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鹿島槍ヶ岳天狗尾根偵察
金子 隆雄

山行日 1986年11月1日~3日
メンバー (L)金子、鈴木(章)、高橋(清)

 11月の連休を利用し正月合宿のための偵察に行ってきた。明日から国鉄の大時刻改正があるという10月30日の夜、雨飾山へ行くという湯谷たちと一緒に新宿を出発する。
 11月1日朝、信濃大町で下車し待合室でストーブにあたり温まってからタクシーで大谷原まで入る。タクシーを降りると我々の他に2・3のパーティがたむろしている。橋を渡ってすぐ右に続く林道に入り、また橋を渡ると昭電小屋の前に出る。ここから大川沢の左岸につけられた道を昭電の取水口まで歩く。取水口から右岸を行く。登山靴を履いているので水に入るわけにもいかず尾根の取付きまでは結構苦労する。
 アラ沢の出合いを過ぎた辺りで、あまり悪い高捲きが続くので適当に尾根に登り始める。脆い急斜面をしばらく登り右へトラバースぎみに登っていくと右に深い谷が現れやっと尾根らしい所へ出た。ここから先は所々踏跡らしきものがあるが、ものすごいヤブで一日中ヤブこぎに終始する。今日の予定は天狗ノ鼻まで行ければと思っていたが、とても行けそうにもない。昼頃ようやく見晴しがきく所へ出た。左に東尾根、前方に天狗ノ鼻らしき所が見える。ここら付近から目印の赤布が増えてきて、それを頼りに進むが自分らが今何処ら辺にいるか地図を見ても良く分らない。こんな時、高度計があれば便利なのだが生憎持ってきていないのである。尾根はだんだん痩せてきて、そろそろ今夜のビバーク地を見つけなければならないが、テントは張れるような場所がなかなか見つからず、やっと見つけた場所はテントが少しはみ出すような所だった。夕方になって一時天気が崩れたが、夜にはすっかり回復し大町の灯がくっきりと闇に浮び上がり奇麗だ。
 11月2日、早起きが苦手なもんで出発が遅くなり、歩き始めた時にはしっかり太陽が昇っていた。モーレツなヤブこぎから開放され雪がだんだん多くなってくる。吹き溜まりに入り込むと腰まで潜ってしまう。
 第二クーロワール、第一クーロワール共にあまり判然としない。急な草付きにフィックスロープの切れ端がかなりいっぱい垂れているので、ここがそうかなという感じである。ニセの天狗ノ鼻にだまされて正真正銘の天狗ノ鼻に着いたのはちょうど正午だった。ここは結構広くてテント5・6張は張れるだろう。この先の尾根はますます細くなり雪も多くなり、完全な冬山の世界になってくる。小舎岩の下にテントが張れるスペースがあったので整地してテントを張る。
 11月3日、今日も空は青く澄み渡っている。アラ沢の頭は目の前に見えているが、なかなか辿り着かない。アラ沢の頭に11時頃に着いた。ここから先は東尾根からトレールが続いており、ラッセルから開放される。北峰直下は雪壁状になっているが階段状になっているので苦労することもない。12時ちょうど鹿島槍北峰に出て長かった天狗尾根も終りだ。だが下山までだいぶかかりそうだ。
 明日はみんなで会社を休もうかという話もでたが、行ける所まで行こうということで歩きだす。冷池に着いたのが15時頃。冷池から赤岩尾根を下る。西俣出合いに着いた時は既に真暗で徒渉する場所を捜すのに苦労した。真暗な林道を大谷原まで黙々と歩く。大谷原に着いても人家もなければ公衆電話もないので更に1時間近く歩かなければならない。誰も口をきかずただ惰性で歩いている。やっとのこと家の灯が見えて一軒の食堂があったのでタクシーを呼んでもらい大町まで。夜行列車で一路東京へなんとか帰ってこられたのだった。


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