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釜川遡行
吉岡 誠

山行日 1986年8月23日~24日
メンバー (L)吉岡、金子、小泉、高橋(弘)

 釜川は、苗場山の北面にくいこみ、その名の如く釜や渕の連続する険谷だ。遡行のメンバーは僕の他には金子、小泉、高橋(弘)の四人で、気心の知れた仲間だ。車で遡行の出発地の大場の部落まで入る。ここの下流に有名な『田代の七つ釜』がある。
 部落よりダムの導水路ぞいに進み取水口より入渓する。きれいな瀞を巻くと二俣に着く。予定通りに右俣に入ると沢の様子は廊下状となり滝も現われてきた。高巻いたり、腰まで水に入ったりして進むと、行く手に幅一杯に水を落とす6メートルの滝が出てきた。釜も青々としてとても美しい。左の凹角がルートで金子氏が泳いで取付くが、易しいようだ。周子は濡れるのが嫌らしくなかなか行こうとしない。ザックを背負っているので沈むということは無いが、やはり不安なのであろう。上からザイルで引いてもらっているので難なく滝の上にでることが出来た。
 その後も20メートルの瀞を泳いで突破したりと積極的に水に入って遡行を続けた。天気も上々でとても明るい雰囲気だ。不意に前方が開け、目の前に巨大な白いスラブが現われた。すりばちの底にいるかのような幻想的な景色に口々から喚声が発せられる。
 スラブは3段の三釜となっていて、さらに途中の釜でヤド沢を合せる両門の滝となって豪快に水を落としている。左岸側のリッジより登りヤド沢を渡って上にでる。途中のテラスで昼食とした。腰を下してしばし憩う。なんとぜいたくな時間だろう。
 三つ釜上も美しいスラブとゴルジュの連続で、水とたわむれる溯行に酔った。途中、清水沢を分け更に行くと頭上を林道が横切っていた。少し白ける感じだがここでビバークすることとした。すると間もなく夕立になり見る間に増水し、濁流が目の前を通りすぎる。大雨に周囲の岸壁から幾重にも滝ができ、泥の壁から土砂が流れるのを焚火に当りながら眺めていた。
 翌日は雲天の中を出発となった。雨は夜中に上がったがガスは切れない。1ヶ所小さなゴルジュを巻くと二俣となった。早く稜線に上がろうということで右俣に入った。右俣はゴーロが続く容易な沢でどんどん高度を稼いだ。次第に水量が減り、熊笹がうるさくなってきた。沢登りは詰になると今まで楽だった分しんどいものだ。稜線から眺めた苗場山は雄大だった。僕達の他には誰もいない。ぜいたくな時間だと思う。下山の途中に通る小松原湿原の景観は、この山行を締括るに相応しい素晴らしいものだった。今度は本流の左俣を遡って見よう。


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