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「ウ・シ・シ」嗚呼仰げば尊し逆さ富士
野口 孝司

 温泉・・・・。温泉はいいですなあー。世界中で日本ほど温泉を愛する国民はないと言われています。ことに最近はテレビで放映されるので、なお一層ブームになっていますね。又当会でも温泉付き山行が多く組まれていますが、昔は山行の帰りに温泉に入ることは、滅多になかったものですが。
 私も以前は会社の寮が熱海、伊東、箱根、日光、下田、軽井沢などにあったので毎月必ずという程温泉に行ったものです。これらの温泉は毎度おなじみのありふれた温泉ですが、今回、書きたいのは青森県八甲田山の中腹にある酸ヶ湯(スカユ)温泉です。この酸ヶ湯温泉はマイカーで38年と41年の2度行きました。いつも4月末から5月の連休にかけてです。
 古い話で恐縮ですが、自動車免許を取ったのが昭和11年ですが、だんだん世の中が厳しくなり、やがてガソリンが切符制度となり、車に乗る機会が少なくなりました。そして終戦、戦後経済の混乱などで36年に改めて免許を取り直し、フランスのルノー車(亀の子型で日野自動車がライセンス生産しているリアエンジンの車)を購入し、よく東北の旅に出たものです。当時の高速道路は名神(名古屋~神戸間)しかなく、国道といっても街の中だけが舗装されているという道路が多かった時代です。
 さて東北の旅は色々なコースを走りましたが、国道6号線を岩沼町で4号線に入り、中尊寺の駐車場で一泊(有料だが夜は人がいないので無断駐車)。翌朝、なおも北上し青森市から雲谷峠を通って、八甲田山中腹にある唯一の大旅館酸ヶ湯温泉に到着です。
 当時と今では建物その他の様子が変っているかも知れませんが、この点お許し下さい。とにかく大きい宿で、湯治客と一般の旅行客とに部屋が分かれていて、自炊客のために売店では米、野菜、味噌、調味料、酒はもとより何でも売っているのです。風呂場は学校の講堂ぐらいの大きさで、湯槽は七つくらいあって、湯治客は病気によって入る風呂の順が決まっているのですが、一般の旅行者は色々な表示がしてありますが、自分の好きな、だいたい湯槽の大きいのに入るようです。
 一般に混浴場は脱衣場が男女別々になっているが中に入ると一緒というのが多いようです。湯槽は床の高さより少し高いぐらいで、肩まで湯に浸かっていると通る人の足首あたりが目の視線と同じです。長距離運転の疲れと程良い湯加減に夢心地でお湯に浸かっていると、何と17・8才ぐらいの津軽美人のお姉さんがタオルを片手に手を振ってスッポンポンで歩いてくるではありませんか、下から仰ぎ見ると逆さ富士を丸出しにして、思わず見えないように湯の中で手を合わせて拝みました(嘘をつけ)。当時は今ほどポルノが盛でなかった時代なので、嬉しいやら、珍しいやら、ほんとに目の保養になりました。
 田舎の家では自家風呂があるので、自然態で入浴するのでしょうが、この様な大衆浴場のエチケットは親の教育が悪いのでしょう、タオルで前を隠して歩いてくれれば、一層想像をたくましくさせ美人に見えるものです。しかし、男性にとってはありがたいもので、旅の思い出として楽しくさせてくれました。
 私は素泊りで一泊、料金は580円だと思いました。部屋には「イロリ」が切ってあり、ミカン箱に炭が一杯入っていたので、暖房と自炊用に充分使わせてもらいました。この酸ヶ湯は湯治客が多いので熟年者向きですが、たまにはオバアサンと一緒に息子や娘さんも湯治についてくる処だと思います。
 帰路は十和田湖(酸ヶ湯~奥入瀬間の道は除雪してありますが両側は4mくらいの雪があります)~大館~能代~男鹿半島~秋田~酒田~新潟と回って帰京しました。
 嗚呼、懐かしき思い出よ、さらば。


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