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平標山スキー山行
吉岡 誠

山行日 1987年3月15日
メンバー (L)吉岡、冨岡、鈴木(章)、今井

 谷川連峰は東京の山やにとって魅力的なエリアだ。岩登り良し、沢登りに良し、雪山としてもグッドとあらゆる魅力を備えている。
 この連峰の西端に位置する平標山は、その女性的な姿から古くよりスキー登山に適していることで有名だ。昨年も大源太山を経由で頂上を目指し、更に北面の平標沢の滑走を試みたが悪天候のため、頂上直下で敗退した。今回は昨年の雪辱を期して入山した。
 今回は昨年の下山に使った河内沢を登路とした。日帰りのため最短時間で頂上に立つためだ。林道をスキーでいく。1時間程で尾根に取付く。見た目より意外と急だ。もう1パーティもほぼ同時に取付いた。昨日は雨だったとのことで、また風がとても強いために、雪の表面が非常に堅くなっていてシールが利きにくい。スキーアイゼンを付けている明美さんだけはらくらくと登っているが、後の三人は厳しい。ついには諦めてスキーを脱ぐ結果となってしまった。しかし風は強いがなかなかの好天で、左の尾根から登ってくるパーティも良く見えるし、振り返れば苗場のスキー場が小さくなっていく。狭いスキー場でしか滑ったことの無い人にはこの開放感を味わえないと思うと少しは優越感にひたれるかな。
 稜線に出たところがちょうど小屋のあるところで頂上まで1時間といったところか。休憩の後再びスキーを履いて出発だ。尾根の方向の関係か、シールが今度は良く利いてくれる。既に頂上を踏んだ先行パーティは滑降に移り、僕達に向かって滑ってくる。雪はかなり堅い様子だ。傾斜の増した尾根を詰めたところが頂上だ。昨年敗退した所が本当に頂上直下だった事が分りとても残念な事をしたと思った。
 目指す平標沢は山の北側になり、一面にガスが掛かりはっきりと見えない。安全を期して西に少し下った所より沢に滑り込むことにした。
 思い切って滑り込んだのは良かったが、雪面の余りの堅さに驚き焦ってしまった。とてもスキーで滑るような状態では無く、エッジが全く利かない。もし転倒したら絶対に止まらない。リーダーとしての自分の甘さを後悔した。
 ともかく安全な所まで移動しないと仕方ないので、意を決して進む事にした。横滑りで慎重に進むがやはり無理で全員転倒という結果となった。しかし、幸運なことにすぐ下に雪の柔らかな所があったために大事に至らなかった。リーダーとしては冷汗ものだ。
 この周囲の景観は何とたとえ難い程に美しかった。特に太陽の光に輝く雪面とその中に在る樹木のコントラストの見事さは筆舌につくしがたい。
 そんな美しさも束の間で、沢の高度が失われて行くにつれて待ち構えるのは上越特有の思い湿雪だった。辺りにはガスがたちこめて前途が不安となる。ともかく2万5千の地図の縦を貫く程距離のある沢なので慌てずに行くことにした。スキーの本当の実力はこのような条件の時に出るものだろうか。今井君・章子さん・明美さんにしてもゲレンデではかなりの実力の持主でも、この様な所ではなかなかうまくは滑れない。僕も全く同様だ。傾斜は全く怖いとは思わないが、新雪やデブリの上を行くのは容易ではない。
 下流に行くにつれて、何箇所も雪が切れていて、水が出ていた。やはり今年は雪が少ないのかと改めて感じさせられた。そのぶん進むのに苦労したが、幸いに一度もスキーを脱ぐことなく滑る事ができた。群馬大学の小屋が見えたときには思わず「長かった」と声が出てしまった。
 小屋からは再び林道を滑走したが、傾斜がないので締具のかかとを開放してクロスカントリー風に滑ってみるものの、なかなか旨く行かない。それでも1時間程で関越自動車道にでてようやくスキーを脱ぐことが出来た。
 今回はスキーの実力には何の問題も無い人ばかりのパーティだったので目的を達成出来たと思う。リーダーの僕が途中で気分を悪くしてしまい、皆には迷惑をかけたりしたが、一応満足行く山行だった。

〈コースタイム〉
元橋 →3時間30分→ 平標小屋 →30分→ 平標山 →3時間→ 土樽


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