トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ259号目次

『温泉いいことづくめ』
川田 昭一

 「岩つばめ」の原稿が服部君からありました。腰をかがみ加減に手もみしながら、小さな声で「温泉特集を組みましたので、記事を一つお願いします」。お声がかかったというか、運悪く"白羽の矢"を立てられた感じ。
 編集部の服部君からの依頼で引き受けたが、何を書いたら良いのかさっぱり浮かんでこない。タイトルは何にしようか・・・・。例えば「日本人と風呂好きの関係」、「山の出湯」、「秘湯シリーズ」「男の好きな温泉、女の好きな温泉」とか「うまい肴と温泉」等、色々考えてみたが、自分の乏しい知識と、さして多くない経験談では原稿用紙1枚が精一杯。そこで単純に思いついた事だけを集めてみました。だらだらした文で、飽きることが多いと思いますが、悪しからず。
 温泉という言葉からイメージは"疲れた心を安らげる""疲れた体をほぐす"とか、病を治すとか、いいことづくめで、悪いといえば入り過ぎてあたる「湯あたり」ぐらいだろうか?。
 狭い内風呂に一人黙々と入るより「松の湯」「亀の湯」の煙突が上がっている広い湯槽のついた銭湯が好きです。気の合った近所の仲間が必ずいて背中の流し合い、世間話しと時間のたつのも忘れ、何時間いても湯銭は同じ、超過料金は一切取られません。こんな所が「どこどこじま」なんかと違うそうで、安い料金で健康が買え、情報交換の場となる銭湯は大変結構な社交場でした。
 ひと頃に比べ数は減ったものの、無くなる事はないでしょう。「松の湯」、「亀の湯」の銭湯より、どこどこ温泉の若喜旅館とか、なんとか鉱泉の松寿荘なんて、一応名前の通った湯宿での温泉ぐらしの方がもっと好きです。お金はかさむが、掛けただけの分はあると思うから、湯に浸かり盆を浮かべて、飲みながら語り合うなんていいなあ。また大湯船で記念撮影をするなんて、もっといいですね。
 ヌル湯温泉の湯の温度が下がり過ぎ、鉱泉に格下げになった話、飲み過ぎて朝まで他の団体さんの部屋で寝込んでしまった話、男が女に覗かれ(あり得ないけど・・・)たら一番に手ぬぐいをどこに持っていくとか。そんな話などをして、目に涙を浮かべながら腹を抱えて、笑い転げるなんて大好きです。
 だいぶ前になるが8月の南アルプス光岳から寸又峡温泉への長い長い下り。汗と泥、おまけに山ヒルに食いつかれ足を引きずりながら、温泉へ近づいた頃には日もとっぷりと暮れ、宿の明りが遠くに見え隠れしたのを見つけたときの嬉しさは道中が厳しかっただけに、まさに地獄から這い上がった天国という感じ、未だにはっきりと覚えています。見えたからには、はやる気持ちを抑えながら宿へ足は急ぐ。頭の中は湯宿での事で一杯。
 川の音を聴きながら湯に浸かる。汗と泥をシャボンの泡と一緒に洗い流す。薄ノリの効いた浴衣、バリバリと音をたてながら肩から着込む。酒の席には酌婦もつけたい、アンマも呼びたい、等々思いがいつしか会社の慰安旅行と、まぜこぜになってしまう。考えが定まらない疲れたせいだろうか?
 こんなことを頭の中で思い巡らすのが好きです。皆さんはいかがですか。
追記 この原稿は狭い内風呂から「カラスの行水」よろしく、パッと上がった後書き上げました。冷えた缶ビールを手酌でつぎながら。


トップページ > 岩つばめ一覧 > 岩つばめ259号目次