充実させれば、都下及びその周辺域の山岳会共通の基準となり得る可能性がある。是非とも、その実現を見たいものである。
 最後にこの場を借りて、本特集に寄稿して下さった皆さんに編集部よりお礼申し上げます。ありがとうございました。


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