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雪の鳳凰三山
河合 信之

山行日 1987年3月19日~21日
メンバー (L)服部、今井、河合

 誰もいない雪山であった。3月中旬の鳳凰三山はまだ雪深く、稜線上にはトレースもなかった。振り返れば自分達のラッセルの跡、前を見れば様々な風紋を見せて白い尾根が続いている。小休止をとり、呼吸を落ちつかせてあたりに耳を澄ましてみると、風の音。風の音以外に何も聞こえない。静かである。この山域において生きて動いている物は我々以外にいない、そんな気がしてくる。
 のんびりとした山行であった。当初は早川尾根を越えて甲斐駒か北沢峠へ向かう計画であったが、2日目に低気圧の通過待ちで半日停滞したことをきっかけとして御座石鉱泉下山の、のんびり山行に変更となった。そのため大変余裕のある山行となってしまったが、かえって結果的には鳳凰三山を3日間にわたって、我々三人で独占してきたような満足感を残すことができたのである。
 夜叉神入口で山荘のおやじさんにさんざん脅かされたあと、登り出してから誰にも会わなかった。南御室小屋と薬師小屋付近にそれぞれ一泊。薬師小屋からはトレースも消えて、我々以外の人間の存在を示すものはなくなる。低気圧の通過後はまぶしいほどの晴天で、北岳、仙丈岳、甲斐駒ヶ岳、さらには北アルプスの山々を望みながら歩くことができた。そして八ヶ岳をバックにそびえる地蔵のオベリスクは黒い岩肌と白い雪のコントラストの中、その奇妙な姿を際だたせていた。
 鳳凰小屋を通過し、ラッセルに苦しみながら下山する途中、連休に備えて荷あげをする山小屋の人達とすれちがった。「ここまで三人でラッセルして来たんですか、ご苦労様でした。」誰もいない山もよいが、人と会うのもなにか懐かしくてうれしいものであった。我々三人のつかのまの独占のあと、山は再び多くの登山者をむかえ入れるのである。
 あとはひたすら下った。御座石鉱泉に降りた時にはとっぷりと日が暮れていた。

〈コースタイム〉
3月19日 曇り
夜叉神入口(7:10) → 夜叉神峠(8:20) → 杖立峠(10:00) → 山火事跡(12:00) → 南御室小屋(14:00)
3月20日 みぞれ~雨~快晴
南御室小屋(11:10) → 薬師小屋(14:00)
3月21日 快晴
薬師小屋(6:00) → 観音岳(6:50) → 地蔵岳(9:15) → オベリスク往復して地蔵岳発(10:20) → 鳳凰小屋(11:45~12:30) → 御座石鉱泉(18:40)

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