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美しき友情(一ノ倉沢)
荒川 洋児

山行日 1987年5月16日
メンバー (L)竹内、金子、井上、鈴木(章)、高橋(清)、荒川

 5月15日夜、竹内リーダーを始めとする金子、井上、鈴木(章)、高橋(清)、そして荒川の6人は谷川岳一ノ倉沢に向けて、上野駅を出発したのであった。
 いつのまにやら土合駅に着き、長い階段を登るとそこは改札であった。
 土合で降りた客は意外に少なく、これなら一ノ倉もそんなに混まないのじゃないかと思うと、私としては一眠りしたかったのだが、ファイト溢れる竹内リーダーがそんなことを許すはずもなく、すぐに一ノ倉出合いを目指して出発したのであった。
 出合いの駐車場にテントを張り、飯を食ったと思ったら、もう出発である。初めて一ノ倉を訪れる私を歓迎するかのように、空は晴れているのである。これも日ごろの行いのおかげであろう。さすがに目の前で見る一ノ倉の岩壁は凄い迫力なのである。あれが衝立、あれがコップ、あれが滝沢下部と、しばしみとれるのである。うーん、凄い。
 南稜フランケに登る金子、井上組と別れ、南稜テラスに着くと、まず竹内、章子組が竹内リーダーのリードで、南稜を登りはじめたのである。
 しかし高橋(清)、荒川組は、どちらが先にリードするかで美しい譲り合いの精神を発揮して、なかなか登り出さないのであった。二人ともルート図を見て、なるほど最終ピッチが核心部か、そこを相手にリードさせてあげるためには、自分は何ピッチ目をリードすれば良いのだろう、と考えこんでいるのである。
 清豪氏は一ノ倉初体験の私に核心部をリードさせようとしてくれるし、私は三峰の先輩であり、また岩登りの先輩でもある清豪氏を差し置いて、核心部をリードするなどというだいそれた事は出来ないので、遠慮申し上げるのである。どうぞ、どうもの譲り合いではない。どうぞどうぞの譲り合いである。
 結局、草付きのピッチを見落とした私が2ピッチ目リード(最終ピッチリード)で登り始めたのであった。絶好の天気の下、日差しにジリジリとあぶられながら登って行ったのである。周りはどこもかしこも岩岩岩・・・どっちを向いても岩なのである。さすがは一ノ倉である。振り向けば滝沢スラブがある。時折落石やブロックの崩壊する音が驚かせる、とにかく凄いのである。
 こんなに天気がよいというのに、土曜日のためなのか、他のパーティはほとんどいない。南稜には我々の他には1パーティしかいないので静かでいいもんだ。なんやらかやらと登っていくと、ラストピッチ。
 ここで再びどちらがリードするかで美しくも熾烈な譲り合いがあり、結局はジャンケンに負けた私がリードすることになったのである。ひえーひえーと悲鳴を上げながら登ると、不意に終了点である。よかった、生きていた。
 金子パーティを待ちながら、今度は下山ルートについて、竹内リーダーと我々の間で美しいやりとりがあった。一ノ倉の全容を知るためにも、一ノ倉岳経由で下ろうという竹内さんと、既に一ノ倉経由での下山を経験している竹内さんに、我々のために再度そんな遠回りをさせては申し訳ないから、南稜を懸垂下降しようという我々のあいだでだ。結局は金子パーティが少し遅くなったおかげで南稜下降になったのである。
 しかし南稜テラスからの下降が恐ろしいのである。高所恐怖症のわたしにとってはこんなことなら、リーダーのお言葉に甘えて一ノ倉岳経由で下ればよかった、と思っても後のまつりである。それでもなんやかやと下っていくと、やっとこさテントに着いたのである。めでたしめでたし。


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